断章Ⅴ
紅い鴉の夢主の名前
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ここのところ九代目に呼び出されることが増えた。必要なことだって解ってはいるし九代目が嫌ってわけではない。わけではないのだが。
「悧塢に会いてぇ……」
「……十代目、もう少しの辛抱ですから外では……」
「大丈夫、流石に外では言わないよ。ごめんな、心配させて」
「いいえ。休息が必要なのも事実ですから」
そう、悧塢に会えないのだ。同行者は獄寺隼人一人と何故か指定されてしまっているため連れて行くことも叶わず思わず後部座席でぼやいてしまい、その言葉を拾った獄寺から苦笑をもらった。ああ会いたい。
ふと。超直感が車の進行方向を向けと。何かあると告げる。敵が迫ってくる感じでもなかった為ゆるりとした動作で車窓から外を覗いた瞬間、視界に映ったのは悧塢……と瓜二つの女。思わぬ遭遇に動転してしまい慌てて運転していた獄寺に声を投げ掛けた。
「停まって隼人!」
「!」
車を停めさせてドアを開けると追い越した女と目が合って眉間に皺を寄せられた。
「あんた、この前の……」
「突然すまない。たまたま見かけたから話をしたくて……引き留めてさせてもらった」
「…………なに」
不機嫌なことを隠そうともせずに女は腕を組んで先を促す。双子と言われれば納得してしまうくらい悧塢に似た風貌できつく睨まれると不思議な感覚に陥るが、今はそんなことを考えている場合ではないと聞きたかったことを素直にぶつけた。
「……君さ、エストラーネオって名前に聞き覚えない?」
「………………あんた、マフィアなの……?」
「うん」
素直に頷く。ファミリー名でマフィアと判るならば彼女もこちら側の人間ということだから隠す必要もないと判断した。しかし。
「なら死ね。私に近付くな」
「……あ?」
罵倒。突然の罵倒である。悧塢とは似ても似つかない言動に頬が引き攣りそうになるが違う。この女は悧塢ではない。解ってはいるが脳が一瞬だけバグを起こす。目の前の女が機嫌を悪くした理由は恐らく六道骸達と同じであろうことは容易に想像できたためなるべく逆鱗に触れないよう努めて穏やかに語りかける。
「……君に危害を加えたいわけじゃないんだ、ただその時のことを少し聞きたくて……」
「死ね」
「……」
「誰にだって思い出したくないことのひとつやふたつくらいあるでしょーが。それを掘り返すんじゃないわよ死ね」
「思い出したくないのは重々承知だ。でもこちらも……」
「マフィアは全部死ね」
「……人の命がかかってるんだ」
「そいつもマフィアなんでしょ。死ねばいい」
鬼の形相で踵を返すと足早に立ち去る背中を視線だけで追うがすぐさま路地を曲がってしまい見えなくなった。どうやら一言目が既に逆鱗に触れていたらしい。もう少しまともに情報交換をしたかったのだが九代目のもとへ向かう途中でもあるので諦めて路肩に停めた車に乗り込んだ。
「…………悧塢がああならなくて良かった……」
心底そう思う綱吉だった。
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