序章
紅い鴉の夢主の名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―これは、紅い瞳の少女『鴉』が引き起こす…
不思議な緋色の物語……―
イタリアの主要都市からは少し離れた古い屋敷の中では、その街並みには似つかわしくない銃声が響き渡っていた。
「ボンゴレだ!! 殺れ!!」
「煩いよ」
銃を構えた男の後頭部に風を切る音と、怠そうな声と、何かが砕けるような音が同時に響く。碎けた音の正体は男の頭蓋骨。それを砕いた獲物は金属製のトンファー。それを携えている黒い短髪の男、雲雀恭弥は強者との命懸けの戦いを好む戦闘狂と言っても過言ではない。そんな男の後ろをまるで散歩でもするかのようについてくる柔らかそうな茶色い髪を襟足だけ伸ばして風に遊ばせる男は、それこそその場に似つかわしくない雰囲気ではあるが、正真正銘雲雀の上司でありこの銃声が響くことになった要因のひとつ。男の名を沢田綱吉。年若いがマフィアのボスである。
「あ、雲雀さん、その辺に居るのは殺っていいですよ」
「……命令しないで。それにほとんど残ってないんだけど」
「え?」
雲雀に言われてそちらに目を向ければ、確かに残っているのは三割……いやもっと少ないかもしれない、と綱吉は周辺の状況を確認する。今夜は裏切り者のファミリー殲滅の為に来たため幹部の中でも手練れで容赦のない雲雀しか連れて来ていない。しかも先程到着したばかりだ。
「一体誰が……?」
思わず呟いた疑問は建物の奥で右往左往している敵の言葉からすぐに答えを得ることができた。
「盲目の鴉だ!! 殺せ!!」
「……盲目の鴉って〝あの〟ヒットマン……?」
「……先客が居たみたいだね」
「みたいですね、でもちょっと興味湧いたので顔だけ見に行
きます」
綱吉がそう宣言して微笑むと、前方を歩いていた雲雀は返事をするでもなくため息を吐いた。敵情視察以外で殺し屋の情報にはあまり触れない綱吉が〝あのヒットマン〟と言う程度には有名な殺し屋の通り名なので戦いを好む雲雀としても会っては見たいのだが、自らの上司の言い方で自分の望みは叶いそうにないと諦めたためである。綱吉も雲雀の心の内に気付いていながら何も弁明することなく裏切り者の元へと急いだ。
「た、助け……」
最後まで言葉を紡ぐことなく事切れた恰幅のいい男の首がゴトリと無機質な音と共に大理石の床に転がった。その亡骸のそばには目元を隠した深い赤色の布を後頭部で結い、黒く短いローブのような物を羽織った、夜のような黒髪を肩の辺りで切り揃えた人物……盲目の鴉と呼ばれるヒットマンが百人は居たであろう広間の中央に一人で立っていた。
「ひゃ、百人をたった一人で……」
「……」
「な、何故私を狙う!?」
「……依頼者の望みです……」
「っ!?」
盲目の鴉が短刀を振り上げたタイミングで綱吉達が目的の人物がいると推測した広間の入り口に辿り着くが、鴉はそちらには目もくれずにひぃと情けない声をあげた男の首を生々しい音と共に斬り伏せた。
「あ、盲目の鴉……」
「殺す手間が省けたんじゃない?」
「……まあねぇ……」
「……」
「ねぇねぇ、盲目の鴉さん、任務って終わった?」
軽い調子で尋ねた綱吉の方を見ることもなく鴉は無言で携帯を取り出すと今回の仕事を依頼したであろう主へと電話をかける。その行動は淡々とし過ぎていてもはや機械的と例える方が適切な気さえするほどだ。
「……はい、終わりました。…………いえ、また機会があれば。……はい、では」
必要最低限の会話を終わらせて契約終了の挨拶と共に携帯を閉じると、鴉は綱吉達のほうを向いた。
「……終わりましたが、何か?」
「君さ、フリーのヒットマンなんだよね?」
「はい」
「じゃあさ、俺に雇われてみない?」
「……構いませんよ」
「それじゃあ、君の名前教えて?」
「……此所では不味いので別の場所にしてもらえないでしょうか?」
「判った」
快く了承した綱吉だったが、その口元には不思議な笑みが湛えられていた。
これは、序章に過ぎない。
1/2ページ