第22章
紅い鴉の夢主の名前
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顔を出したのだからいいだろうと会場を出ていったXANXUSは結局戻ってくることはなく、スクアーロも仕方ないと付いて行ったのだろう。ヴァリアーの面々がインカムで何かやりとりをしたのちボス同様会場を後にしていた。マーモンはため息を吐いて彼らを見送るだけで会場に残っていたが。その波動を追っていた悧塢は視線、それも悪意の篭ったそれを感じて、きっとまたいつものだろうとため息を洩らす。
「……」
「……鴉?」
「何でしょう」
「顔色悪い」
「……気分を害しただけです」
「……俺から「結構です」……」
「十代目、やはりここでしたか……」
「……隼人」
少しだけ呆れたようにため息を吐いたが、すぐに真面目な顔付きに変わった獄寺に綱吉が視線だけで邪魔するなと訴える。だが獄寺は小さく首を振って綱吉の訴えを却下した。
「鴉と話している最中のようですが、お偉方が待ちくたびれています。これ以上延ばすのは……」
「……………」
「十代目」
「……分かった、すぐ行く。鴉、何かあったら言えよ」
綱吉の言葉に無言で頭を下げた悧塢はこちらを窺う複数の波動を感じながらバレないようにため息を吐く。
半ば本気で抜け出そうかと考えていると会場の奥から女性が一人、悧塢の隣に立っていた雲雀に近付いた。自分を見ている女性達とは無関係のようで彼女達も驚いているのがざわめきからも予測できる。
「雲雀様、あちらでお話を聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」
「……何の」
「先日、父が珍しい雲の
「ふーん……本当だろうね?」
「ええ。今もあちらで自慢していますわ」
「……鴉」
「構いません、行ってください」
「君、父親はどこだい?」
「こちらです」
女性に連れられて悧塢の傍を離れた雲雀を見ていた複数の波動が少しざわつき始める。
「やはり嫌ですわね……あの女」
「ボンゴレやヴァリアーの方々と馴れ馴れしすぎよ」
「少々、嫌な思いをしていただきましょうか?」
「そうですわね……」
(……ああ、始まった……)
再びため息を吐くが、今度は周りを気にすることなく疲れたように肩を落とした。程無くして女性が数人悧塢のまわり数m範囲内に誰もいないよう誘導し始める。どうやって敵意を向けてくるのかと波動を追っていれば一人の女性の姿が霧の幻術に包まれて視覚情報と違う動きをし始めた。女性の手にはグラスらしきものがありそれを悧塢の頭上目掛けて放り投げる。こちらの女性たちは自分を害する気満々のようだと悧塢はゆるりと右手を頭上へと持ち上げて薄く黒い炎を灯し、グラスは炎に触れるなり音もなく
「な、何……!?」
「グラスが消えた!?」
「……いい加減にしてくださいよ……」
気だるそうに目を開けた悧塢の瞳を見て女達のうちの何人かが青褪め震えだした。
「紅い瞳……まさか……」
「……盲目の鴉と申します」
「「!!??」」
「あ、あの……冷酷非情な……」
見えるように手に炎を灯して前方へと掲げれば女達は悲鳴をあげて逃げていく。その叫び声に視線が集まり、今度は慌てて駆け寄った親達が青褪めた。
「!? も、盲目の鴉じゃないか!!」
「お前達いったい何をやったんだ!?」
「ボンゴレやヴァリアーと馴れ馴れしいからお灸を据えようと……!!」
「馬鹿ものが」
泣き叫び親にすがり付く女性達の間を縫って悧塢の隣に立った綱吉が眉間に皺を寄せながら手に灯された黒い炎を見た。
「……鴉、消してないよな?」
「はい、脅しただけです」
「……彼女は俺が雇った者です。これ以上ちょっかいを出すならそれなりの措置をとらせていただきます」
悧塢が手に灯った炎を消した後、凛とした声が会場に響き渡り誰もが戦慄して口を噤んだ。その反応に満足したのか綱吉が笑顔で会場内の来客達を見やる。
「さ、パーティーを仕切り直しましょうか」
