第26章
紅い鴉の夢主の名前
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「……悧塢ー」
「……はぃ……」
「……入っていい?」
「…………何か、ありました……?」
「……お前に何があったのか聞こうと思って」
「…………入ってください……」
「ああ……っ!」
ゆっくりと扉が開いて中に招き入れられると、扉が閉められ奥へ進んだ瞬間タックルするようにぶつかられて一緒にベッドにダイブ。まさかの行動に自分に都合のいい夢でもみているのかと疑ってしまった。悧塢から抱きつかれて、沈んだ先がベッド。けど悧塢にそういった知識は無いはず。つまり理由がわかるまで据え膳状態なわけで。なにこれ拷問じゃん。
「ちょっ、悧塢!?」
「このまま……聞いてください……」
「!」
ようやく彼女の真意が掴めて落ち着くことができた。話を聞いてほしいけど、顔を見られたくない。でも近くで話さなければ聞こえないかもしれないほどに精神的ダメージが大きくて声が小さく届かないかもしれない。だから、この結果に至った。
「今日……龍兄に……育ての親に会いました……」
「!」
「名前は
「え、超有名じゃん」
「はい……」
「あいつの妹か……そりゃ悧塢強いわけだ」
「会ったの、十二年振りなんです……」
「へぇ、長いな」
「……できればこのまま……会いたくありませんでした……」
「え?」
「……私の記憶の中で……いいお兄ちゃんのままで……残っていてほしかったんです」
「……」
できるだけ上を向いて悧塢の顔を見ないように心がけながら話を聞いていると、彼女の口から思わぬ言葉が飛び出した。あれだけ慕って憧れていると思っていた相手と会いたくないと言ったのだ。以前の話しぶりから会えたら嬉しくてそちらへ行ってしまうのではないかと心配していたくらいだと言うのに。
「……綱吉さんには話しましたよね、私が料理慣れてる理由……」
「ああ。いつかそいつに美味しい料理作るって約束したんだろ?」
「……はい……仕事が早く終わって突然帰ってきた時に、私の料理食べて……美味しいって言ってくれたのが、始まりだったんです……」
「なるほどな」
だんだん声が詰まって小さく鼻を啜る音が聞こえたから、悧塢の頭を撫でて抱き寄せる。数秒の間が空いて、落ち着いたらしく続きを話し出した。
「……だから龍兄の仕事がある日でも、毎日龍兄の分のごはんも作ってました……半日で帰ってくる時もあれば一週間くらい帰ってこないこともあったので、毎日が料理の練習だったんです……冷めちゃった龍兄の分は朝に温めて食べてましたし……」
「……すごいな」
「……」
「……悧塢?」
「あの時は、一週間振りに帰ってきても……私の料理食べてくれなかったんです……」
「?」
「……帰ってきてすぐに部屋に、篭ったんです……だから声かけたんですよ、ごはん食べないのって……そしたら……出てけって言われました……」
「……」
「……なんでって聞いても……苦しそ、に……頼むから、出てってくれ、としか……」
「……今日そいつに会って、何言われた?」
「…………帰ろう、て……言われ……」
「……悧塢は、なんて?」
「こたえられ、なくて……ラルさんが……庇って、くれ……っ」
「うん、答えなくていい。そんな奴のとこ行って嫌な思いする悧塢なんか想像するだけで辛い」
「!」
「……できれば行かないでほしいよ……でも、最終的には悧塢が決めな」
「っ……ありが、と……ございます……」
泣いてしゃくりあげる悧塢を宥めるように頭を撫でて落ち着ける。そして先ほどの話の中でふと疑問に思ったことを訊ねた。
「……悧塢」
「はい……?」
「お前、龍のとこから出ていった後はどうしてたんだよ」
「……ひとりで、彷徨いました……住む場所は、どうすればいいか分からなかったから、とりあえずヒットマンの仕事、探したんです」
「……その時って、まだ九歳だろ」
「はい、でも龍兄と一緒に仕事したこともあったので……だから、前に会ったことある人の屋敷に行って、ヒットマンの仕事くださいって、頼みに行ったんです」
「……大丈夫だったのか?」
「はい。心優しいボスだったので、暫くはご厚意で置かせて頂きました。けど、部下の方々には嫌われましたね」
「自分よりも二回りも年下の奴に仕事を取られたようなもんだしな」
「ええ。……それで、色々言われて一年半くらいで、屋敷を出たんです」
「……そうか」
「……そのファミリー、私がここに来て、初めて潰したファミリーなんですよ」
「!」
ずっと見ないようにしていた視線を下げてしまって慌てて上を向くと胸元からはクスと笑う声が聞こえて悧塢の体から力が抜けたのが伝わる。
「彼が現役を退いた後……息子がボスに就任してからは、酷い噂しか聞かなかったので気になってはいたんです……でも私の一存で動くことは出来なかったので、あの時は仕事を利用させて頂きました。申し訳ありません」
「いや、それはいいけど……そのボスを……?」
「……相変わらずお優しい方でしたよ……私のことをずっと気にかけていたようで、あの時はすまなかったと私に頭を下げて……君は君の仕事をなさい、と……」
「……いい人だったんだな」
「はい……きっと父親ってこういうものなんだろうな、なんて……考えたこともありました……」
「そうだな」
「……私は……」
「今度、花束持って行こうな」
「!」
言われた言葉に驚いたのか見上げてきた悧塢の顔を、今度はちゃんと見つめながら言う。これは、大事なことだから。
「もうすぐ一年経つ。お前の“父さん”に花束持って行って、ちゃんと挨拶しに行こう」
「……っ……ありがとうございますっ……」
そんな風に言われるとは思っていなかった悧塢はその言葉に止まりかけていた涙がまた溢れてきたようで、再び俯いて鼻を啜る音が聞こえた。
「疲れただろ。今日はもう寝ていいよ」
「……」
「……悧塢?」
「……すみません……このまま……」
「…………」
悧塢のお願いに崩れかけた理性をなんとか持ち直してその体を抱き締めながら、背中をぽんぽんと軽く叩いて彼女が落ち着いて眠れるように努めつつ
頭の隅では龍への対応策を練っていた。
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