電車は学校の最寄駅に到着した。私はタクシー乗り場に向かって歩き出した。

（あれ…？あの車って…）

やっぱり補助監督の使う車が停まっている。

「お疲れ様です。」
そう言いながら運転席の窓をコンコンと叩く。

休暇中ではあるが挨拶して気を悪くする人はいないだろう。

でもそこにいたのはそんな気構える必要のない人物だった。パワーウインドウが下りて高専の同期、現在補助監督の伊地知が顔を出した。

「なんだ。伊地知、どうしたの？」

「ゆりさんを待ってたんですよ。乗って下さい。」
同期なのに敬語なのは別に私を怖がってるわけでは無い。多分。
「ラッキー！でも伊地知、個人的な用事で五条さんに使われすぎじゃない？可哀想。」

「…？　個人的な用事もまぁありますけど、今回は任務ですから当然です。」

なんだか話が噛み合わない。誰かと間違えてんのかな？
「は？？任務…？だれが？」


「五条さんから任務内容を聞かされてないんですか…可哀想に」


「えっ、だって、旅行行くって…2人で…」

期待を裏切られたショックでだんだん小さくなった声に伊地知が大丈夫かと聞いてくる。

返答出来る感じではない事を悟ったのか、伊地知は何も悪くないのに謝罪の言葉をかけられた。

こんな落ち込むとか、自分でもびっくりする。もう忘れてると思ってた。昔の事だって、思ってた。

今まで鍛えてきたのは別に五条さんの為ではない…はずだった。
でもずっと期待してたんだ。いつか役に立ったと言われる事を。五条さんにとってそんな術師は存在しない事、分かっているのに。

五条さんにフラれたあの時から術師として認められ、必要とされる事が私の全てになっていった。だからもう、恋とか愛とかそんな邪魔なものは何処かに仕舞い込んでいたはずなのに。

まだ好きだったのか、あの頃からずっと…


「ねぇ伊地知、一発、殴ってもいいよね？」

「ええ、賛成します。」

どこか人ごとで面白がってる伊地知の返答と同時に車は目的地に到着した。