綱吉の明るい声に彼の怒りが収まったのだと再び会場内が穏やかさを取り戻す。けれど実際のところ綱吉の怒りは腹の奥に押し込めただけで消えてはいない。その証拠に目が笑っていない笑顔の綱吉は悧塢の耳元に低い声で囁いた。
「帰ったら詳しく教えろ」
「今日はお疲れでしょうからすぐにお休み下さい。明日お話ししますから」
「……わかった」
再びため息を吐いた綱吉が急に真面目な顔つきになり何かを見据える。悧塢もその理由が解っているので同じ方向に顔を向けた。
「……鴉、何かいる」
「
「俺がいくから……」
「私の仕事です」
「……」
綱吉の言葉を遮り強めに反論すれば驚いて口を噤む気配がしたが構わず彼の横をすり抜けた悧塢は短刀の刃先に黒い炎を灯し、波動のある場所に向かって投げ付ける。見つかるはずがないと思っていたのか防御する気配すら感じられず、突然の攻撃に不安定になったそれが姿を現し一瞬で会場内は騒然となった。
『キシャァァアアア!!!』
「蛇の
炎に触れてボロボロとその形を失っていく
「……」
「なんだね?」
「貴方ですね、あれの持ち主」
「どこに証拠があると言うんだ」
「炎の波動を調べればすぐに貴方だと判りますよ」
「……そんなもの」
「私にはその波動が見えています」
「デタラメを言うな!!」
怒鳴った男に綱吉が歩み寄ると男は畏縮しながら弁解しようと慌てふためく。
「ボンゴレ! 私は何も……」
「こいつに波動が見えているのは確認済みですから」
「!」
自分の弁解など聞こうとせず悧塢の発言を真実と受け取った綱吉に驚いて、男は忍ばせていたらしい小型ナイフを取り出し怒りを露にした。
「おのれ盲目の鴉!!!!」
「……」
武器を手にまっすぐ悧塢目掛けて突っ込んでくる男に、黒い炎を手に灯したまま立ち尽くす。怒りで周りが見えていなかったらしく、男は悧塢の手に灯った炎に自分から突っ込む形となった。武器もろとも左手が
「っ! うわぁぁあああああ!!??」
「鴉」
綱吉の静かな呼び掛けで黒い炎を消した悧塢は床の上で苦しみ悶える男を一瞥した。床には血溜まりが広がっていく。
「……」
「ひぃっ!? く、来るなぁ!!!!」
男に目線を合わせてしゃがんだ悧塢は無言のまま
「っっ!! ……?」
「……再びボンゴレの命を狙うならば、貴方の命の保証は致しません」
「何を……!」
男が痛みに備えて体を強張らせ目を瞑るが、予想した激痛が来ない上に左手の感覚が戻っていることを不思議に思い恐る恐る目を開けると、悧塢によって
「手が!?」
「失礼致します」
その瞬間、一部始終を見ていた来客達の悧塢に対する目の色が変わった。立ち上がって綱吉に歩み寄ろうとする悧塢の周りにはすぐさま人だかりが出来て、綱吉を含む数人の眉間に皺が寄る。
「素晴らしいよ! 盲目の鴉!!」
「今の力を私のファミリーで活用させてくれないか!」
「いや! 私のファミリーで……」
発砲音が響く。囲まれた悧塢が天井に向かって一発分引き金を引いたのだ。静まり返った会場とは裏腹に悧塢の精神はざわついて仕方なかった。
「……申し訳ありませんが、今の雇い主はボンゴレ十代目です。私の独断で仕事を引き受けるわけにはいきません」
これはマズイかなと、銃を持ったまま綱吉に歩み寄る悧塢に来客達が道を空けるという不思議な光景を見つめていたマーモンがクロームに近付いて小声で話しかける。
「クローム髑髏」
「あ、マーモン」
「……鴉とそれなりに会話はするかい?」
「うん」
「……帰ったら、広い場所に一人きりにしたほうがいいよ」
「何故?」
「……あの状態で放っておくと屋敷半壊は免れないから」
「……わかった、ありがとう」
「……これっきりにしなよ、こういう場所に鴉を連れてくるの」
「えー勿体無い~」
「荒れるよ」
「わかった、ボスにも言っておく」
この情報は共有しておいたほうがいいだろうと耳打ちしたクロームの言葉に眉をひそめた綱吉がマーモンへと視線を移す。見られた本人は小さく頷いてから会場を後にした。
「……暴れるから一人にしてやれって……」
