第37章
紅い鴉の夢主の名前
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「……はぁ……」
龍羽から逃げた悧塢は屋敷の前で盛大な溜め息を吐いた。自分から綱吉に知らせてから行くと言ったにも関わらず何も言わずに出てきてしまったのだ。しかも、肝心なことは何も聞き出せないまま。
「(どうしよ……)」
このまま何も無かったかのように振る舞ったとしても恐らく超直感を使うまでもなくバレるだろう。それだけ悧塢の表情に敏感なのだ、綱吉は。
「(……とりあえず、今日は寝よう)」
物音を立てないように自室へ向かい、そのまま静かに布団に潜り込んだ。
翌朝、綱吉を起こしに行く時間よりも早く目が覚めた悧塢は屋敷の中を歩き回っていた。往生際が悪いのは分かっていたが、少しでも綱吉を起こしに行く時間を遅らせるための悪足掻きである。
「(職務放棄してごめんなさい……でも今綱吉さんに会ったら絶対昨日のことバレるので……)」
心の中で言い訳を並べていると同じく屋敷の中を歩き回っている波動を見つけて悧塢はそちらへ歩きだした。波動の主である珱が首をあちらこちらへ彷徨わせていたため誰かを探しているのだろうと顔を見せたのだ。
「珱、どうしたの?」
「あ、悧塢さん!」
視線が重なった瞬間笑顔で駆け寄ってきた珱はどうやら悧塢を探していたらしい。
「えっと……ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「うん、何?」
「……悧塢さんって、お姉さんとか、いる?」
「え?」
「思い出したくないとかなら、無理に聞かないから……」
「……私、拾われたから、血の繋がった人がいるのかも知らないの……」
「あ、そっか。ごめんなさい……」
「ううん……どうしてそんな質問したか、聞いてもいい?」
「あのね……これ、蔭が撮った写真なんだけど、すごく似てるから……」
「?」
珱の携帯を覗きこんだ悧塢は、写っている人物を見た瞬間、悪寒に襲われ冷や汗が止まらず呼吸も儘ならなくなり、心配する珱の声も届かないまま、何かから逃げるように意識を手放した。
瞼を持ち上げると、毎朝見上げる天井がそこにあった。
「……ぁれ……」
「悧塢!?」
「…………つなよしさん?」
「悧塢さんっ、良かった……!」
「……珱……どうしたの?」
ベッドの両脇には悧塢を心配げに覗きこむ綱吉と珱の姿があり、一瞬どういう状況なのか飲み込めなかった瞳が二人を見やる。
「……覚えてない? 私が……」
「……ぁ……」
「……何か嫌なことでも思い出したんだろ。もう少し休んでろ」
「……わから、ない……です……」
呟いて手の甲で視界を遮る悧塢の様子に珱は心配げに声をかけ、綱吉は目を細めて彼女の心境を悟った。
「悧塢さん?」
「私、何に怖がってるの……」
「……今は何も考えるな。心の休息も必要だぞ」
「……はい……」
悧塢の頭を優しく撫でて部屋を出た綱吉は視線だけで珱も部屋の外に連れ出す。眉間に皺を寄せつつも悧塢の部屋から出た珱は大人しく綱吉の隣を歩いた。
「悧塢に見せたっていう写真見せろ」
「……これ」
「!」
見せられた写真を見た綱吉は息を呑んだ。他人の空似、にしては似すぎているほど悧塢と瓜二つな女性が写っていたのだ。暮らす環境で顔つきは変わると言うが、それ以前の問題だ。骨格からして同一人物と言われても不思議ではないくらい悧塢に似ている。
「これ……」
「悧塢さんは拾われたから血縁者がいるのかも分からないって言ってたし……」
「……調べるから寄越せ」
「……悧塢さんのためじゃなかったら断ってるわよ、その言い方」
「悧塢に関係してなきゃお前と話すことなんか無いから安心しろ」
「いちいちムカツクわね」
「お互いにな」
送られた画像に一文だけ付け加えた綱吉はすぐさまヴェルデに転送した。[こいつを調べてくれ]と。
綱吉に送られてきた写真を早速調べていたヴェルデは彼女の個人情報を“今までの実験の資料の中”から見つけて口角をあげる。
「……! ほう、これは……なるほど、“あの実験”の被験者か」
ヴェルデの中で、点と線が繋がった。
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