第38章
紅い鴉の夢主の名前
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蔭が言葉を言い終えたのとほぼ同時に通話が切れて悧塢は焦る。相手に携帯を壊されたとしか思えない状況だった。
「……蔭……!」
「悧塢さんっ蔭は? 蔭はどうなったの!?」
「……まさか……」
「もしかして蔭が危険な目に遭ってるの!?」
「……蔭の所に行ってくる」
「! でも悧塢さん……目が……」
「そんなこと言ってる場合じゃないから、」
「許可できるわけないだろ」
「! 綱吉さん……」
悧塢の発言はいつの間にか部屋の扉に寄り掛かっていた綱吉に却下されてそちらを向き、珱は思わず扉の前にいる彼に向かって叫ぶ。
「ならアンタがなんとかしてくれるの!? 蔭を見殺しにするなら場所だけでも探してよ!!!」
「……悧塢、守護者がやられていってる最中にあいつがやられたんだ……普通に考えて龍の仕業だろ」
「なら尚更私が!」
「狙われてるのがお前だって何回言ったら分かってもらえる?」
静かに、だが声に怒気を含ませた綱吉に珱が震えて悧塢の服の裾を掴んだ。悧塢はその手を握って綱吉を見据える。その瞳に揺らぎはない。
「……すべて、私が招いたことです。それを分かってて、ここで何もしないなんて、それこそヒットマンの名折れです」
「……ヒットマンの前にお前は女の子なんだ、もっと自分を大事にしてくれ」
「…………(違う、私は……)」
心配してくれている言葉を否定したくはないけれど、それは違うのだと心の中で反論し涙が溢れそうになりながら悧塢は唇を噛んで自分を案じてくれた綱吉に近付いた。
「綱吉さん、行かせてください」
「駄目だ」
「……すみません……」
「なに、」
一瞬で綱吉の背後に回り込むと手刀で首の後ろに打撃を与えた。綱吉が油断していなければこんなに易々と成功するわけもないのだが、そもそも今の悧塢に攻撃されるわけがないと思っていたのが大きいだろう。ふらついた綱吉の背中を押せば、力の抜けた体は簡単にベッドの上に沈んだ。
「ぐっ……!」
「悧塢さんっ」
「珱は待ってて……綱吉さんならすぐに目が覚めちゃうだろうから……」
「……ぁ……でも……私……」
「……お願いね、珱……私は蔭のところに行く」
「! ごめん、悧塢さん……目、見えないのに……」
「大丈夫だよ、これが私の仕事だから」
「…………」
「行ってきます」
波動の見えない悧塢は走りながら冷静に先程の電話でのやりとりを思い出して蔭のいる場所の特定を始めた。電話越しに蔭が叫んだ時の少しの反響音。あの叫び声で周りに人の気配はほとんどなかった。ひと気が無く音が反響して子供が徒歩で行ける距離の場所。
「珱の家の周辺なら多少あったはず……!」
悧塢は屋敷を飛び出し珱の家を目指して走った。
一方、残された珱は窓から走り去る悧塢を見つめて唇を噛んだ。
「悧塢さん…」
「…………………………っ……いってぇ……」
「! マジで回復早い……!」
「……っ! おい! 悧塢は!? 俺はどれぐらい気を失って……!」
「悧塢さんは……蔭のところに……アンタは気絶して一分くらいしか経ってないわよ……」
「くそっ、一分も……」
「も!?」
「すぐに悧塢を追う! どこか判らないのか!?」
「わ、わかんない……けどたぶん、」
「いけません、十代目」
「! 隼人……」
綱吉同様、いつの間にか部屋の扉の前にいた獄寺はボスの発言に対して冷たい言葉を吐く。
「ご自分があいつに何をされたかお分かりですか? あいつの行動は謀反に近いですよ」
「それは緊急で……」
「あなたは十代目ボスなんです! あなた個人の意思だけではどうしようもないことだって……!」
「……」
「……」
「な……なんでそんなに、殺伐としてんのよ……」
「……悧塢に何言われた」
「!」
「は? なんで悧塢さん?」
「隼人……」
「……さすがは十代目です……さっき言われました……自分を許すなと……」
「!」
「も、意味わかんない……何言ってんのよ……」
珱の怯えたような声に、小さくため息を吐いた綱吉が彼女のほうを見ずに分かるように説明を始めた。
「……悧塢は目が治ったらボンゴレを出ていくと言った。でも俺は行かせたくない」
「!そんなことになってたんだ……」
「部下のほとんどは今悧塢に出ていってほしいと願ってる。そんな中、守護者の中に誰か一人でも悧塢が残ることに反対する奴がいたら?」
「……クーデター?」
「そういうことだ」
「そんな……そんな騒ぎ起こされたら、悧塢さん、もう……」
「……隼人、悧塢を追う」
「いけません」
「だから!」
「俺が行きます」
「「!」」
「俺が……悧塢を連れ戻します」
「……頼む」
「はい」
彼女に八つ当たってしまったことを後悔していた獄寺は自分が悧塢を追い出す口実になるわけにはいかないと決意を胸に
「待って!!!」
獄寺が屋敷を出た直後、珱が息を切らせながら走ってきた。ついてきたおおよその理由が分かっている獄寺は驚くことなく視線だけそちらを向く。
「……ついてきても俺にお前を守る義理は無ェからな」
「悧塢さんの居場所! もしかしたら家の近くかもしれない!」
「……」
「蔭は今日仕事無いから家にいるの! 出掛けたとしても裏道通って買い物行くくらい! だからそこに悧塢さんも居るかもしれない!!」
「……」
「っ、これ以上、私達のせいで悧塢さんに傷付いてほしくないの……! お願いだから連れていって!!!」
「……何かあった時は絶対にその場を動くな。動く奴を守るのは誰だって面倒だ」
「! うん!」
ぶっきらぼうながらもついて行くことを了承した獄寺の元へ珱は嬉しさと焦りの入り混じった表情で駆け寄った。
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