第48章
紅い鴉の夢主の名前
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煙が晴れた先にはどこか呆然と立ち竦む見慣れたこの時代の悧塢がいて、思わず一歩彼女に近付く足音でこちらに気付いて振り向いた紅い瞳に嬉しさが込み上げその名前を呼んだ。
「悧塢っ」
しかし悧塢はこちらに伸ばそうと持ち上げかけた手をすぐに引っ込めて自分を掻き抱くようにして地に膝をついた。何事かと駆け寄って目線を合わせながら背中に手を添えるがこちらを見上げた瞳には涙の膜が張っていた。
「悧塢?」
「…………、……っ……」
「悧塢、何かあったのか? 怪我とかはしてないみたいだけど……」
「……つな、よし……さん……」
「……うん、俺だよ。大丈夫、帰ってきたんだ。此処はいつものボンゴレの屋敷だよ」
元の時代に戻ってきたのだと分かって緊張の糸が切れて腰が抜けただけなのだと思った。けれど見上げたまま大粒の涙を流す悧塢にそれだけではないのだと悟る。彼女を抱き締めながら背中を撫でて落ち着けようと試みるも全く効果は無いようで、過去で一体何があったのかと不安に駆られる。
その時、ほんの一瞬。悧塢の指がスーツの裾を握るもすぐに離れていってしまった光景に、過去の自分が何かしたのかと記憶を辿るがそもそもあの頃にイタリアへ来たことはなかったはずだ。では何が、彼女をここまで苦しめているのか。分からずただ抱き締めることしか出来なかった。
匿ってもらった白蘭にそろそろ時間だから幼い自分のために家にお帰りと送り出され数刻。ちゃんと甘えなよ、という言葉を貰い家の近くまで辿り着いた瞬間、唐突に煙に包まれ視界が白で覆われる。何事かと警戒するも薄れていく白から覗く景色は見知ったもので、元の時代に戻ってきたのだと窺い知れて、微かに聞こえた足音に視線をそちらへ向ければ、会いたかった姿が視界に入る。
ああ、戻ってきたのだ、そう考えていると知らぬ間に手を伸ばそうとしていて慌ててその手を引き寄せる。今は頼れない、いや、もう戻ってきたから頼っても、何を考えているのか、ヒットマンが頼ろうとするのは違うだろうと脳内では感情が目まぐるしく駆け巡る。ふと足に力が入らなくなり膝をついて座り込んでしまったのは、思いの外気を張り続けていてそれが一気に緩んだせいだろう。それもあってか駆け寄ってきてくれた姿に思わず涙が溢れてしまった。
ああ、近くにいる。彼は、自分と同じ世界の、自分を知っている人間だ。縋ってしまいたい。その衝動が強くて、必死に自分を諫めるように己の体を抱き締めた。大丈夫だと言って抱き締めてくれた力強さも背中を撫でる手の温かさも以前と同じで、堪えようとしていた涙がまた溢れてしまった。
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