第30章
紅い鴉の夢主の名前
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綱吉の予想通りボンゴレの屋敷は半壊していたが、騒ぎにはなっておらず綱吉たちも屋敷に近付くまで半壊していることに気付けなかった。
「うわ、ひっでぇ有り様」
「なんで騒がれていないんでしょう?」
「……骸さんです」
「ああ、骸の幻覚でだいぶカモフラージュされてるみたいだな」
「へぇ……あの人も良いことするんですね」
「……リボーンさんと笹川さんが居ました。二階の奥の部屋です」
「よし」
屋敷は荒れ放題で所々通れない道もあったが、悧塢の言った場所に行くと了平の治療を受けているリボーンを見つけて直ぐ様綱吉が駆け寄る。
「お兄さん! リボーン!」
「! 沢田! 何故ここにいる!?」
「……チッ」
「……何があった」
「……怪我は大したことない。龍だ」
「「!」」
「……」
龍と聞いて戦慄するランボ達とは対照的に、綱吉と悧塢、雲雀は落ち着いたようにリボーンの傷を見ていた。
「悧塢、あいつ何者だ? 何故あんなに強い?」
「……龍兄は、自分は東洋一強いんだって自慢してました」
「何言ってんだ、東洋一強いのは十代目に決まってんだろーが」
「隼人、俺東洋人だけど今はイタリアンマフィアのドンだからね?」
「関係ありません」
「えー」
その場に似合わない口調で会話する綱吉と獄寺の横で、何かを探るような目のリボーンと悧塢の視線が重なった。
「なんですか?」
「あいつ、本当にお前しか見えてねーんだな」
「え?」
「ここでのお前の痕跡を全部消して行きやがった」
「!」
「え、全部じゃないよ?」
リボーンの言葉に絶句していた全員がクロームの発言に一斉に彼女のほうを向く。
「……は?」
「だって悧塢のコスプレ衣装私の部屋だもん」
「……クローム」
「えへ」
「……まぁ、俺らが呆けてる間に悧塢を連れ去ろうとしたんだろ。幸い屋敷を離れてたから無事だったわけだが」
「…………」
「悧塢、大丈夫か?」
「……わた、し……(これ以上ここに居たら……)」
「「駄目だ」」
「!」
「悧塢は悪くないんだからな? 俺らはお前と一緒にいたい」
「……綱吉さん……」
「そーだぞ。んなことしたら何の為に俺が屋敷に残ったか分かんねーだろ」
「……リボーンさん……」
読心術で心を読まれ“出ていく”という選択肢を却下された悧塢は複雑な心境で頭を下げた。
「ありがとうございます……」
「……で、悧塢」
「はい」
「お前今日服どうするわけ?」
「……ぁ」
「今お前の服ってコスプレ衣装しかないわけだけど」
「……クロームさんに……」
「私の服ってコスプレ衣装と大差ないけど、私の服とコスプレどっちがいい?」
「……す、スーツとかでも……」
「悧塢の胸じゃ入らないよ(そんなことないけど)」
「…………」
恐らく嘘を言っているであろうクロームの笑顔から視線を逸らし悧塢は全員を見回してから意を決して口を開いた。
「……綱吉さん、服貸してください……」
「!」
「悧塢ーなんで俺のじゃねーの?」
「武さんのじゃ大きすぎます」
「……ん? じゃあツナを選んだ理由って……」
「……この中では一番体格差がないかと」
「……つまり小さいってことですよね……プッ」
「ランボ減給な」
「えぇ!!?」
「しょうがねぇよな!」
「武遠征期間延長な」
「え」
何の言い合いをしているのかわからない悧塢は彼らを見つめているだけだったが、ふと彼女の肩を綱吉が抱き寄せた。
「まぁ、俺は彼シャツやってもらえるからラッキーだけど」
「そこは羨ましい!」
「(またよく分からない単語がいっぱい……)……綱吉さん」
「ん?」
「屋敷、修復したほうがいいですか?」
「いや、体力は温存しとけ。いつ龍が来るか分からないから」
「はい」
自分の育ての親が襲撃犯だと判っている以上、彼と戦わなくてはならないのは明白だったが、悧塢はまだ決めあぐねていた。
綱吉か、龍羽か。
ボンゴレの屋敷の破損部分を急ピッチで直している間、骸が所々有幻覚で補修してくれている為ある程度は普段通りの生活を送れている。壊されたのは殆どが悧塢の部屋と厨房だったが、隣だった綱吉の部屋は運良く数十cmしか破壊されなかったため悧塢は(半強制的に)彼の部屋で寝ることになった。
「悧塢、これ俺の持ってる中で一番小さい服」
「ありがとうございます」
「サイズ大丈夫そうか?」
「……正直、無理だと思います」
風呂へ入るため綱吉に服を借りた悧塢はそのサイズを見てコスプレでも良かったかとも思ったが、クロームがどんな服を渡してくるか些か不安だったため自らのボスの服を拝借した。
「あの、綱吉さん」
「ん?」
