第31章
紅い鴉の夢主の名前
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クロームに珱を執務室に連れて来るよう指示を出してから、あまり離れると危険だからと隣の資料室に悧塢を待機させ獄寺と一緒に少女の入室を待った。馴染みの声と共にゆっくりと扉が開かれる。
「ボス、連れて来たよ」
「ありがと、戻って……いや、隣の部屋で待機」
「はーい」
指示通り連れてきたクロームに珱には気付かれないように悧塢の側にいろと伝えると素直に隣の部屋へ向かう。残された少女の表情は思いの外真剣だった。
「……」
「何しに来た」
「……私をここで働かせてください」
「は?」
「メイドの仕事でもいいし武器職人としてでもいいから、ここで働かせてください!」
「……何が目的だ」
「……悧塢さんのこと聞いてきた男がいるの」
「「!?」」
珱の一言に綱吉も獄寺も驚きを隠せないが、思い当たる節がないわけでもなかった。悧塢が珱達の家を訪れた帰り道に龍羽と出会したため、あの時に全て見られていたとしたら悧塢と珱の仲が良いことに気付いて忠告に行くことも想像がつく。だが、珱がそれだけを理由にここに置けと言うわけがないので静かに先を促した。
「……それで?」
「その情報提供に来たのと、男の正体を教えて」
「なんで?」
「……蔭が、危ないかもしれないから……」
「?」
「その男、悧塢さんに近付くヤツは殺すって言ってた……蔭が悧塢さんに惚れてるって気付かれたら無事じゃ済まない……でも逃げるための資金も準備も全然足りてないから……」
「……で、自分と弟を一緒に匿えと?」
「蔭は他のヒットマンの所に預けた。悧塢さんの近くにいたらあいつは逆に危ないから」
「俺が逃亡資金も工面するって言ったら今すぐ逃げるか?」
「貸し借りは嫌いなの。返すためにこっちに来たら意味がないし必要なものは自分で手に入れるわ」
「……」
「……」
「メイドの仕事は他のメイド……は今いないから俺の右腕の獄寺に聞いて。武器が必要な時は頼むし相応の報酬は用意する。お前の部屋は武器の製作、保管が出来るように広めな所を用意するから悧塢と距離あるけど文句言うなよ」
「分かってる」
「……」
以前のように文句を言うわけでも我が儘を言うわけでもない珱を見て、彼女が本気なのだと思い知らされた綱吉はため息を吐きながら携帯を取り出しボタンを押した。
「……あ、悧塢? 執務室来ていいよ」
「え、悧塢さん?」
綱吉が携帯をしまってから数秒で執務室の扉が開き悧塢が一目散に珱に駆け寄っていった。
「珱!」
「悧塢さん!」
「一人で来るなんて何かあったの? 大丈夫?」
「大丈夫! 悧塢さんこそ危ない目にあったりしてない?」
「私は大丈夫」
「良かった……っていうか悧塢さん、その格好は……」
「あー…………またミスしちゃって、今度は洋服みんなダメにしちゃったの」
たった今大丈夫と言った手前襲われたとは言えず、以前雲雀と手合わせした時のような言い訳を口にする悧塢に後から入ってきたクロームが微かに笑った。幻術を目の当たりにする機会の少ない珱は、いつものようにやりとりをしていてこの屋敷の異変には気付いていないようだった。
「……腹黒、何もしてないでしょうね」
「してねぇよ。俺の一方的な片想いで襲うのだけは絶対にやらない。悧塢を傷付けるつもりなんかないからな」
「ふーん」
「てめぇ十代目になんて口の聞き方してんだ」
「こんな奴腹黒で充分よ!」
「……それ以上言ったら果たすぞ」
「大丈夫だよ隼人」
「……しかし……」
「今はボス業お休み中」
「分かりました」
「悧塢、これから暫くこいつここに住むから」
「! いいんですか?」
「害よりも利のほうが多いと判断したからね。悧塢も嬉しいだろ?」
「はい! ありがとうございます!」
「……」
「……(こいつこれが狙いだったな)」
「悪いか?」
「! いいえ別に」
心を読まれたとひきつった笑顔で珱が顔を背けた直後、悧塢が執務室の扉を見つめると一拍置いて人影が二つ現れた。
「ツナー、連れてきたぜー」
「ありがと武」
「……!」
「リボーン、こいつ今日から暫くここ住むから」
「……」
「ボスは俺だ」
「……好きにしやがれ」
「ありがとうございます、リボーンさん」
「……悧塢、せいぜいダメツナを困らせておけ」
「あ、はい……え?」
「まぁ、悧塢が良いならそれでいいんじゃね?」
「……け、めん……」
「?」
「珱?」
何かをぼそりと呟いた珱は興奮したように山本に駆け寄って口を開いた。
「あ、あの! 私武器職人の愁之珱って言います! お名前、伺ってもいいですか?」
「俺か? 俺は山本武ってんだ。よろしくな、珱」
「! 爽やかイケメン……!!」
「へ?」
「わた、私! どんな武器でも造れます! 武さんはどんな武器を使ってるんですか? 造ります!」
「おぅ、俺は刀一筋だぜ」
「じゃあ、振りやすい刀造ります!」
「本当か? サンキュ」
「笑顔素敵……!」
「? ……珱、楽しそう……?」
珱の騒ぎように悧塢が首を傾げていると、後ろから綱吉が笑いながら小声で囁く。
「あれは武に惚れたな(ただの面食いだったか)」
「?」
「あいつが武を好きになったんだよ」
「……へぇ」
「なぁなぁ妬いた? 俺は悧塢が好きなんだけどなー?」
「困ります、武さんは危険人物だと思ってるので」
「え!!?」
「「危険人物……」」
「笑うなよ!」
「困ってる顔も素敵……!」
「「「……((こいつ(この人)、ダメだ))」」」
悧塢以外がため息を吐いたのを、リボーンが腹を抱えて笑っていた。
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