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造花の花びら

「死人に口なし。」
先日、死んだ仲間に対し陛下がこぼした言葉だ。
何も訴えることができない《それ》と言葉の意味に私は1人納得した。
だが、どうだろうか。彼女の背中を見ながら歩いた先で私はひどく死人を羨ましいと思うのだ。
彼女に愛される口のない死人を……

新雪により地面にすこし厚みが増した朝方、コートを着た彼女が寮から出てきた。両腕には港町で買ってきたという造花の花束が抱えられている。
彼女は私を見つけると「おはようございます」といつものように笑うことなく軽く会釈をし、歩き去る。それに続くように私は彼女の背中を追いかける。
彼女は決まってこの時間に造花の花を持って外に出る。それに同行するのは私の日課だった。
「マスターの安全のため」を口実に私は彼女のことを知りたかった。
その花の行き先は---
何を思って---
誰のために---
こんな事など最初は気にかけなかったのに、一つ彼女に踏み込んで仕舞えばもう後戻りはできなかった。

私は彼女に深く沈むほど、苦しくなった。

私は彼女を愛してる。
勝負はとうの昔についていて私だけが戦場にいる。それでも、私は彼女の背を追いかける。私が貴方を知りたいから……

基地から少し離れた丘を越え、その先に彼女の目的地はあった。
そこはもう誰も近寄らなくなってしまった教会。
壁の傷や汚れからここで激しい戦闘があったことを察することができた。
彼女はためらうことなく扉を開き、祭壇前に移動すると昨日置いた造花と置き換えるように今日の造花を置き直す。

「もうよろしいんですか」
しばらくの黙祷の後、彼女は教会の端にいた私の元に歩いてきた。私の言葉に一つ頷くと教会を出て行こうとする。
「ここには誰が眠るのですか」
出て行こうとする背中に問いかける。
造花の花言葉は「偽りの愛」と「変わらぬ愛」
その花束を毎日受け取る、その人物はどんな……
帰ってきた答えは「私の愛おしい人」
ただ、シンプルな答えだった。
それでも、私の心臓を抉るには十分な刃だった。



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