「……やっぱり綱吉さんの部屋のバスルームじゃないとダメですか?」
「ダメ。廊下歩いてて見つかったらどうするんだよ、確率低いけど」
「……手刀で……」
「やったら仕事なしな」
「! ごめんなさい……」
綱吉に釘を刺されてしまい慌てて風呂場へ駆け込む悧塢は改めてその空間の香りを意識した。
「……綱吉さんの、シャンプーの匂い……」
自分のものとは違う、男性用シャンプーの独特の香り。嗅ぎ馴れないせいか悧塢はどこかそわそわしながらも入浴を済ませるが、綱吉が使用していたシャンプーがメンソールタイプだったため頭が寒くなると驚愕しつつも服に袖を通す。パーカーは袖を三回ほど捲ってズボンの裾を五回ほど捲る。けれどウエストばかりはそうもいかず、ベルトを一番きつく締めてもずり落ちてしまった。パーカーのみでも太股まで隠れはするのだが、どうにも落ち着かない悧塢は意を決してクロームの部屋へ向かう。その際綱吉に声を掛けようとしたがソファーでうたた寝をしていたのでそのまま部屋を出た。
「……、……さん……」
「……ぅん……?」
「綱吉さん、シャワーありがとうございました」
「あぁ悧塢、俺寝てたんだな……」
「はい、起こすのは忍びなかったのですが、お湯が冷めちゃいますし」
「いいよ、ありがと」
「はい」
「……悧塢、ズボンは?」
目が覚めた綱吉は思わず目の前の悧塢の格好を問う。願ったり叶ったりではあるが、知らぬ間に彼シャツならぬ彼パーカー状態になっていた。だが生足は警戒心が足りなさすぎるだろうと頭では嗜めつつも綱吉の視線はしっかりと足に固定されている。
「……大きすぎて落ちちゃいます」
「ベルトも置いたよな?」
「……一番キツくしても落ちました」
「……ってことは、下穿いてないの?」
「どろわーずっていうのをクロームさんから借りてきました」
「……なるほど(ドロワーズ見えないからヤバいけど)……一応聞くけど、誰にも会わなかったよな?」
「はい。……綱吉さんって、いつもこんなシャンプーしてるんですか……?」
「うん、もしかしてメンソール苦手?」
「……初めて使ったので、頭が寒くて変な感じです」
「そっか」
苦笑しながら頭を撫でるが違和感があってむず痒そうな表情を浮かべている悧塢の姿を目に焼き付けてから綱吉が伸びをしてソファーから腰を上げる。
「じゃあ俺もシャワー浴びてくるよ」
「はい、いってらっしゃい」
「(やべぇ夫婦みてぇ……!)」
内心そんなことを思いながら悶えているとは知らない悧塢はソファーに腰掛けていまだに頭を気にしていた。数分経っても慣れないならばとメンソール特有の涼しさを誤魔化すためにタオルを被ってソファーに腰かけた悧塢はふと先ほどのやりとりを思い出していた。
「(綱吉さんとリボーンさんはああ言ってくれたけど……これ以上ここに居たら、龍兄が何をするか……)」
自分を怖がることなく手元に置いてくれた綱吉や親しくしてくれた守護者達が自分のせいで危険な目に遭うのは嫌だったが、その当事者である綱吉とリボーンには先ほど心を読まれて行くなと止められた。それでも悧塢は出ていくという選択肢を消しきれていない。
「……綱吉さんに何かあったら……どうしよう……」
「大丈夫だよ悧塢」
「!」
いつもなら波動を頼るにも関わらず、物思いに耽り過ぎて綱吉がバスルームから出てきたことすら気付けなかった悧塢は、ソファー越しに後ろから抱き締められる直前まで反応出来なかった。
「俺強いよ? だから悧塢は心配しなくて大丈夫」
「でも……」
「それとも俺の命令聞けないの?」
「…………」
「(あれ、反応がない)」
いつもなら渋々でも頷く悧塢が何故か首を縦に振らない。そっと頭から被っているタオルを退かして表情を覗き込めば涙を溜める瞳と視線が重なった。
「……でも……私、ヒットマン……」
「悧塢」
「だっ、て……私の、せいで……」
「悧塢のせいじゃないよ。だから泣かないの」
「ちが、私っ」
「聞け」
「っ」
「悧塢は悪くないよ。それとも何か悪いことした?」
「……ここに……」
「呼んだのは俺だよ」
「……居座って……」
「俺がちゃんと報酬払ってないからな」
「…………今……」
「雇い主の俺が行くなって言ってるからな」
「………………」
「ほら、悧塢は悪くないだろ?」
「……すみません」
「よし、じゃあ一緒に寝ようか?」
「……え」
「龍対策だよ」
「……わかりました」
気を紛らわせようと笑顔で発せられた言葉に思わず聞き返した悧塢の頭を撫でて綱吉は目を細める。そう言われては断れないと大人しく綱吉の後をついてベッドに近付いた悧塢の瞳がふと虚空を横切った、刹那。
悧塢の視界の中、遠くで波動が動いた。
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