第5章
紅い鴉の夢主の名前
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「……んん、朝……?」
妙な寝覚めの良さと温もりを感じて瞼を持ち上げた悧塢は視界に広がるものに思考が停止した。
「あ、おはよ悧塢」
「………………」
視界を占めていたのは綱吉の顔。至近距離でなければ視界が埋まる事などない上に、寝起きに目の前にいるという事は同じベッドで眠ったことになる。何故。昨晩の記憶を手繰り寄せた悧塢の記憶が徐々に鮮明に繋がっていく。
「おーい、悧塢ー?」
「!! オハヨウゴザイマス……」
「……何でカタコト? もしかして照れちゃった?」
「……」
からかうつもりで放たれた綱吉の言葉に悧塢は無言で布団に潜り込む。当然そんな反応をされるとは思っていなかった綱吉は驚いたようにその様子を窺った。
「え、図星?」
「……昨晩の自分の発言を反省しているだけです……一人でいるのが嫌になったら呼んでほしいだなんて雇われている私が言っていい事じゃありませんから……」
弁明する悧塢は顔の半分だけを布団から覗かせて雇い主の反応を窺うが、言葉とは裏腹に耳まで羞恥で赤くなる様子に綱吉の顔もつられて赤く染まる。
「あーもー! お前可愛いすぎ!!」
「ひゃっ!?」
叫びながら抱き締める綱吉の行動が読めずに驚いて小さく悲鳴をあげた悧塢はここで雇い主を強く拒否していいものか迷って押し返そうと力を入れかけた手は添えるだけに留めてしまう。こんな事で解雇されては堪らない。
「……お前が可愛いからキスしたくなった。ダメ?」
「…………!? だ、ダメですよ!! 口付けは一番好きな人としかしちゃダメなんですよ!?」
「(なんで、そこだけ知ってるかなぁ)俺は好きだよ? 悧塢のこと」
「!? 会ってからそんなに時間経ってないのに何言ってるんですか!?」
「好きになるのに時間は関係ないんだよ」
何を言っても言葉を並べられて受け入れてもらえない悧塢はどうすればいいのか分からず軽いパニックを起こす。そんな彼女に興味本位で顔同士を近付けた綱吉は気付かれないのをいいことに唇を寄せた。軽くリップ音をさせて頬から唇を離し、どんな反応をするのかと至近距離で窺っていた綱吉が目を見開いて固まってしまった悧塢に微笑みかける。まだ状況を理解できていないようだ。
「………………え?」
「あ、つい。でも口じゃなかっただけ良かったと思えよ?」
「…………………………!?」
綱吉の発言で自分が何をされたのかを漸く理解して一気に赤面する悧塢はなんと言っていいのか分からず口を開いては閉じてを繰り返す。その表情を見て金魚のようだと綱吉は思わず笑みを深くした。
「かーわいー」
「な、なに、してるんですか!?」
「ほんと、何でこんなに可愛いんだよ」
「えっ、綱吉さん……?」
突然雰囲気が変わって抱き締める力が増した事に驚いた悧塢が一瞬身を硬くするも不安げに名前を呼んで様子を窺っている。その呼びかけには応えず綱吉は己の考えを伝えようと口を開いた。
「……なあ、悧塢、お前さぁ……」
「おいツナ、仕事サボって何してやがる」
言いかけた言葉は扉が開くと同時に聞こえた声に遮られ、振り返った綱吉は声の主であるリボーンに冷めた視線と舌打ちを送った。
「……ディーノが来てるぞ、支度しとけ。悧塢も獄寺が呼んでたから早く行ってやれ」
「は、はい!」
声を掛けられて綱吉の腕から抜け出した悧塢はリボーンの脇を通って部屋から出ていくが、すれ違いざまに彼女の頭を撫でる元家庭教師を睨む。睨まれた本人は気にした様子もなく腕を組んで大仰にため息をついて見せた。
「朝っぱらから何してやがる」
「……あいつが誘うようなことするから悪い」
「……知らねぇぞ? あいつは逃げようと思えばいつでも逃げられる。それくらい腕の立つやつなんだからな」
「……わかってる」
リボーンに言われてこの関係が細く切れやすい糸のような繋がりしかないという事を改めて思い知らされた綱吉は抑えられなかった己の欲求に自嘲めいた笑みを浮かべる事しか出来なかった。
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