第50章
紅い鴉の夢主の名前
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悧塢とのデート中に襲擊に遇って、少なからず、いや、かなりご立腹の綱吉はほぼ一撃で襲撃者達を伸していく。多少力加減が出来ていない気もしているが、それどころではなかった。
「ほんと! なんで今日なんだよ! せっかくのデートだってのに!」
周囲にはまだ十数人ほど居るだろうか。悧塢はヒットマンなだけあって相手の視界に入らないよう移動しながら隠れてくれている。そんな彼女が狙いを定め始めたので素早く移動して悧塢の腕を掴んだ。
「駄目だよ悧塢」
「! なんでですか!?」
「今日は普通の女の子なんだろ?」
「!」
「今日はヒットマンにはならせてあげない」
「でもっ!」
「普通の女の子なら、ここは大人しく守られてな」
「っ」
額に口付けて素早く相手の殲滅に掛かる。デートは台無しになってしまったが、ならば屋敷に帰って二人でゆっくりしながらさっきの返事を聞かせてもらおう。そう考えていると、表情を強張らせた悧塢が駆け出す姿が視界に入る。
「出るな悧塢!!」
思わず名前を叫んでしまったが悧塢は構わず銃弾を避けながら綱吉のもとへと駆ける。綱吉と合流して物陰に飛び込んだ悧塢と共に身を潜めつつ敵の位置を確認しながら綱吉は彼女へと視線を向けた。
「なんで……!」
「敵が近かったので逃げる名目でこちらに……あと……」
「ん」
「私を狙ってるのが何人か混ざってます」
「!」
「私が居たら綱吉さんの足を引っ張ります。戦わせてくださいっ」
「…………戦闘に向いてない格好してるんだ。絶対無理しないで戻ってこい。あんまり離れるのも駄目」
「! ありがとうございます」
「行ってこい」
素早く駆け出した悧塢を追った銃口の数と位置を確認して自分も炎の推進力で高速移動した綱吉は殺傷力の高い武器を持った相手から仕留めていく。敵の武器をくすねて的確に急所を狙う悧塢の手際の良さもありすぐに鎮圧したと思われたが、まだどこかに居るだろうと建物の屋上を見上げた瞬間視界に悧塢が駆け込んできた。
「綱吉さん!」
「!」
恐らく悧塢を狙っていたであろう銃口が綱吉に向いたことで慌てた彼女が飛び出したのだ。好機とばかりに銃口が悧塢を捉えるが即座に綱吉が彼女を抱き抱えて狙撃手の元まで炎の推進力で移動し手刀を食らわせるとあっさりと伸びてしまった。結局守られてしまったと綱吉を見上げた際に悧塢の視界に映ったのは彼女を庇った際に出来たであろう銃弾が腕を掠めた傷。
「綱吉さん……怪我……」
「かすり傷だよ」
「でも、綱吉さん避けられたのに、なんで……」
「好きな女の子くらい、死ぬ気で守るに決まってるだろ」
「!」
悧塢の顔に悲痛な色が浮かぶ。これを招いたのは自分なのだと、綱吉の腕に額を寄せてその手を両手で握り締めた。ふと、急に慌て出した悧塢がビルの壁面を駆け降りる。慌てて綱吉も着いていくと転びそうになりながら足元を見つめてうろうろして、体が反転した際に見えた表情は泣きそうに歪んで、その手は耳元に触れている。まさかと駆け寄って彼女の両手を捕まえれば片方の耳からイヤリングが消えていた。
「落としたなら買い直すから、このまま帰ろう」
「や、です、綱吉さん、探させてくださいっ」
「悧塢」
「だって、今日、くれたのにっ!」
「……次のデートでもう一度同じもの渡すんじゃダメ?」
「っ、でも……!」
違和感。綱吉から貰ったそれが大事なのだと伝わるのに、もう一度同じものをと言っても首を横に振られる。“今日、綱吉さんから貰ったから”大切なのだと訴えられて。何故そんなにも必死なのだと口を開きかけたタイミングで悧塢が脇をすり抜けて少し離れた地面にしゃがみこんだ。
「……あっ……」
手元を覗き込めば手のひらに乗せられたイヤリングは欠けていて。戦闘の際に踏まれたのだろうと肩に手を置いて慰めようとした瞬間、超直感が駄目だと告げる。悧塢が祈るように欠けたイヤリングを握り込んでその手が白い炎に包まれた。
「悧塢やめろ!!!」
悧塢の手首を掴んでこちらを向くように引き寄せれば、先ほど掠り傷になった腕にも触れられて冷や汗が止まらない。どうしてわざわざ白い炎を使ってまで直そうとするのかと顔をしかめればふっと微笑まれて悧塢が意識を失った。
「悧塢! 嘘だろおい!!」
意識を失って尚握り締められたイヤリングを恨めしげに見つめて。それでも失くさないようにと手のひらからするりと奪い取ってポケットへと滑り込ませ、悧塢を抱き上げると死ぬ気の炎で上空へと舞い上がった。
「武! クローム! お兄さん! 今屋敷向かってるから全員医務室で待機しててくれ!」
インカムの向こうで誰かが息を呑んだ。
屋敷に着いて急いで医務室に向かおうとした綱吉は突然足が縺れてしまい咄嗟に床に右手と左膝をついて悧塢を庇う。先ほどの戦闘で毒でももらったのか、だが敵の攻撃は悧塢を庇った際に出来たあの掠り傷だけだ。それも悧塢が白い炎で再生させてくれて。……再生しきれなかったのか、あんなに小さな傷ですら。
「っ、……悧塢っ……!」
「十代目!?」
獄寺の駆け寄る足音と声を聞いて、状況を説明しなければならないのに四肢から力が抜けて、悧塢に覆い被さるように意識を手放した。
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