第24章
紅い鴉の夢主の名前
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「ボス、仕事ください」
「いきなりだな、おい」
綱吉の誕生日から一日経った正午前、突然悧塢が執務室の扉を開けて開口一番にそう告げた。もう少し誕生日を祝ってくれた時の彼女を思い返して幸せに浸りたい綱吉としては面白くない。
「そろそろ仕事しないと腕が鈍ります」
「いいじゃん少しくらい」
「それではいざというときにボスを守れません」
「女の子は守られてるほうが可愛いんだけどなー?」
「ヒットマンは可愛くなくていいので仕事ください」
あっさりと返された言葉につまらなそうに口をへの字に歪めた綱吉を見て、悧塢が少し俯きがちに進言した。
「仕事くれないなら少し出掛けてきます」
「……どこに?」
「珱が仕事を頼みたいと言っていたので引き受けてき、」
「この仕事もう少しで終わらせるからそれまでは屋敷内に居ろ!!」
「分かりました」
素直に頷いて執務室を出た悧塢を、ちょうど通りかかったリボーンが見てクツクツと笑っている。廊下にまで綱吉の声が聞こえていたらしい。
「お前ツナの扱い上手くなったな」
「扱いって、そんな失礼なことをしているわけでは……」
「ククッ、仕事貰えるように誘導してたじゃねぇか」
「否定はしませんが……ぁ」
「ん? どうした?」
突然目を閉じて声をあげた悧塢に視線を向けてリボーンが声をかけると彼女の表情が不安そうなものに変わった。
「……コロネロさんが……ここに向かってます」
「ああ、あいつは苦手だったな」
「ヒットマンは本当はそんなこと言っちゃダメなんですけどね。失礼します」
今出たばかりの執務室にもう一度ノックをしてから入った悧塢は今度は控えめに綱吉に声をかける。当然綱吉も何かあったのかと驚いていた。
「綱吉さん、あの……」
「え? どうした?」
「……コロネロさんが……」
「……来てんの?」
「はい……」
「……絶対あいつに近付けさせないから一緒に来い」
「はい……」
嫌そうに“コロネロか……”と呟きながら椅子から腰を上げた綱吉のあとを、悧塢は目隠しをしてついていく。よほど以前のことがトラウマになっているのか、悧塢はあまり綱吉から距離をとらない。綱吉からしてみれば嬉しいことに変わりないが。
「……不甲斐ないヒットマンですみません……」
「いいよ、可愛いから」
「関係ないと思います」
「俺がいいって言ったらいいんだよ」
「……はい」
「(おお、素直)」
「……来ます」
「おう」
「……」
「……大丈夫だよ、ちゃんと守ってやるから」
「!」
撫でられるとは思っていなかった悧塢は驚きはしたものの、いつもみたいにやめてほしいとは言わない。それだけ嫌なのだ、コロネロが。数秒間を空けてから足音が聞こえてきたと思った時には扉が勢いよく開いていて、以前と変わらず迷彩柄の服が目に入った。
「綱吉ぃぃ!! いるかぁぁ!!!?」
「何の用だよ」
「ワリィ! ちょっと匿ってくれ!」
「断る」
「なんでだよ!?」
「また悧塢に何かされたら困るから」
「絶対ぇしねぇから!!」
「……ボス、もう一人来ましたけど」
「色は?」
「……藍色です」
「……ああ……」
綱吉が納得したように扉を見つめていると、程なくして扉が勢いよく開いた。デジャヴを感じるのは気のせいではないだろう。
「コロネロォォォォオ!!!!」
「げ、ラル!」
「貴様また性懲りもなく女引っ掛けまわしたな!?」
「誤解だって! なぁ綱吉!?」
「俺のお気に入りに手ぇ出そうとしてた」
「綱吉ぃぃぃ!!??」
「コロネロォォォオオ!!!!」
