第17章
紅い鴉の夢主の名前
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「悧塢」
「何ですか?」
「前に買ったドレスあるだろ」
「え……はい」
突然部屋に訪れた綱吉の言葉に嫌な予感がしながらも悧塢は素直に答えて頷いた。
「今メイド呼んだから、ちょっと着てみてサイズとか着方とか確認し「ちょっと待って下さい!! 今メイド呼んだって言いました!?「……そうだけど……」
「っ……まさか名前、教えたんじゃ……?」
「ああ。名前知らないと呼ぶ時面倒だろ?」
「……っ!?(波動がこっちに来る……!)」
近付いてくる守護者以外の波動に綱吉の話が本当であることを確認させられ、焦りと不安と不快感と様々な感情が一気に押し寄せた悧塢は思わず言葉が口を突いて出ていた。
「最低……」
「え……?」
呟いた言葉は静かな部屋でははっきりと聞き取れてしまい綱吉の表情が強張る。だが、そんな彼を残したまま悧塢は部屋を飛び出して波動から逃げることに意識を集中させていた。どこをどう進めばメイドに会わなくて済むのか、波動が見える悧塢には手に取るように判る。けれど複数の波動から逃げなくてはならない状況ではどこか一ヶ所に追い込まれてしまえば負けなのだ。
「(……どこか……メイド達が絶対に入らない部屋に隠れなきゃ……でも、それが分かっている相手だと逆に絞り込まれる……)」
考えを巡らせながら走る悧塢の視界にひとつの扉が飛び込む。ドアノブの上には埃がうっすらと積もっており、メイドはおろか守護者ですら最近入っていないと言う証拠。躊躇うことなくその扉を開けるが、ドアノブに触れたことで埃が拭われてしまい、それに白い炎をあて部屋に入った痕跡を無くして扉を閉めた。
「……けほっ(流石に誰も入っていないだけあって中も埃だらけ、……!)」
「羽鳴邪様ー」
「どこにいらっしゃるんですかー?」
「……」
複数の波動が近付いてすぐに聞こえた自分を呼ぶメイドの声。ひとつひとつ部屋を見て回っているらしく、扉を開け閉めする音が段々近付いてくる。しかし、その音は目の前で途切れた。
「……」
「あ、その部屋は駄目」
「え?」
「ドアノブが壊れているらしくて内側からは開かないのよ。それで昔閉じ込められてそのまま……っていうことがあったらしくて、今は立ち入り禁止になってるの」
「そんな恐ろしい部屋なの!?」
「それにドアノブに埃が被ったままだし、この部屋にはいないわよ」
「そうね」
扉の向こうで交わされた会話に安堵と共に洩れたため息。
「(……出る時はドアノブを
悧塢はメイド達が自分を探すのを諦めるまでと部屋の奥にうずくまる。
「……会いたくない……メイド達だってきっと……私の瞳を見たら───」
嫌な想像だけが頭を占めるが、なんとか感覚だけで波動を追う。綱吉はいまだに先ほど居た部屋から動けないでいるようだ。しかし、メイドがそんなことに気付くわけもなく悧塢を探して動き回る。
「………」
「どちらですかー? 羽鳴邪様ー」
「お召し物を着て頂きたいので出てきていただけませんかー?」
「(……ボスの馬鹿……)」
思わず心の中で悪態をつくのだった。
その頃、悧塢に“最低”と言われてしまった綱吉はと言うと、いまだに呆然と虚空を見つめていた。
「……(悧塢に……最低って……もしかして俺、嫌われたのか?)」
好意的な相手からの拒絶の言葉に嫌な想像だけが頭をもたげて動く気も起こらない。だが時間が進むにつれて沸いてきたのは彼女に対する理不尽な怒り。
「……そもそも何で俺が最低とか言われなきゃいけないんだよ、名前を教えたのは仕方ないじゃんか、そう考えたらなんかイライラしてきた」
漸く動き出した綱吉は素早く携帯を取り出すととある番号を呼び出して耳に宛てた。今屋敷内にいる守護者たちを執務室へと集めてほしい旨を電話の相手である獄寺へと伝えて携帯を閉じると妖しい笑みを浮かべながら自分も執務室に向かう。
「さーて、俺を怒らせたらどうなるか……嫌ってほど解らせてあげなきゃな」
「え? 悧塢さんが逃げた?」
執務室に守護者を集めて(隼人以外はランボと雲雀とリボーンしか居なかったが)悧塢が逃げた事実を伝えれば案の定な反応が返ってきた。
「……一体何したんだい?」
「……メイド呼んだら逃げた」
「ダメツナが」
「うるせぇ」
「それで十代目、悧塢をどうしますか?」
「見つけ次第部屋に連行して俺に連絡寄越して。以上」
「分かりました」
「「……」」
雲雀とリボーンはまだ不服そうな表情だったが、何も言わずに執務室を後にした。リボーンはそんなことなら協力する気はないと自室へと向かい、雲雀はどこかを目指して迷いなく歩き出す。執務室を出てから僅か数分。雲雀がとある部屋のドアノブをまわした。
「……いた」
「!?」
「やっぱりここだったね」
「恭弥、さん……なんで……」
「彼から逃げたなら誰にも会わない場所を選ぶと思ったからね。ドアノブの埃なんて君なら何とでも出来るだろう?」
「……メイド……会いたくないです……」
「……分かった」
