短編
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その年の12月7日もいつもと同じ、昼間も本格的に冬の装いになってきて、ストーブがいる寒さだった。
数年前からその日は特別な日だった。
何の記念日でもない、用事があるわけでもないけど、朝起きて背筋が伸びる想いがする。
毎日同じ朝ごはんを食べて、仕事に行く。
一年前ほど前に離婚してからは自分の好きな物に囲まれて、好きに生きてきた。
そうやって自分を満足させないと、やってはいけない事をしてしまいそうで…
特に12月7日 は。
あの時素直にならなかった事を後悔しているからか、今はその後悔を取り戻すかのように自分勝手だ。
写真の1枚も、愛してるのメールも手紙も何もない。
純粋すぎた彼との恋が、未だに忘れられなくて、旦那の浮気が分かった時、離婚を即決した。
だからこの日は期待してしまう。
何かあるわけでもないのに、いつもより着飾って、少し違う道を歩いて帰る。
以前住んでいた家の近くまで。
でも、裏切った私にはそんな甘い夢は訪れない。
*・*・*・*・*・*・*
今年も1人で年越しを過ごそうと、少し足を伸ばしていつも行かない街中まで買い出しに出かけた。
この辺りはいつもこうなんだろうなと、人混みを抜けて少し疲れた足を休めようとカフェに入った。
クリスマス限定メニュー!本日まで!
とメニューに書かれた文字を見て、やっと今日がクリスマスだったということに気がついた。
だからこんなに人が多いのか…
でもこのお店は比較的空いていて、窓際のカウンター席に座って、ホットコーヒーで冷えた体を温めていた。
クリスマスか…
幸せそうに歩く恋人達を眺めながら、もう一生、自分には関係ないのだと思って俯いた。
普通に考えて、離婚してもまた恋愛はできるだろうし、もう独り身が楽だと諦めているわけでもない。
自分が一番分かってるから辛い。
仮に好きな人が出来て、付き合ったとしても、あの人は超えられない。
だからきっと続かないだろうし、ずっと嘘をついて自分を誤魔化して生きるのは無理だとわかっているから、進めない。
五条くん、、、私はあの短い思い出で、これから生きていけると思っていたんだよ。
それくらい特別で、幸せで、愛してた。
でもやっぱり
「会いたい」
*・*・*・*・*・*・*
一人寂しく、クリスマスを終えて、仕事も休みに入った。
正直言ってお正月休みはいらない。
単発でバイトでもしたいくらい、ゆっくり過ごすのが怖かった。
だからといって人混みに出掛けるのも避けたい。
仕方なくこれでもかってくらい大掃除をして、自分の為にごちそうを作った。
「デザートがないなぁ」
クリスマスにケーキを食べ損ねていた私は今年最後のケーキを買いに出掛けた。
夕方のこの時間帯でももう薄暗く、帰る頃にはきっと真っ暗だ。
1人で食べるには多過ぎるケーキを買って、思い出す。
五条くんは甘いのが好きだったな。
ご飯の後には必ずデザートを注文して、お互いに一口づつ分け合って食べた。
今日買ったケーキも2人ならペロリと食べてしまうだろうな。
『一緒に食べていい?』
知ってる声だった。
声が聞こえた方を向くと、そこには見覚えのある景色があった。
ここは…この公園は…
「なんで…」
そこにはあの頃のままの、制服でサングラスで、白い髪。
その隙間から青い瞳の光が漏れる。
冷静に考えれば、帰り道にあの公園はないし、彼はもう学生じゃない。
だけどこの時の私はそんな事にすら気付けずにいた。
会いたくて、会いたくて堪らなかったから。ずっと…
「五条くん!」
手を伸ばしたら届く。
何度も夢に見た、その人に。
でも彼の服に触れたはずの私の手は空を切って、周りの異変にやっと気がついた。
そこは呪霊の生得領域だった。
呪霊については五条くんから色々教えてもらっていた。私は少し呪力が分かる人間らしい。だから呪霊も見えるし、そういう人は狙われるから気をつけてと。
こういう空間に入るのは初めてだったけど、何となくもうダメだという事は察せていた。
今までの追いかけてくるような怖いのとはレベルが違う。
それにしては不思議と落ち着いていた。
もうこのままどうなってもいいか…未練はあるけど、それは成就する事ない願いだから。これ以上生きてても多分苦しいだけ。
きっとここで死んだら、五条くんと同じ仕事をしている人に見つけてもらえる。
そしたら霊体になった私はその呪術師さんにそのまま憑いて行って、五条くんに会えたりしないかな。
そんな馬鹿げたことを考えていると、涙が流れた。呪霊が見せた虚像で舞い上がって、それがニセモノと知って、自暴自棄になって…
最後まで五条くんを愛してる事にホッとした。だから…
「さよなら」
目を閉じて、心の中の彼に別れを告げた。
「それ、ちゃんと持っててよ」
私はまだ幻覚を見てるのかな。
「僕の分もある?ゆりさん」
その幻覚は、呪霊の気配が消えても
私の前で変わらず微笑んでくれた。
FIN.