出入口付近で騒いだ後すぐ屋敷の外に行ってしまった二人を見送りながら悧塢は隣を見ずに綱吉に声をかけた。
「……ボス、あの方は……」
「あいつはラル・ミルチ、コロネロの元上司で彼女」
「?」
「付き合ってるんだよ、あの二人」
「付き合う……(って何に)」
「(分かってなさそうだな)よくケンカしてるけどな。早く結婚しちまえばいいのに」
「……仲がいいんですね」
「そうだな」
隣で微笑む綱吉の気配を横に感じながら悧塢は再びこちらに向かってくる藍色を見つめる。コロネロは屋敷から少し離れた場所で動かなくなっていた。
「……あの、ラル・ミルチさんが戻って来ましたけど……」
「ああ、多分お前に会いに来たんだと思うよ」
「え」
「大丈夫だよ、コロネロと違ってちゃんとした奴だから」
「……」
まだ不安げではあるものの綱吉が言うのならと大人しくこちらに向かってくる波動を追っていれば、程なくしていまだコロネロに苛立っているラルが再び屋敷の扉を開けて中に入って来る。何故苛立っているのかは分かっているため綱吉はわざわざ口にしたりはしない。
「沢田、元気か」
「元気だよ、ラルも相変わらずみたいだね」
「あのバカの女癖はどうにかならんのか」
「……たまにはコロネロの言い分も聞いてみれば?」
「……気が向いたらな」
「で、なんで戻ってきたの?」
「沢田のお気に入りとやらが気になってな」
「ああ、この子だよ」
頭に手を置かれても振り払わずにラルの視線を感じた悧塢は頭を下げる。彼女は気付かなかったようだが、目隠しを見たラルの眉間に一瞬だけ皺が寄った。
「……お前、コロネロに変なことされなかったか?」
「……いえ、あの……(なんて言えば……)」
二人の会話から綱吉の昔からの知り合いだと判った悧塢は相手の機嫌を損ねないようなことを言おうとするもコロネロにはいい思い出がないためどう言えばいいのか考えていると、それを察した綱吉が彼女の頭を撫でてラルに視線を送る。
「まぁ、ギリギリだったよね」
「そうか、すまなかったな」
「! いえ、私なんかに謝らないでください」
「……ほう、どんな奴かと思ったが……」
「?」
「お前は大人しい奴のほうが好みだったのか」
「うるさい」
目を細めて綱吉を見たラルは口元にうっすらと笑みを浮かべて視線を悧塢へと移す。ボンゴレのボスが惚れた女性の素性が知りたいのだろう。
「おい、名前を聞いてもいいか?」
「……本名でしょうか。仕事上の呼び名でしょうか」
「できれば本名も聞きたい」
「…………」
「(あー、嫌か)ラル、盲目の鴉ってこいつだよ」
「!」
会って数分しか経っていないのに本名を名乗れと言われて相手の波動を見つめ続ける悧塢を見かねた綱吉が助け船を出した。通り名を聞いて驚く気配が悧塢にも伝わるが、すぐに呆れや同情を含んだ視線が綱吉に向けられてラルを軽く睨み返すもリボーン同様流されてしまう。
「……依頼などあればどうぞ」
「……沢田、こいつ借りていいか?」
「え、やだ。なんで?」
「仕事に決まっているだろう」
「仕事の内容を聞いてもいいでしょうか」
「ああ、上がるぞ沢田」
「勝手に話を進めるな」
「だってボス仕事くれないじゃないですか」
「なんか言った?」
「……なんでもありません」
わざとらしい笑顔で詰め寄る綱吉とそっぽを向いた悧塢に遠い目を向けたラルは気をとり直すようにため息を吐いた。
「なら沢田、リボーンはどこだ」
「さぁ? 朝から出掛けてるけど……」
「……リボーンか鴉を貸せ。急用だ」
「……どんな?」
「表向きは大手企業だが、裏で薬と
「……話だけは聞く。けど鴉を使うかはその後だ」
「わかった」
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