結婚…以前は決定的な内容は話してなかった。でも今の悟の口調はプロポーズさながらで、嬉しい反面、戸惑いがあった。

「私で…大丈夫なのかな」

今更だけど、私なんかが悟に釣り合うのか心配になる。
呪術界という世界のことを何にも知らない人間で大丈夫なのかという不安もある。
悟がどれほど凄い術師かということも高専にお世話になっている時に生徒さん達が教えてくれて初めて知った。
生まれた時から特別な存在で、世界のバランスを変えてしまうほどの力があって、命を狙われる立場なのに、それを物ともしない性格と能力の持ち主。
この国の人間は悟に守られてるんだって。
信じられないというか、スケールが大きすぎて想像できない。

彼の隣にいるべきは、私ではないんじゃないだろうか。

でも彼は寿命を削って私を救ってくれた。それに釣り合う様な物は何も持ち合わせていないけどせめて一生、この身を捧げるくらいはさせて欲しい。例え公的な立場でなくとも。
例え人の道を外れた方法であっても。幸い私はそのやり方を身をもって知っている。

「ゆりは結婚したくない？」
首を振って否定する。

「一緒に居たい。私も悟を守ってあげたい」
それが正直な私の気持ち。

まだ少しの間だけど一緒に居て感じた事がある。高専の人達が言うような"五条悟"は少し作り物のような違和感が私にはあった。当然、術師としての活躍を目の当たりにしてる訳じゃないから全ては分からないけど、彼だってまだ20代の"人間"なんだって。

私の答えを聞いた悟は一瞬驚いて目を見開くと、その後くつくつと笑い出した。
「ごめんごめん、守りたいなんて言われたの初めてでさ」

「私は呪術師の"五条悟"と結婚したい訳じゃないよ」

狐に摘まれたような顔をして、それから今度は口元だけで笑う。

「分かった。ゆりが元気になったら、心配事を片付けていこうか。今はまだ体を治すことを考えて」

確かに動けるようになるにはもう少しかかる。髪を撫でてくれる大きな手を、目を閉じて感じながら、いつかもそうだった様に現実逃避する。