Short story
最近、彼女の隣にいると睡魔が襲ってくる。
仕事中はそんな事はない。
彼女と2人きりになるといつのまにか意識を手放してしまう。
「すみません。マスター
いつのまにか、また寝てしまいました。」
彼女の肩を借りて昼寝など、陛下が知ったら五月蝿そうだ。
「いえ、ラップさんが休憩してくださるのは嬉しいんですよ。貴方は忙しい身だから…」
彼女は私の前髪を左右にはらうと額にふれる。彼女はメディックとして心配をしている。誰にでも向ける慈悲と同じように俺にもそれを向ける。
それは私にとって黒い泥を生み出す原因だった。熱がないとわかると彼女は額から手を離し、笑った。誰にでも見せる笑顔を…
その笑顔を見た瞬間、黒い泥が私を蝕む気がした。
「マスター」
彼女に一歩近づき耳を隠していた左の髪をはらう。あらわになった耳の下に啄ばむようなキスを落とす。
この感情が何かは知っている。
この体を得てから勉強のため一通りの知識を得た。認めていい感情だろうか。物であるわたしが人間の女性に恋い焦がれるなど…
そんな事を考えながら文献を漁った。
唇を離すと顔を真っ赤にした彼女が涙をためて震えていた。
その姿を見て、怯えさせてしまったことによる罪悪感とわたしの存在を示せた高揚感で胸の泥が少し晴れた。
「すみません、マスター。
どうやら私は嫉妬深いようです。」
眠たくなるのは貴方のせいなのですよ。
愛しい貴方と一緒にいる事で安心してしまい、つい睡魔に負けてしまう。
我慢のできない私がいけないんでしょうが…
だけど、これからは貴方も共に眠ってほしい。私の胸の中で睡魔に負けて、落ちてきてほしい。
今のキスは宣戦布告。
物であっても愛おしいと感じた貴方を逃しはしない。
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