短編
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同級生と結婚して、子供はまだいないけど、仕事もそこそこ頑張って、私は平凡な普通の人生を送って過ごすんだと思ってた。
特に刺激的な事がある訳じゃない、でも不幸とは言えない、毎日同じ事の繰り返しだった。
だから彼と出会って、許されない恋に身を投じていたあの日々は今では夢だったんじゃないかと思うほど、現実離れしていた。
*・*・*・*・*・*・*
その日は忘れもしない12月7日。
人通りの少ない夜道で
五条くんと出会った。
昔からお化けみたいなものが時々見えた。何もしてこないやつもいれば、追いかけてくる怖いのもいた。
その日は後者で、寒空の下を必死で走ってそのみんなには見えない恐怖から逃げていた。
「も…無理っ…」
しつこい追尾に体力の限界がきて足がもつれる。目の前に地面が迫った時、ふわっと体が宙に浮いた。
「おねーさん、大丈夫?」
「え…あ、ありがとう……あっ!あいつは…」
状況整理が追いつかない中、後ろを振り向くとお化けは霧のように消えていったところだった。
「呪霊なら祓ったよ。怪我してない?」
ゆっくり地面に足をつく私の手を取って支えてくれる、制服を着た高校生くらいの男の子。背が高くてシュッとしてて、なぜかサングラス姿。そしてなぜか可愛らしいリボンのついたくまのぬいぐるみを抱えている。
ジュレイって…?この子が消したの?
どこからつっこんだらいいのかと困惑していると目の前にくまを突き出され、思わず受け取るとひょいっとまた体が浮く。でも今度はちゃんと腕の中に抱えられている。
歩けないと思われたんだろうか、家まで連れて行ってくれると言うので甘える事にした。
歩けない事はないけど全力疾走でヘトヘトだったし、また襲われたらと思うと怖くて一緒にいて欲しかった。
それに華奢だと思ったこの彼は意外にガタイが良くて安心感に包まれる。
「助けてくれてありがとう。あの、あなたは?」
「五条悟」
無愛想ながらも答えてくれて、ホッとする。
「五条くん…このくまさんは…?」
「あー今日誕生日だから、同級生がくれたんだよ」
「え?今日?おめでとう!何歳になったの?」
年頃の男の子らしく照れながら、18になったと教えてくれた。
何かお礼とお祝いをしてあげたかったけど、誕生日の夜だし引き止めるのも悪い。
家まで送り届けてくれた五条くんにもう一度お礼を言って別れた。
これが初めて五条悟と出会った夜の話。
*・*・*・*・*・*・*
年の瀬が近づいてきていた頃。
その日は旦那の帰りが遅くなるから夕飯に惣菜を買って帰路についていた。
五条くんに会ったあの日からいつもの道を通っても怖いものに遭遇する事はなかった。
でもその日、帰り道で遭遇したのは…
「あれ…五条くん?」
こんな何もない住宅街の小さな公園の前にしゃがみ込んでいた彼に声をかけた。
「こんなとこでどうしたの?冷えちゃうよ」
「会いたくて待ってた」
立ち上がって私を見下ろす瞳は冗談なんかじゃないと一目でわかった。
警告されているかのように鼓動が早まる。真冬の夜、さっきまで寒さに震えていた体が汗ばむほどに体温が上がっている。
分かっていたんだ。最初に会った時に許されない感情を抱いてしまった事は。
それは二度と会うことは無いと思っていながらも、消せずに胸の中に残っていた。
「今日ね、ご飯1人なの。一緒に食べる?」
何も期待してなかったと言ったら嘘になる。でも特別な関係になりたくて誘ったわけじゃない。
ただ少し彼を知りたかった。最初はそれだけだった。
五条くんは頷いて、1人で帰るはずだった道を2人で並んで歩く。
「名前、教えて?」
「あぁ、私はゆり」
そういえば名乗ってなかったな。
「ゆりさん…」
私の名前を呼ぶ和らいだ声とこの時初めて見た五条くんの笑顔は今でも、鮮明に思い出せる。
それから先の出来事は夢のようにフワフワしている。
一緒にご飯を食べながら、初めて会った時の話、呪霊の事、呪術の事なんかを教えてくれた。
これは浮気じゃない、助けてくれたお礼だって自分に言い聞かせる程に後ろめたさが募っていって、もうこれがただの厚意ではない事を示していた。
五条くんとの時間はあっという間に終わった。旦那が帰ってくる前に帰ってもらわないといけない。最低だと自分が嫌になる。
それなのに五条くんは嫌な顔一つしないで、さっさと帰り支度をして玄関の戸の前でここでいいよと笑ってくれた。
「また会ってくれる?」
「…五条くん…」
もうこれ以上は関わっちゃいけない。
そう言いたかったけど、彼の瞳は吸い込まれそうな青。見つめられると本心を見抜かれそうで、目をそらしたまま口を開いた時、五条くんの唇が優しく触れた。
「メールするから。おやすみ」
*・*・*・*・*・*・*
会う時は仕事を休んで、少し離れた場所まで食事に行く。
でもその先にはやっぱり踏み入ることは出来ないまま夏になった。
[今度の日曜日、家にこれる?]
