第20章
紅い鴉の夢主の名前
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「明日、かぁ……」
食堂で昼食を終えて暫く経った頃、悧塢が溜め息混じりに呟いた。隣で緑茶を啜っていた雲雀はゆったりとした動作で彼女を見やる。
「……パーティーのことかい?」
「はい、恭弥さんも行かれるんでしょう?」
「親善パーティーは守護者全員強制参加だからね。今回は悧塢がいるからいいものの、毎回群れる奴等を見ると咬み殺したくなるよ」
「ですよね……」
「え?」
「あ、失言しました。親善パーティーなんですから穏便に、ですよね」
「……さっきのが本心かい?」
「……私、そもそもパーティー嫌いなんです……」
「……この前みたいなことがあるから?」
この前。
メイドに瞳を見られて悲鳴を上げられた時のことだろうと悧塢は苦笑しながら頷いた。
「酷い時はワインとかフルーツとか投げ付けられましたから」
「……誰? 僕が咬み殺してくるよ」
「ご心配なく。既に
「そう」
自分で報復しているのならと呟いて再びカップに口を付ける雲雀から視線を外した悧塢が小さく溜め息を吐きながら心配なのは別のことだと口を開く。
「……明日は鴉として行くのに最近短刀使ってない気がして……腕が訛ってないか心配なんです……」
「……なら、僕と手合わせする?」
「いいんですか?」
「悧塢と手合わせしてみたいと思ってたんだから断る理由ないでしょ」
「じゃあ、お願いします」
雲雀はカップを置いて地下にあるトレーニングルームに向かう。当然悧塢もその後ろについていった。
「私は炎使わないほうがいいんですよね」
「……使わないで僕に勝てるとでも?」
「恭弥さん、以前は本気で戦ってくれなかったから判りませんけど、おそらく……」
「なんだ、気付いてたの。ああ、それか沢田?」
「はい」
「そ」
会話が途切れてから暫くしてトレーニングルームに着くと、雲雀が
「始めようか」
「お願いします」
言葉と共に向かってきた雲雀を軽く床を蹴って避け、短刀を取り出し投げ付ける。しかし雲雀もあっさり避けて短刀が床に刺さるのを横目で見ていた。
「……」
「余所見してたら怪我しますよ」
「馬鹿にするのもいい加減に……!」
「ほら」
悧塢が視線で示したのはいつの間にか床に撒かれた粉末状の何か。更に青白い液体を撒くと化学反応で生じた濃い煙が辺りを包む。
「っ……」
「死にはしませんが、多少苦しいので気をつけてくださいね」
「こんなもの……」
トンファーを回転させて煙を払う雲雀に、悧塢は口元を綻ばせた。
「っ!」
「だから、言ったじゃないですか」
雲雀の真後ろで、悧塢の声と機械音が響く。いつか珱に貰った銃だ。
「余所見してたら怪我するって」
「……それで、勝ったつもりかい?」
「え?」
悧塢が聞き返した瞬間彼女を鎖が戒めた。視線で出所を辿ると雲雀のトンファーの先に繋がっている。
「……本気、出さないんですか?」
「なんでだい?」
「私はちゃんと戦えないと意味のない存在なんです。私を殺す気でやって頂かないと」
悧塢の冷めた視線に雲雀の闘争心が疼く。普段の悧塢ではない、“盲目の鴉”と呼ばれ恐れられる彼女の視線に。
「いい目だね……」
自力で鎖から抜け出した悧塢はどこからか別の武器を取り出し雲雀を見据えた。
「私も本気出します。炎は使いませんけど」
「おいでよ、ぐちゃぐちゃに咬み殺してあげる」
短刀にダガーナイフにワイヤー、鉈、拳銃、仕込み鎌。どこから溢れてくるのかと聞きたくなるほどの武器の量に雲雀が感嘆の声を漏らす。今悧塢が使っているのはサバイバルナイフだ。
「まったく、どこに隠してたの、そんな量」
「色々」
「じゃあ、ここはっ」
言いながら雲雀のトンファーが悧塢の腹部を掠めると、服が裂けたそこから現れたのは包帯で固定された複数の小袋。しかし、固定していた包帯が破れて小袋が床に落ち、少なからず彼女の肌が露出する。
「……」
「気を抜いたら危ないですよ」
「!」
悧塢は肌の露出など気にしていないらしく惚けかかった雲雀目掛けて短刀を投げる。軽くかわした雲雀は目を細めてトンファーを握り直し悧塢に向かっていった。
「(次で決める……)っ!」
「甘いよ」
「!?」
サバイバルナイフで決着をつけようとするが、雲雀のトンファーの形状が変わり棘が飛び出す。リスクを考えトンファーを避けて反撃しようとするも一歩遅く、雲雀の足が悧塢の鳩尾に入り壁に叩き付けられた。
「かはっ!!! っ、げほっ!! ごほっ!!」
「……大丈夫かい?」
「けほっけほっ、はっ……さいごのは……けっこう、きましたよ……」
「……やっぱり強いね、悧塢は」
「でも、守るべき対象に守られるのは、ヒットマンとしては失格です……」
「炎を使ってないのにここまで僕と殺り合える奴はそうそう居ないよ」
「……フォロー頂き、ありがとうございます」
「……疲れた。上行こう」
「……はい」
「……怒られるかな」
「え?」
「悧塢をこんなにボロボロにしちゃったからね」
「……あ」
悧塢は漸く自分の格好を認識した。先程の戦闘で服の至るところが裂けているのだ。腹部のところは鳩尾の下まで裂けているため、臍や角度によっては肋骨の辺りまで見えそうだ。長めのパンツを履いていたにも関わらず、何故か太股辺りから下は無くなっている上に、左肩に残った布が無ければ服が脱げてしまうのではないかと思うくらい服の面積が減少していた。この格好のまま戦っていたと思うと流石の悧塢も恥ずかしくなる。
「あの……恭弥さん、上着貸して頂けますか?」
「いいよ」
雲雀のスーツも肘の辺りから無くなっていたり裾がボロボロになっているが、悧塢の体格上隠しきれるので問題はない。
「弁償……したほうがいいですか?」
「気にしなくていいよ。言い出したのは僕だし、ある程度は予想出来てたから」
「……そうですか」
怒られると畏縮しながら悧塢は雲雀と共に執務室へと向かった。
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