その後は特に何も起こらず来客達も帰路に着く。勿論主催者側であっても片付けをするわけでもない綱吉達も屋敷へと帰っていた。そんな中、悧塢の化粧を落として自分の着替えを済ませたクロームはマーモンに言われたことを思い出す。確かにあれだけ敵意に晒されても反撃してはいけないとなれば悧塢もストレスが溜まるだろうと彼女の背中を軽く押した。
「はぁ~疲れたね~」
「……お疲れ様でした」
「……今日はもう休みなよ? あ、もう皆部屋に戻ったから一人で暴れたいならトレーニングルーム空いてるからね」
「?」
「マーモンがね、一人にしてやれって」
「……ありがとうございます」
仕事をする時のような動きやすい服装に着替えた悧塢はクロームに提案されてトレーニングルームに向かう。パーティー会場では軽い報復の手伝いと、何も言わずに隣に居てくれたこと。パーティーが終わった後の気遣いまでクロームを通じて施されて、階下へ向かう道すがら感謝せずにはいられなかった。
「今日はマーモン様に助けられてばかりだな……」
微笑んでトレーニングルームに繋がる扉を潜ると試作段階の
深夜の屋敷を僅かな地響きが震わせる音に綱吉は小さく嘆息した。
「……本当に暴れてるし……」
クローム伝いで齎されたマーモンの助言に対して実は半信半疑だったのだが、今の爆発音を聞いては納得せざるを得なくなり綱吉はトレーニングルームに向かう。扉を潜ると抉れて崩れた障害物が瓦礫と化してそこかしこに散乱しており一目では悧塢を見つけられない状態になっていた。
「悧塢、音凄かったけど大丈夫か?」
返事はない。確かに大声で呼び掛けたわけではないけれどと不思議に思いながらも声を掛けながら奥へと進む。
「また派手にやったなー、どこにいるんだよ悧塢」
変わらず返事はない。今度は明確に何処だと呼び掛けるも返ってくるのは静寂ばかり。流石に不安になった綱吉の足は次第に速くなる。
「悧塢、どこだ!」
カラン、と散乱する瓦礫とは違う材質が落下した音を頼りに奥へ進むと疲れ果てたように壁に凭れ掛かって眠る悧塢の姿があった。すぐそばには普段から使っている短刀が落ちていて、聞こえた落下音は手のひらから短刀が滑り落ちた音だったのだと息を吐き出す。
「良かった……悧塢、風邪ひくぞ」
「……zZ……」
「……悧塢?」
「……zZ……」
「……」
あまりにも反応を示さない為まさかと過った綱吉は悧塢の顔の前に手を伸ばすが相変わらず反応はない。そのまま頬に指を滑らせるも瞼が震えることすら無かった。
「……連れてって平気かな」
そっと横抱きにするが身動ぎひとつする気配がなく歩いていても腕の中で小さく寝息が聞こえるだけの悧塢の様子に綱吉の中でふつりと欲が湧く。
今なら何をしても気付かれない。
そんな考えが頭を過るが首を振ってその思考を振り払う。彼女の意思が無ければ強要と変わらない。そう、思いながらも、連れていったのは悧塢の部屋ではなく綱吉の部屋。ベッドに降ろすとすぐ脇に腰を降ろして彼女の頬に触れながら微笑んだ。
「……悧塢ー、起きないとキスしちゃうよー?」
「……zZ……」
「……口にするよ?」
「……zZ……」
「……」
鼻先が触れるか触れないかのギリギリのところまで顔を近付けるが起きる気配などあるわけもなく、寝ているから仕方ないと自分に言い聞かせても不満なものは不満なわけで。相変わらず頭を占めるのは悪戯したいという感情ばかり。
「こんなに近くで寝顔見たの初めてだな」
「……zZ……」
「……ねぇ悧塢、いつになったら気付いてくれんの?」
気付かれないのをいいことに頬に優しく口付ける。
相変わらず開かれることのない瞼に苦笑を溢して目を細めた。
「気付いてくれないなら、本気でアプローチかけるからね」
そう呟いて悧塢の横に寝転び、翌朝の彼女の反応を思い浮かべて目を閉じる綱吉の口元には自然と笑みが浮かんでいた。
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