ちゃんと終わらせるにはここが一番いい。
日常に見張られながら、夢の中から引き戻してもらう。
つもりだったのに。
「ゆりさん、好きだよ…」
勘がいい五条くんは私の態度がいつもと違うとすぐに気づいて、話を切り出す隙を与えてくれなかった。
ソファの上で見上げた五条くんは、もう別れを悟っている表情だった。
でもそれに抗う様に軽く触れるキスと好きを繰り返し囁いてくれる。いつも通り彼の唇は瑞々しくて、果実のように甘い。
「五条くん…」
彼はまだ子供なのに、触れられると熱を帯びていく身体はそれを忘れさせる。
「ダメだよ、"好き"なんて軽々しく言ったら」
彼の口から出た言葉が軽くないことくらいもう分かっている。でも笑って誤魔化した。自分の言葉に胸が痛む。
「ゆりさんは僕の事好きじゃないの?僕が学生だから?」
否定したい。
私を抱きしめて切なそうに問う彼を全部受け入れたい。
無責任に愛し合って、一緒に堕ちていって欲しい。
「そうだね。これ以上はもうダメ」
「…嘘」
さっきまでとは違う低い声で本心を言い当てられ、心臓が締め付けられる。
「違う…」
自分に言い聞かせる様に呟く。彼の為にもこれ以上を望んだらダメだ…
それなのに…彼を押し返せない。
絹のような白髪を撫でて、唇を寄せた。
噛み付くような口付けに驚いた五条くんの頭を逃げられない様に抱えて、無理矢理舌を入れた。
エアコンの効いた部屋から外へ放り出されたように体温が急激に上がっていく。
彼の長い舌が口内に侵入してくるのを喜んで受け入れる。
ゆっくり絡み合う気持ちよさで体中が溶けそうだった。舌先が触れる度、酷く感じて甘い声が漏れる。
繰り返し角度を変えて交わりながら彼を記憶に焼き付ける。
本当はこのまま、ずっとずっと触れていたい。許されないと分かっていても、ひとつになりたい。五条くんが欲しい。
言葉に出来ない想いを唇から注ぎ込む。
これが私の精一杯の本心。
薄い唇を甘噛みして、長い口付けを終えた。
「大人になったら、迎えに行くから…その時は離婚してくれる?」
真っ直ぐ私を見つめる青い瞳を見つめ返し、嘘をついて、二度と会う事はしなかった。
特に刺激的な事がある訳じゃない、でも不幸とは言えない、毎日同じ事の繰り返しだった。
だから彼と出会って、許されない恋に身を投じていたあの日々は今では夢だったんじゃないかと思うほど、現実離れしていた。
*・*・*・*・*・*・*
その日は忘れもしない12月7日。
人通りの少ない夜道で
五条くんと出会った。
昔からお化けみたいなものが時々見えた。何もしてこないやつもいれば、追いかけてくる怖いのもいた。
その日は後者で、寒空の下を必死で走ってそのみんなには見えない恐怖から逃げていた。
「も…無理っ…」
しつこい追尾に体力の限界がきて足がもつれる。目の前に地面が迫った時、ふわっと体が宙に浮いた。
「おねーさん、大丈夫?」
「え…あ、ありがとう……あっ!あいつは…」
状況整理が追いつかない中、後ろを振り向くとお化けは霧のように消えていったところだった。
「呪霊なら祓ったよ。怪我してない?」
ゆっくり地面に足をつく私の手を取って支えてくれる、制服を着た高校生くらいの男の子。背が高くてシュッとしてて、なぜかサングラス姿。そしてなぜか可愛らしいリボンのついたくまのぬいぐるみを抱えている。
ジュレイって…?この子が消したの?
