久しぶりに傘をさした。

ふらっと入った和菓子屋でうぐいす色の作務衣と腰に短いエプロンを掛けたスタッフの女の子が貸してくれた物。

雨の中傘もささずに歩いて来て、少しも濡れてない僕を変な目で見てたけど、笑顔の綺麗な子だった。
和菓子屋に勤めてるだけあって落ち着きのある実年齢より大人びた感じに見られる人って印象。完全に僕の偏見だけど。

まぁその彼女が店を出る時にビニール傘を渡してきて、要らないけど受け取ってしまった事、
返さなくていいと言われたけど「またくるよ」と口をついて出てしまった事に頭の中で2人の僕が会議を始めるほど自分の行動が信じられなかった。

これは多分一目惚れってやつ。
上目遣いで傘を差し出す彼女をサングラス越しでは満足できずに、この目で直に確認する。
やっぱり可愛いし、綺麗だ。

彼女が貸してくれた傘をさして、雨の当たる様子を楽しみながら、また会う口実も出来て気分良く店を後にした。


「先生、傘さしてどったの？」
「ホント、雨あがってるわよ」

「え？」
久しぶりに傘で受けた雨粒はいつのまにか乾き出してきていた。