仕事とは関係ないせいか珍しくはっきりと拒絶を示しながら差し出された手を大人しく掴んだ悧塢は軽々と立たされる。
「……メイドに会いたくない理由は、やっぱり瞳かい?」
「……はい」
「……まったく、悧塢のこと分かってないね、彼は」
「じゃあ恭弥さんなら分かるんですか?」
「当たり前でしょ」
「即答ですか……」
そんなやり取りに思わず笑みが溢れた悧塢を見て、雲雀も口元を弛ませた。
「ほら、笑った」
「!」
「こんな簡単に君は笑うのに、彼には出来ない」
「……」
「……、……逃げるなら僕のところにおいで。匿うくらいなら出来るから」
「……ありがとうございます、恭弥さん」
雲雀の優しい言葉に微笑んで礼を言えば、掴んだままだった手を引かれ歩き出す。
「彼にも会いたくない?」
「……きっと、怒ってる……」
「……何か言ったのかい?」
「……メイドを呼んだって聞いて……最低、って……」
悧塢の言葉を聞いて漸く先ほどの綱吉の態度に納得した雲雀はため息を吐いた。
「成る程ね……それで捕まえようとしてたのか……」
「!? やっぱり怒ってるんだ……」
「……彼は怒ったとしても君に危害を加えるようなことはしない筈だから怖がる必要はないよ」
「……そう、なんですか……?」
「信用ないね。悧塢のこと大事にしてるから、あれでも」
「……そうですね」
悧塢の部屋の前まで来た雲雀は彼女の部屋の扉を開けてその背中を軽く押すと室内へ入るように誘導する。無理に行動を制限しようとしない雲雀の気遣いに悧塢もその誘導に素直に応じた。
「悧塢が戻ったこと伝えてくるから、部屋で大人しくしてな」
「……はい」
「ついでにメイドに自室待機命じさせるから」
「あ、ありがとうございます」
悧塢の頭を優しく撫でてその場を離れる雲雀だったが、廊下の角を曲がって姿が見えなくなった際の表情は珍しく少し苦しげで。
「(情けないな……)」
綱吉から逃げるくらいなら自分を選べ。そんな言葉すら彼女に言えなかった自分に。
雲雀が部屋を離れてから数十秒。ほぼ入れ違いでやって来た波動に驚いて悧塢が身を硬くした。
「(メイドが……! お願い、通り過ぎて……)」
そう願う悧塢の思いとは裏腹に波動は彼女の部屋の前でピタリと止まる。これは居留守を使うしかないと息を押し殺した。
「羽鳴邪様? お部屋にいらっしゃいますか?」
「………」
「……入りますよー」
「!? ちょっ!!」
「あ、いらっしゃったんですね。綱吉様から着替えを手伝うようにとの言伝てがあるので部屋に入りますね?」
「!? 待っ「失礼しま……!? 盲目の鴉!!」」
無遠慮に部屋に入られ咄嗟に顔を背けるも、メイドの表情が驚きと恐怖の色に染まっていくのが気配と声で理解できた悧塢の肩から力が抜けた。
「やっ……きゃああぁぁぁあああ、!!!!」
「……」
ある程度離れた所でメイドの絶叫が途絶え、左腕と右脚、首が床に落ちた。悧塢が黒い炎の灯ったワイヤーで切り落としたのだ。
「……だから嫌なのに……」
目を細めて死体を一瞥すると処理をすることなく部屋へと戻って扉を閉める。死体を見てメイドたちも近付かなくなるだろうと悧塢は思考を放棄してしまっていて、そこへ綱吉と共に現れた雲雀がため息を溢した。
「……間に合わなかったみたいだね……廊下にメイドのバラバラ死体みたいのがあるよ」
「……ったく。悧塢、入るぞ」
綱吉は呟くと悧塢の部屋の扉をノックして返事を待たずに中へと踏みった。
「……」
「悧塢?」
「知らない方を部屋に来させないで下さい」
「……」
ベッドに横になっている悧塢の声は、背中越しでも機嫌が悪いと判るほど低い。そんな彼女に対しても綱吉は平然と言葉を投げ掛ける。
「何怒ってんだよ」
「……」
「確かにメイドに名前教えたのは俺が悪かったよ、でもそれだけで殺すことないだろ」
「……それだけな訳無いじゃないですか……」
「じゃあ何だよ、何か言われたのか?」
「……だったらどうするんですか…」
「はぁ……悪かったよ、次からは別のやつに頼「別の人でも私の部屋に来させるの止めて下さい!」……悧塢?」
ベッドから飛び起きて感情が高ぶるままに怒鳴る悧塢に驚いて眉をひそめるが、綱吉の反応がどうであれ彼女の言葉は止まらなかった。
「私は盲目の鴉ですよ! 見る人が見ればわかります! ……だからいつも知らない波動から逃げてたのに……これじゃ……」
「そんなに怒ることないだろ。今日は逃げたお前が悪いんだから」
「っ出てって下さい!!」
「うわっ、ちょっ!!」
廊下へと追いやられてバタンッと勢い良く閉じられた扉から閉め出された綱吉へと視線を移した雲雀は呆れたようにため息を吐いた。
「……」
「馬鹿なの? 君」
「黙って下さい」
「……当分部屋から出てきそうにないね」
「あいつがそんなに怒るわけ……」
怒るわけがないと言おうとした言葉は部屋の中から聞こえる何かの落下音と破損音に遮られた。
「……あれでも?」
「……」
本気でヤバいかもしれないと焦りだした綱吉の背中を冷や汗が伝った。
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