断章Ⅱ
紅い鴉の夢主の名前
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「……ただいま」
どこか呆然とした茶髪の少年が目元を少しだけ染めて自宅の扉を潜ると、部屋の奥から同色の髪を背中まで伸ばした歳の近い少女が顔を覗かせる。その顔立ちは似通っていて二人が血の繋がった身内なのだと判るほどだ。
「お帰り、また湿気た面してるわね~」
「……」
「また任務失敗した? それとも解雇された? あ、門前払いっていうのもあるか」
「……」
普段から強めの言葉を投げかける度に何かしらの反応を示していた少年が今日は全く受け答えをしない事を疑問に感じた少女は訝しげに表情を歪める。
「……ねぇ、どーしたわけ? いつも以上に変よ?」
「いつも以上にってなんだよ」
「いつも変だから」
「……お前に言われたくない」
「武器造ってあげないわよ」
不満気ながらもそんなことよりもと少女に向き合った少年は思いの外真剣な表情をしていたため、少女も仕方なしに話を聞く体勢に入る。過去の同じような状況を思い出しながらそこまで大事でもないだろうと少女は判断しているようだった。
「……なぁ、珱」
「ん?」
「お前さ、運命って感じたことある?」
「…………まさかアンタ……好きな人出来たの!?」
「……うん」
嬉しそうに頷いた少年の返答に先程の自分の判断が覆されたのだと少女は深い溜め息を吐いた。これはとても面倒なことになると、過去に色々やらかしたことのある目の前の少年を薄目で睨む。
「アンタ、まさかまたストーカーやってんじゃないでしょうね?」
「はぁ? なんだよ〝また〟って」
「やっぱり自覚なかったのね、変態」
「ちょっ! 変態って酷い!! 仮にも実の弟に!!」
「はぁぁ……アンタはねぇ、好きになった人を追いかけまわす癖があるのよ。それでどれだけ私が苦労したか……で? どうしたいのよ」
「……その人、男ばっかりの屋敷で雇われてるんだ……しかも好かれてるみたいだし……」
「何よその女! 男目当てで潜り込んだんじゃないの!?」
「そんなことするような人には見えなかったけど……」
「蔭! 案内して!」
「あ、うん」
少年は言われた通りに想い人の雇われている屋敷の前へと己の姉を連れて来ていた。けれど少女の方は連れて来られた場所を見て頭を抱えながら張れるだけの大声で弟を罵った。
「蔭の馬鹿ぁぁ!!」
「ちょっ、叫ばないでよ」
「だってアンタ、此処どこだと思ってるの!?」
「? だからその人が雇われてる屋敷」
少女の指差した先にあるのは少年が説明した通りの屋敷だけで、少女の意図が理解出来なかった少年は首を傾げた。
「あのねぇ!! アンタそれでもヒットマンなの!? 此処は!ボンゴレファミリーの屋敷なのよ!?」
「……え?」
「だからボンゴレ!! アンタ、誰に喧嘩売ろうとしてたかわかってんの!?」
「……あ、鴉さんだ!」
「スルーするんじゃない!! ……いやちょっと待てコラ。今鴉って言った!?」
「うん」
「まさか〝盲目の鴉〟?」
「知ってるの?」
「この大馬鹿者ぉぉぉ!!!」
ヒットマンの端くれであるにも関わらず、有名なマフィアの屋敷もヒットマンの情報も持っていない弟に対しての怒りの叫びがその場に木霊した。
食材の下見を終えて屋敷の敷地内に入った所でその絶叫を聞いた綱吉と悧塢だったが、声の主が先程の少年の連れだと判ると一瞥して屋敷の中へと入っていく。その際、少女の視線が綱吉に向いた。
「あ、でも隣の男イケメンだ」
「とるの? 珱」
「とるわよ!! 蔭、しばらく協力してあげる!」
「やった!」
屋敷の外でそんなやりとりがあったことなど知る由もないが、綱吉はストーカーの少年の隣にいた少女の気配に一抹の不安を抱えつつ隣を歩く悧塢の頭を撫でる。すぐさま抗議の声を上げる姿に笑いかけながらも、面倒ごとはいつものように対処すればいいが彼女にまで被害が及ぶならば早めに始末するのも手かもしれないと物騒な事を考えているのだった。
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