Short story
俺のマスターは慈悲深き天使だ。
基地でそんな話を聞いた事がある。
誰にでも手を差し伸べ、労わり、精神的にも肉体的にも癒し、救う。
メディックの仕事だけじゃない。
たまたま通りかかった大荷物を運ぶノエルとニコラの手伝いをしたり。
たまたま通りかかった腰の悪い老婆を家まで送る。
その慈悲深い手に俺も救われ、俺の高貴を見つけることができた。
多くの人を救い、導いたマスターは誇り高いと思ってる。
だけど最近、疑問に思う事がある。
マスターは誰に救われるんだ?
みんなが基地でマスターを探す中
俺はマスターを連れて倉庫部屋にはいった。
しばらくは見つからないだろう。
マスターを椅子に座らせ、外の音が聞こえないように耳を塞ぐ。
マスターは訳がわからないような顔をして「どうしたの?」と聞いた。
頼られる彼女は俺のマスターとして誇りだ。
いいマスターを持ったと思ってる。
だけど、たまにはマスターが普通の女に戻る時があってもいい。慈悲深き天使じゃなくて、自分だけに時間を使ったって罪じゃねぇ。
「アンタ、目にクマができてる。」
耳を塞ぐために当てた両手で上を向かせると彼女の顔がはっきり見えた。
俺の言葉に恥ずかしそうに目をそらす姿は普通の女じゃねぇか。
その姿に胸が締め付けられた。
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