断章Ⅰ
紅い鴉の夢主の名前
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深夜零時。悧塢はディーノに頼まれた仕事の為、とある屋敷内にて目的の人物の首を切り落としたところだった。
「…………残りは雑魚か……」
呟いて辺りを見回した視界にそれほど強い波動を持つ人間もおらず、かといって弱いからと見逃せば報復は必至だ。それ自体は別にいいのだ。数で押されたところで殲滅することに変わりはない。しかしその場合、確実に今の雇い主に迷惑がかかる。それだけは避けたかったためファミリーのボスを潰しても帰るに帰れないのだ。どこか一箇所に集めて一網打尽にするしかない。数が多いため時間がかかるなとため息を溢す。
「……最後に毒を撒けばいいか」
そんな事を呟いた矢先、少し離れた所で何かが落ちたような、正確には人間が転んで倒れたような音がした。
「く、来るな!! ぅわっ」
波動を探って状況を確認してみると、ファミリーの残党が一人を取り囲んでおり今にも袋叩きにされそうである。一般人のはずはないのでスパイか武具屋かヒットマンか。このタイミングで囲まれるのならばヒットマンの線が濃厚だが、それにしては弱すぎるだろうと袋叩きの現場へ駆け寄る。大きな鈍器を振り下ろされる直前であった。
「うわあああああ!! …………え?」
触れる寸前で鈍器をいなして弱い波動を持つ相手の前に立つと仲間だと思われ徐々に囲まれていく。面倒で思わずため息を吐きながら少年を振り返った。
「大丈夫? 君」
「は、はい!」
「き、貴様は盲目の鴉!!」
「五月蝿い、今取り込み中」
狼狽えながら怒鳴る男を見ずに銃を構えて眉間に銃弾を撃ち込む。抵抗する暇もなく事切れる様子にまわりは戦慄して銃声が響きだすが、黒い炎がそれらを[#ruby消滅_け#]していく。
「構わん! 女から消してしまえ!!」
「弱い犬ほどよく吠える……合図したら走ります」
「え……あ、はい!!」
呆けて遅れそうになる少年に声をかけて数人の首を切り落として道を拓いていき、四人目が地に伏したタイミングで走れと先導した。どうにかついて来ているのを確認しつつすれ違いざまにまた数人斬り伏せて門を目指す。
走り出してから一分足らず。開いていくばかりの距離にため息を吐いて仕方なく手を掴んで走りだすが、本当にヒットマンなのかわからなくなってきた。
「ここまでくれば平気かな」
「あ、あの!」
「何?」
「も、もう手……大丈夫です」
言われてから掴んだままだった少年の手に気付いてそれを離すと、「あの」と呼び止められて少年の口が音を紡ごうとした直後に携帯が鳴り迷うことなく取り出して通話ボタンを押した。
「何でしょう?」
『何でしょうじゃねぇよ。今どこだ』
「ディーノさんが言っていた、暇な時でいいから潰して欲しいファミリーの所です」
『……それ話したの昨日だぞ?』
「仕事は早いに越した事はありません」
『まあな。で? 報告は?』
「私が失敗するとでも?」
『だろうな。じゃあ早く帰ってこいよ』
「わかりました」
通話を切ってから毒薬入りの小袋を屋敷の中へと投げ入れそれを撃ち抜くと粉塵爆発を起こし毒を撒き散らす。辺りに残っている人間はこれで殲滅できるだろう。
「では、私は帰ります」
「はい……あのっ!!」
再び声をかけられて無言で振り返ると少年は緊張しているような雰囲気を纏っていた。確かにヒットマンなら初対面の人間は全て敵と考えてもいいだろうにあまりにも弱くて思わず助けてしまったため警戒しているのだろう。声を掛けられた理由はわからないけれど。
「き、今日は、ありがとうございました!! 俺、貴女に惚れました!! お名前は?」
「……本名は名乗れないけど、盲目の鴉とだけ」
「俺、愁之蔭って言います! また会えるといいですね!!」
「……そうですね」
弾んだ声に気の無い返事だけ残して踵を返すと綱吉が待つ屋敷へと足を向けた。戦闘能力のない、言ってしまえば自衛すら出来ない弱いヒットマンは張り合いがなくて好きになれなかったのだが、もう会うこともないだろうと強く拒否しなかった。後にこの考えが甘かったのだと嫌というほど思い知ることとなる。
「お前、今なんつった?」
屋敷に帰還してからボスの部屋で任務の報告をしていると不意にそう聞き返された。何故執務室ではなくボスの部屋なのかと尋ねるも「そうしたいから」と笑顔で返されて何も言えずにいる。
「弱い少年のヒットマンに気に入られて気分悪いです、と」
「……そいつお前に惚れたとか言ってなかったか?」
「そうですよ。よく分かりましたね」
「……お前意味分かってんのか?」
質問の意味がわからず綱吉の言葉に首を傾げる悧塢は言われた内容を反芻してみるが核心は得られない。
「〝惚れる〟って〝気に入った〟ってことでしょう?」
「……」
悧塢の見解を聞いて思わずため息を吐いた綱吉は彼女の知識の乏しさにこれは駄目だと呆れてしまい、悧塢に至っては己の見解を述べた途端にため息を吐かれてまた何か変なことを言ったのだろうかと不安げに首を傾げるのだった。
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