数年前からその日は特別な日だった。
何の記念日でもない、用事があるわけでもないけど、朝起きて背筋が伸びる想いがする。
毎日同じ朝ごはんを食べて、仕事に行く。
一年前ほど前に離婚してからは自分の好きな物に囲まれて、好きに生きてきた。
そうやって自分を満足させないと、やってはいけない事をしてしまいそうで…
特に
あの時素直にならなかった事を後悔しているからか、今はその後悔を取り戻すかのように自分勝手だ。
写真の1枚も、愛してるのメールも手紙も何もない。
純粋すぎた彼との恋が、未だに忘れられなくて、旦那の浮気が分かった時、離婚を即決した。
だからこの日は期待してしまう。
何かあるわけでもないのに、いつもより着飾って、少し違う道を歩いて帰る。
以前住んでいた家の近くまで。
でも、裏切った私にはそんな甘い夢は訪れない。
*・*・*・*・*・*・*
今年も1人で年越しを過ごそうと、少し足を伸ばしていつも行かない街中まで買い出しに出かけた。
この辺りはいつもこうなんだろうなと、人混みを抜けて少し疲れた足を休めようとカフェに入った。
クリスマス限定メニュー!本日まで!
とメニューに書かれた文字を見て、やっと今日がクリスマスだったということに気がついた。
だからこんなに人が多いのか…
でもこのお店は比較的空いていて、窓際のカウンター席に座って、ホットコーヒーで冷えた体を温めていた。
クリスマスか…
幸せそうに歩く恋人達を眺めながら、もう一生、自分には関係ないのだと思って俯いた。
普通に考えて、離婚してもまた恋愛はできるだろうし、もう独り身が楽だと諦めているわけでもない。
自分が一番分かってるから辛い。
仮に好きな人が出来て、付き合ったとしても、あの人は超えられない。
だからきっと続かないだろうし、ずっと嘘をついて自分を誤魔化して生きるのは無理だとわかっているから、進めない。
五条くん、、、私はあの短い思い出で、これから生きていけると思っていたんだよ。
それくらい特別で、幸せで、愛してた。
でもやっぱり
「会いたい」
*・*・*・*・*・*・*
一人寂しく、クリスマスを終えて、仕事も休みに入った。
正直言ってお正月休みはいらない。
単発でバイトでもしたいくらい、ゆっくり過ごすのが怖かった。
だからといって人混みに出掛けるのも避けたい。
仕方なくこれでもかってくらい大掃除をして、自分の為にごちそうを作った。
「デザートがないなぁ」
クリスマスにケーキを食べ損ねていた私は今年最後のケーキを買いに出掛けた。
夕方のこの時間帯でももう薄暗く、帰る頃にはきっと真っ暗だ。
1人で食べるには多過ぎるケーキを買って、思い出す。
五条くんは甘いのが好きだったな。
ご飯の後には必ずデザートを注文して、お互いに一口づつ分け合って食べた。
今日買ったケーキも2人ならペロリと食べてしまうだろうな。
『一緒に食べていい?』
知ってる声だった。
声が聞こえた方を向くと、そこには見覚えのある景色があった。
ここは…この公園は…
「なんで…」
そこにはあの頃のままの、制服でサングラスで、白い髪。
その隙間から青い瞳の光が漏れる。
冷静に考えれば、帰り道にあの公園はないし、彼はもう学生じゃない。
だけどこの時の私はそんな事にすら気付けずにいた。
会いたくて、会いたくて堪らなかったから。ずっと…
「五条くん!」
手を伸ばしたら届く。
何度も夢に見た、その人に。
でも彼の服に触れたはずの私の手は空を切って、周りの異変にやっと気がついた。
そこは呪霊の生得領域だった。
呪霊については五条くんから色々教えてもらっていた。私は少し呪力が分かる人間らしい。だから呪霊も見えるし、そういう人は狙われるから気をつけてと。
こういう空間に入るのは初めてだったけど、何となくもうダメだという事は察せていた。
今までの追いかけてくるような怖いのとはレベルが違う。
それにしては不思議と落ち着いていた。
もうこのままどうなってもいいか…未練はあるけど、それは成就する事ない願いだから。これ以上生きてても多分苦しいだけ。
きっとここで死んだら、五条くんと同じ仕事をしている人に見つけてもらえる。
そしたら霊体になった私はその呪術師さんにそのまま憑いて行って、五条くんに会えたりしないかな。
そんな馬鹿げたことを考えていると、涙が流れた。呪霊が見せた虚像で舞い上がって、それがニセモノと知って、自暴自棄になって…
最後まで五条くんを愛してる事にホッとした。だから…
「さよなら」
目を閉じて、心の中の彼に別れを告げた。
「それ、ちゃんと持っててよ」
私はまだ幻覚を見てるのかな。
「僕の分もある?ゆりさん」
その幻覚は、呪霊の気配が消えても
私の前で変わらず微笑んでくれた。
FIN.