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Aphoniaの霧




ナポレオンは疑問だった。
貴銃士達のマスターである女は何故レジスタンスにいるのか。
女は戦う意思を持ち、共に切磋琢磨しあうこの環境の中で異物。1人だけ、抵抗の意思なく生活している。

いわば女は一緒に戦う同士ではなく、王が守るべき民だった。
戦う意思がない女を戦場に置くべきではない。平和に静かに暮らすのが女のためであり、ナポレオン達のためだ。


ナポレオンは女のことを考え、結論に至った。それからの彼の行動は早かった。
恭遠のいる作戦室に向かい、開口一番。
「彼女はここにいるべきじゃない」と。
作戦室にいた恭遠とシャルルヴィとブラウン・ベスは、彼の登場に困惑し、口を開けたまま動きを止めた。
作戦室に静かな空気が流れる。
最初に我に返ったのは恭遠だった。
「彼女ってメディックのあの子の事かい?」
「それ以外に誰がいる」
「ここにいるべきじゃないって……
どういうことですか」
シャルルヴィルは動揺していた。
彼のニュアンスから
---ここを離れさせられるのではないか
---マスターともう会えないんじゃないか
そういった予想がシャルルの頭をかき乱す。
どうか、自分の杞憂であってほしいと願う。

「彼女に世界帝軍への抵抗心はない。
では、なぜあの者はこの基地にいる。」
「それは、彼女だけが貴銃士を目覚めさせられるから大きな戦力に……」
恭遠が話す声を遮り、ナポレオンは「それでは彼女はただの道具になってしまう。
恭遠、お前の意思ではなくとも」

恭遠は戦力として女をレジスタンスに連れてきた。だが、それだけではなかった。
全てを失った女になにか出来たら---
そんな正義感だった。
女の幸せを考えると無闇に「No」と言えず、
沈黙が続いた。
無言だった時間を終わらせるようにシャルルがひとつ言葉をこぼす。
「俺はマスターと離れたくない。」
静まり返った作戦室に本音をこぼす。
「僕はマスターの銃だ。
いくらナポレオンさんの話でも聞けない
どうしてもというなら僕はついて行く。」
「それは了承できない。
貴銃士を欠かせることは出来ない。
戦力が減っては、レジスタンスの戦いはつづく。そうなれば彼女もいつかは戦争に巻き込まれ死んでいく。」
ナポレオンとシャルルヴィルがお互いに目を離さず、睨み合う。
張り詰めた空気に恭遠はハラハラと焦る気持ちを押さえ、思案する。
ナポレオンの言うことは分からなくもない。
1人の人間の士気が大勢に大きな影響を与えることがある。だが、彼女を1人にするのは得策ではないと判断していた。
彼女1人の力により、貴銃士が目覚め、戦力になっている。その心臓たる彼女がいなくなれば、レジスタンスに抗する力は無くなる。厳しい戦いになる。
「俺はマスターをどこかに住まわせるのは賛成だ。」
ブラウン・ベスの言葉にシャルルが動揺をする。最初に目覚めた者同士、どこか否定してくれると期待をしていたのだろう。

ブラウンの言葉は「だけど……」と続けられた。
「だけど、マスターを1人にすることは出来ない。貴銃士じゃなくていい。マスターに護衛をつけてくれ」
お互いの話を妥協しあった案にナポレオンも賛成の色を見せる。シャルルも不満はあるようだったが渋々という形で了承した。

女はレジスタンスの基地から離れた港町外れの民家に住むことになった。
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