夜までって、意味分かってんのかな…

もし本当に夜まで過ごしたなら、彼女は僕に身を委ねてくれるんだろうか？

「じゃぁ今度はちゃんと夜まで空けておかないとね」

「今度…」

彼女は恥ずかしそうに下を向いたけど、決して消極的じゃ無い。次もある、と確信してしまう。
話をしているうちに料理も運ばれてきて、気を取り直した様に彼女がまた笑ってくれたからホッとした。

和食とフレンチを融合したようなここの創作料理も気に入ってくれて良かった。
僕と同じく甘党の彼女は、甘いものはいくらでも食べれると言って、3種類のデザートは小さな口にあっという間に消えていった。

しかも彼女は良家のお嬢様のようにテーブルマナーも完璧で、若いのにこういうお店に慣れてるのかと、勝手に彼女の隣にいた誰かに嫉妬してしまう。
「ゆりは…今まで何人と付き合ったことあるの？」
聞きたくないけど、気になって聞いてしまった。
「1人です」

「1人だけ？」
多くても嫌だけど、1人ってのも引っかかる。それだけ続いていたのか…引きずっているのか…。

彼女の表情はどこか寂しそうで、何かを抱えている様だった。今度こそ聞きたくない。
聞きたくないって…

「私、悟さんとこうして会ってもらえて、凄く嬉しかった。仲良くなる前に言わなきゃと思ってたけど私…」
「何も言わなくていいから。」
自分でも思ったより低く威圧的な声が出てしまって彼女の肩が跳ねた。

どんな話であろうと、いい方向な訳ないことくらいは分かる。
じゃあこのまま知らなくていい。
彼女がそのことを気負っていようと、今は会えなくなる事は避けたい。
勝手だけど、後でなんとでもしてあげれると思ったから、話そうとしてくれた彼女の言葉を遮った。

「また今度、ゆっくり時間がある時に話してくれる？ゆりが何を背負ってても、僕が助けてあげる」

仕事を理由に逃げる事になるなんて、卑怯だな。

「ありがとうございます。」
言葉とは裏腹にあまり期待していない様な目を向けられた。