どこからつっこんだらいいのかと困惑していると目の前にくまを突き出され、思わず受け取るとひょいっとまた体が浮く。でも今度はちゃんと腕の中に抱えられている。
歩けないと思われたんだろうか、家まで連れて行ってくれると言うので甘える事にした。
歩けない事はないけど全力疾走でヘトヘトだったし、また襲われたらと思うと怖くて一緒にいて欲しかった。
それに華奢だと思ったこの彼は意外にガタイが良くて安心感に包まれる。
「助けてくれてありがとう。あの、あなたは?」
「五条悟」
無愛想ながらも答えてくれて、ホッとする。
「五条くん…このくまさんは…?」
「あー今日誕生日だから、同級生がくれたんだよ」
「え?今日?おめでとう!何歳になったの?」
年頃の男の子らしく照れながら、18になったと教えてくれた。
何かお礼とお祝いをしてあげたかったけど、誕生日の夜だし引き止めるのも悪い。
家まで送り届けてくれた五条くんにもう一度お礼を言って別れた。
これが初めて五条悟と出会った夜の話。
*・*・*・*・*・*・*
年の瀬が近づいてきていた頃。
その日は旦那の帰りが遅くなるから夕飯に惣菜を買って帰路についていた。
五条くんに会ったあの日からいつもの道を通っても怖いものに遭遇する事はなかった。
でもその日、帰り道で遭遇したのは…
「あれ…五条くん?」
こんな何もない住宅街の小さな公園の前にしゃがみ込んでいた彼に声をかけた。
「こんなとこでどうしたの?冷えちゃうよ」
「会いたくて待ってた」
立ち上がって私を見下ろす瞳は冗談なんかじゃないと一目でわかった。
警告されているかのように鼓動が早まる。真冬の夜、さっきまで寒さに震えていた体が汗ばむほどに体温が上がっている。
分かっていたんだ。最初に会った時に許されない感情を抱いてしまった事は。
それは二度と会うことは無いと思っていながらも、消せずに胸の中に残っていた。
「今日ね、ご飯1人なの。一緒に食べる?」
何も期待してなかったと言ったら嘘になる。でも特別な関係になりたくて誘ったわけじゃない。
ただ少し彼を知りたかった。最初はそれだけだった。
五条くんは頷いて、1人で帰るはずだった道を2人で並んで歩く。
「名前、教えて?」
「あぁ、私はゆり」
そういえば名乗ってなかったな。
「ゆりさん…」
私の名前を呼ぶ和らいだ声とこの時初めて見た五条くんの笑顔は今でも、鮮明に思い出せる。
それから先の出来事は夢のようにフワフワしている。
一緒にご飯を食べながら、初めて会った時の話、呪霊の事、呪術の事なんかを教えてくれた。
これは浮気じゃない、助けてくれたお礼だって自分に言い聞かせる程に後ろめたさが募っていって、もうこれがただの厚意ではない事を示していた。
五条くんとの時間はあっという間に終わった。旦那が帰ってくる前に帰ってもらわないといけない。最低だと自分が嫌になる。
それなのに五条くんは嫌な顔一つしないで、さっさと帰り支度をして玄関の戸の前でここでいいよと笑ってくれた。
「また会ってくれる?」
「…五条くん…」
もうこれ以上は関わっちゃいけない。
そう言いたかったけど、彼の瞳は吸い込まれそうな青。見つめられると本心を見抜かれそうで、目をそらしたまま口を開いた時、五条くんの唇が優しく触れた。
「メールするから。おやすみ」
*・*・*・*・*・*・*
会う時は仕事を休んで、少し離れた場所まで食事に行く。
でもその先にはやっぱり踏み入ることは出来ないまま夏になった。
[今度の日曜日、家にこれる?]
ちゃんと終わらせるにはここが一番いい。
日常に見張られながら、夢の中から引き戻してもらう。
つもりだったのに。
「ゆりさん、好きだよ…」
勘がいい五条くんは私の態度がいつもと違うとすぐに気づいて、話を切り出す隙を与えてくれなかった。
ソファの上で見上げた五条くんは、もう別れを悟っている表情だった。
でもそれに抗う様に軽く触れるキスと好きを繰り返し囁いてくれる。いつも通り彼の唇は瑞々しくて、果実のように甘い。
「五条くん…」
彼はまだ子供なのに、触れられると熱を帯びていく身体はそれを忘れさせる。
「ダメだよ、"好き"なんて軽々しく言ったら」
彼の口から出た言葉が軽くないことくらいもう分かっている。でも笑って誤魔化した。自分の言葉に胸が痛む。
「ゆりさんは僕の事好きじゃないの?僕が学生だから?」
否定したい。
私を抱きしめて切なそうに問う彼を全部受け入れたい。
無責任に愛し合って、一緒に堕ちていって欲しい。
「そうだね。これ以上はもうダメ」
「…嘘」
さっきまでとは違う低い声で本心を言い当てられ、心臓が締め付けられる。
「違う…」
自分に言い聞かせる様に呟く。彼の為にもこれ以上を望んだらダメだ…
それなのに…彼を押し返せない。
絹のような白髪を撫でて、唇を寄せた。
噛み付くような口付けに驚いた五条くんの頭を逃げられない様に抱えて、無理矢理舌を入れた。
エアコンの効いた部屋から外へ放り出されたように体温が急激に上がっていく。
彼の長い舌が口内に侵入してくるのを喜んで受け入れる。
ゆっくり絡み合う気持ちよさで体中が溶けそうだった。舌先が触れる度、酷く感じて甘い声が漏れる。
繰り返し角度を変えて交わりながら彼を記憶に焼き付ける。
本当はこのまま、ずっとずっと触れていたい。許されないと分かっていても、ひとつになりたい。五条くんが欲しい。
言葉に出来ない想いを唇から注ぎ込む。
これが私の精一杯の本心。
薄い唇を甘噛みして、長い口付けを終えた。
「大人になったら、迎えに行くから…その時は離婚してくれる?」
真っ直ぐ私を見つめる青い瞳を見つめ返し、嘘をついて、二度と会う事はしなかった。
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