第2章
紅い鴉の夢主の名前
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翌朝七時五〇分。ボスの部屋の前でひとつ深呼吸をする。明日の朝八時に起こしに来い、と昨日言われているため扉をノックして失礼しますと声を掛けると躊躇うことなくドアノブを回した。
「ボス、おはようございま……広……」
昨日のボスへの感謝は的外れだったようだ。なんだろうこの部屋の広さ。自分に宛がわれた部屋の二倍はあるのではないだろうか。昨晩の室内の形状を把握するという努力は無駄になってしまった。頭を軽く振って目的を疎かにしてはいけないと思考を切り替えて、ボスを起こすために橙色の波動を探す。まだ起きていないのか動く気配はない。
「……ボス、起きてますか?」
「……あぁ、今起きたよ……」
奥の部屋からボスの声が聞こえたが動く様子はないので寝室と思しき部屋へ向かい顔を覗かせる。するとベッドの中からこちらを見る綱吉と目が合う。どうやら来るまで待っていたらしい。
「あ、おはよ悧塢」
「……おはようございます」
「悧塢の声で起きられるし、寝起きに顔見れるし……今日は良いことありそうだな」
「意味が判りません。では部屋の外で待機してますね」
「……そっちのソファに座って待ってて」
「ぇ、はい……」
謎の評価と微笑みを向けられ素直に意図が掴めないことを伝えると追及はせずに話を切り上げてくれた。理解するための頭がないことに気付いてくれたようである。言われた通り寝室を出てリビングに当たる部屋へと向かい上司の準備が整うまで室内の形状を把握して待っていようと天井の端から端まで目測で測ってみる。自分に宛てがわれた部屋のちょうど二倍。この比率だと殆どの物が二倍で統一されているのかもしれない。これがボスの私室と言うものなのだろうか。
「……こんなに部屋が広くて何するんだろ……広いだけ?」
「ただ広いだけなわけないだろ?」
無駄な思考に囚われていたせいですぐ後ろに来ていた上司に気づくのが遅れてしまった。ヒットマンとして情けない。それにしても準備を終えるのが随分早かった気がする。実は準備などとうに終えていてベッドで待っていた、なんて言わないだろうか。
「……早かったですね」
「無視か、おい」
「もう八時になりましたし食堂に行きましょう」
「……そうだな」
まだ腑に落ちていない様子の綱吉だったが、ここで問答や説明をして時間を食っては他の守護者を待たせることになってしまう。そうなれば後が五月蝿いのを知っているので自室を後にする事にした。
食堂の奥にある厨房を覗くと既に獄寺が朝食の調理を始めており、フライパンの上には焼き目がつく前の魚が数匹並んでいる。
「おはようございます、十代目」
「おはよう。あれ、今日料理長居ないんだっけ?」
「実は昨日、用事があるとかで実家に帰ったんですよ」
「よぉツナ。お、悧塢も一緒か」
「……おはようございます……獄寺さん、山本さん」
悧塢の二人に対する挨拶に綱吉は小さく眉を寄せた。彼らと会ったのは昨日が初めてだが早速名前を覚えて呼びかける姿に感情の乏しい彼女ですら無意識に自分の友人達に好意を寄せているのかと疑ってしまった。
「お、もう名前覚えてくれたのか? 嬉しいな」
「……まあ色と名前が一致したというだけなんですが」
「色?」
「山本さんは青」
やはり淡々と事実だけを述べている様子の彼女に杞憂だったかと安堵の息を零して部下で友人の山本へと問いの答えを示した。
「悧塢は炎の色が見えるんだよ」
「はい。獄寺さんは赤ですよね、他の色もありますけど」
「……何色が見える?」
「赤、青、緑、黄色、紫」
先ほどから全く悧塢に見向きもしなかった獄寺が珍しく口を開き、その質問にあっさり答えた彼女に漸く視線を向けてその存在を認識したようだ。ボスならば彼くらい疑り深い方がいいのではないかと悧塢は密かに心配する。
「……本当らしいな」
「まあ……」
「だがな、十代目の右腕はこの俺だ。お前には絶対に譲らないからな」
拳を握り締めて静かに力説する獄寺に、悧塢は小さく溜め息を吐いた。何故正式にこのファミリーに所属しているわけでもないヒットマンが右腕になるなどと思ったのだろう。
「私はボンゴレ十代目の右腕になるつもりなんてありませんし右腕は既に貴方がいるじゃないですか。ボスに迷惑を掛けるような事はしたくありませんし、私には貴方以外に適任はいないように思うのですが」
「……適任……それ、本気で言ってんのか?」
当たり前ですと短く返された獄寺は褒められたことが嬉しいのか照れたのか頬を掻いた。
「高圧的に言って悪かった。……サンキューな」
「いえ」
素直に謝罪と感謝を述べた獄寺にボスがボスなら部下も部下で単純なのかと考えていると視界に黒が映り意識せずあ、と声が漏れてしまう。耳聡くその声を拾った獄寺が慌てる。
「な、なんだ?」
「……焦げてますけど」
言うべきか迷ったが早めに伝えて処理をさせてしまった方がいいだろうと指し示したフライパンの中には無惨にも黒コゲの物体があった。可哀想な魚の成れの果てだ。
「も、申し訳ありません十代目!!」
「土下座ですね。初めて見ました」
「いいよ隼人、そうだな……悧塢、料理出来る?」
「……皆さんのお口に合うかどうか……」
「作れるんだな。隼人、調理器具の場所教えてあげて。それでチャラ」
「お任せ下さい十代目」
土下座の体勢から素早く立ち上がると焦げた物体の後片付けに取り掛かる獄寺を横目に、綱吉が悧塢の手を掴んで厨房の中からは見えないように移動して耳打ちする。
「お前、さっきの口から出任せだろ?」
「あ、解りました?」
「当たり前だ、隼人の事ロクに知りもしないのにあんなこと言えるわけないだろ」
「気休めになればと。じゃあ作ってきます」
「和食」
「わかりました」
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