第23章
紅い鴉の夢主の名前
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ボンゴレの屋敷内。その廊下での会話。
「骸様、もう用意した?」
「ちゃんと用意したから安心しなさい。まったく……何故僕まで参加しなくてはいけないんですか……」
「今年は悧塢も参加するって言ったらノリノリだったクセに」
「……クローム」
「………」
別の日、同屋敷内の応接室前での会話。
「毎年やるの飽きないんですかね……」
「いつも仕事ばかりで退屈なのだろう。年に一度くらいはいいではないか」
「……あああ鬱だぁぁ……」
「………」
ここ数日で屋敷内を歩いている時に見かけた守護者の方々の会話。なんだか皆さん任務以外のことに追われているようで忙しそうです。毎年やっていることらしいけれど、肝心な部分は皆さん喋らないから詳細はわからない。自室へ向かう廊下でたまたま出会した武さんに何気無く聞いたらあっさり理由が判明した。
「誕生日?」
「ああ、明後日はツナの誕生日なんだ。みんなその準備してんだろ」
「そうなんですか」
確かに綱吉さんの前ではその話題は絶対に出なかったし、綱吉さんにバレないようにしていたのは判った。驚かせたいのだとしても、そんなに何日も前から準備することがあるだろうか。誕生日だからという理由を聞いても謎が深まるばかりで解決できなくて思わず武さんに訊ねる。
「なんで誕生日で皆さん忙しそうなんですか?」
「へ?」
「生まれた日ってだけですよね?」
「え、いやだから、誕生日おめでとうってパーティー開くだろ?」
「パーティー開くんですか?」
「えぇ!?」
「え!?」
「悧塢今までどんな誕生日過ごしてきたんだよ!?」
「仕事柄目立つようなことは出来ませんでしたし、家でケーキ食べて『生まれた日だね、誕生日おめでとう』って……」
「……」
「……」
「終わりか!?」
「はい」
「すっげー小規模だったんだな……」
「皆さんが大規模すぎるんです」
ここで働き始めて度々自分の認識が他とズレていることは理解してきたけれどそこまで驚くほどなのかと目を眇める。
「いやでもそれじゃ……プレゼント貰ったことないのか?」
「……プレゼント貰うものなんですか?」
「…………ハァァ……」
「なんですかそのため息は」
「これじゃ頼もうと思ってたもんは無理そうだな」
「聞いてますか?」
「じゃあ獄寺んとこ行って料理作んの手伝ってきてくんね?」
「……はい」
もう聞いても答えてくれなさそうなので諦めました。何をするか分からない仕事より料理のほうが楽しいからと軽く手を振って見送る武さんに頭を下げ踵を返す。そういえば獄寺さんは暇があれば毎日のように厨房にいたのを思い出し、何か大掛かりなものでも作るのだろうかと足早に厨房へと向かった。
「獄寺さん、入っていいですか?」
「あ? どうした?」
「武さんが料理作るの手伝ってこいって」
「……お前ケーキ作ったことあるか?」
「……カップケーキ程度なら作りますけど」
「……コース料理は分かるな?」
「はい」
「じゃあ当日のメニューに何を作るか考えてるから、そっちにある材料で試作作ってくれ」
「分かりました」
楽しい、と悧塢は微かに微笑んだ。昔はただ喜んでほしくて頑張っていた料理も今では好きなことのひとつになっている。その上ボンゴレで雇われてからは料理をする機会も振る舞う機会も増えて、喜んでもらえるたびに更に腕が上達したように感じて楽しくて仕方がないのだ。コース料理のメニューはこんなものならどうかと試作を差し出しながら問えば獄寺は味見をしつつもう少し味を濃くできるかと相談しながら厨房で調理できるのも楽しい要因だろう。今まではひとりだったから、余計に。
「……ケーキ、獄寺さんが作るんですね」
「まあな」
「……シェフは呼ばないんですか?」
「また前みたいなことがあると面倒だからな。十代目の誕生日は必ず身内だけでやってんだ」
「へぇ……え、じゃあなんで私も……」
「ああ、お前は強制参加だそうだ」
「……聞いてないんですが……それはボス命令ですか」
「ああ」
「…………」
ボス命令と言われてしまえば反論など出来なくて悧塢は大人しく自分の作業に戻る。お互い暫くは無言で自分の作業に取り組んでいたが、獄寺が突然満足気に悧塢のほうを振り向いた。
「っし、出来た! 悧塢、味見してくれ」
「……何のですか?」
「生クリーム」
「!」
「あー、めんどくせぇからこれで……」
スプーンを用意するのが面倒だったのか獄寺は手の甲に出来上がったばかりの生クリームを少しだけ乗せて悧塢に差し出したが、喋り終わる前に言葉が途切れる。獄寺の目の前にはいつの間に近付いたのか手の甲に乗る生クリームをそのまま舐めとり微笑む悧塢が。
「なっ!!??」
「おいしぃ……」
「何してんだお前は!!??」
「え?」
目の前には真っ赤な顔の獄寺。一瞬何故赤いのだろうと考えるが自分の行動のせいだと理解した悧塢が慌てて距離をとって頭を下げた。
「す、すみませんでした!!!! 無意識とはいえ失礼な真似をっ!!」
「……悧塢」
「はい……」
「……お前、生クリーム好きなのか?」
「………………あんまり言わないで下さいよ?」
「……(十代目へのいい手土産が出来たな)」
「……獄寺さん?」
返事が返ってこないことに疑問を抱いて顔を上げて声をかけると、一瞬間を置いてから獄寺が言葉を紡いだ。
「……メニュー決まったか?」
「あ、はい」
「じゃあ材料人数分あるか確認して買い出ししてこい」
「はい」
「……帰ってきたら試作品のケーキ食うか? 生クリーム多めで」
「! はい! 行ってきます!!」
すぐに量を確認して厨房を出る。駆け足になってしまったのは見逃してくださいと弛む頬を押さえながら悧塢は屋敷を飛び出した。
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