第46章
紅い鴉の夢主の名前
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幼い悧塢は違和感を感じていた。まるで自分を一人にさせないようにしているような。屋敷の中だというのに必ず誰かと一緒に行動するようにしてくれる大人達。綱吉は甘えてもいいと言っていたから最初は気をつかってくれているのだと思っていた。けれど度が過ぎている。誰かに会わないように制限しているような。そんな違和感。
そんなこともあって、朝起きて珍しくまだ綱吉が眠っているのを見た幼い悧塢は、好奇心からベッドを抜け出し一人で屋敷の中を歩きだした。
朝の早い時間帯のせいか、あまり人の気配は感じられない。最初に案内された中では地下のトレーニングルームにはまだ行っていないので幼い悧塢はそこを目指す。近付く度に大きくなる音は金属がぶつかり合うもので、誰かの手合わせが見られるかもしれないと気配を消して近付いた。そこに居たのは雲雀と山本である。
「おーい雲雀、もう少し真面目に付き合ってくれよ」
「君弱いから本気でやったら死ぬよ?」
「雲雀は優しいなぁ。それくらいやってくれても今なら負けないかもしれないだろ?」
「……悧塢に君の負ける様を見せていいのならやるけど」
「ん?」
「!」
気配は消したはずだった。だが雲雀は覗き始めて数秒で自分が居ることを山本に伝えた。いつからバレていたのだと焦る悧塢を雲雀の視線が捉える。
「悧塢、気配消すならもっと前じゃないと察知されるよ。音が近付いてからじゃ遅すぎる」
「……はい」
「悧塢?! マジでいるじゃねーかすげえな……いや雲雀、もうちっと優しく言ったほうが……」
「きょーやさん、いつから? いつから気付いてた?」
「あり? 食いついてる」
「戦ってる音が聞こえた辺りじゃない?」
「すごい……!」
目を輝かせて気配を消していたのがバレていたことに感動し雲雀の助言に対しても喜んでいた。言い方がきついとよく言われる雲雀だが、悧塢からはそういった印象を受けているようには見受けられない。むしろ好感触のようで、相性が良いのかと山本は複雑な心境だ。
「それで? 悧塢はなんで朝早くから此処に来たの。しかも一人で」
「あの、目が覚めて、まだトレーニングルームに来たこと無かったなって思って……ダメでしたか?」
「戦いたいのかと思って」
「たたかいたい」
「即答!?」
「じゃあおいで。手加減はしてあげるから、君の実力見せてみなよ」
ニヤリと普段とは違う不敵な笑みを浮かべる雲雀に対して幼い悧塢は狙いを定めるように姿勢を低くして背後に忍ばせていた短刀を構えた。
「寝起きじゃなかったっけ?」
「つい、いつものクセで持っていました」
言葉を発すると同時に床を蹴りあげて雲雀との距離を詰めようと走り出すが、急に立ち止まった幼い悧塢が腕を振り上げるとワイヤーに繋がれた短刀が少女の後ろから飛び出し遠心力を利用して雲雀を狙う。しかし動体視力のみでそれをかわした雲雀の口元が愉しげに弧を描いたかと思うと、トンファーでワイヤーを絡めとり武器を奪う。狙っていたかのようにそれを手放した幼い悧塢は折り畳みのサバイバルナイフでトンファーに対抗しようと懐へ飛び込んだ。力の差は歴然だが何の策略があり飛び込んでくるのかと手の内を楽しみに応戦すると数歩目を踏み出そうとした足が何かに阻まれ体勢を崩しかける。足元には床に引っ掛けられたワイヤーとそれをくくりつけて床に突き立てられたナイフ。ワイヤーに足を引っ掛けて体勢を崩した所を狙う戦法のようだ。その隙を狙って幼い悧塢がナイフの柄を向けるが、崩れると思われた体勢は難なく立て直され向かってきた幼い悧塢は抱き抱えられる形で拘束されたのだった。
「……え?」
「足元を狙うのは上手かったけど、見すぎ。三回も確認したでしょ」
「……きょーやさん強い!」
「悧塢もね」
手の内も見抜かれ負けたというのに敗因を述べられて目を輝かせながら笑う幼い悧塢と雲雀の手合わせを見ていた山本は冷や汗が止まらなかった。恐らく自分では何処かの拍子に擦り傷くらいはつけていたかもしれない。雲雀は怪我をさせないように手を抜いた上で助言まで出来るほど幼い悧塢の動きをよく見ている。先ほど本気でやったら死ぬ、と言っていたのは強ち間違いでもないのかもしれないと思ったのだった。
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