Sweet pea
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蔵馬さんが出かけてから4日ほど経った朝。
いつもと違う騒がしさで目が覚めた。
……どうしたのだろう。
部屋から出て様子を見に行くのも何となく嫌でジッとしていると、駁くんが血相を変えて部屋へ飛び込んできた。
「凛!!」
「え?ど、どうしたの?騒がしいようだけれど。」
おそるおそる問うと、入ってきた駁くんは会うなり私を頭からつま先まで確認するように見て、一息ついた。
いつもの余裕は全くないみたいだ……。
外の騒がしさに加え、この駁くんの様子。
嫌な予感がして私は眉をひそめた。
「はぁ……、どうもこうも蔵馬さんがいないからってあんた目当てに賊がアジトに攻め入ってきたんだよ!とりあえず、あんたが無事でよかった。」
「!!……私が目的。」
「ここから絶対動くなよ!!」
そういって駁くんは来た時と同じように慌ただしく部屋を出ていった。
聞き耳をたてると遠い場所で微かに金属のぶつかるような音が聞こえる。
……どこへ行っても一緒なのね。
それなりに名の通っているであろう盗賊団のアジトでも関係なく私を……いや、
ふと、この混乱に乗じて逃げようかなという考えが頭をよぎる。
幸い襲撃してきた賊はそんなに強くなさそうだ。
任されている駁くんも対応に追われている今なら……。
……いやいや、何考えているの。
見つかったらどうなるか……。
蔵馬さんに捕まった時のことを思い出して青ざめる。
手も足も出なかった。
……捕まったにしては好待遇だしここは大人しくした方がいい、よね。
でもあの蔵馬さんは今、いない。
……。
…………。
やっぱり自由になりたい。
少し考えてから意を決して駁くんのいいつけを破り、ドアを開けて注意しながら部屋の外へ出る。
部屋の外へ出た事で怒鳴り声や悲鳴が鮮明に聞こえるようになった。
……蔵馬さんの部下というより、駁くんの仲間が私がいる事で傷ついている。
そう考えるとなんだかすごく、嫌だ。
気配を消して感知能力を使いながら人のいない場所を探してアジトの外へ出る。
「ごめん、駁くん。やっぱり私は自由でいたいし、私がいる事で迷惑かけるのはすごく嫌。」
「それで?逃げられると思っているのか?」
「っ!?」
その冷たい声色に鋭い殺気。
振り返ってその姿を目に映す前に突き上げられる大きな衝撃と共に激痛がはしった。
最初は足に、そして急な浮遊感の後、腕やお腹へと……。
痛みに耐えながら目を開けると数メートル下の金色の目と目が合った。
「う……っ!」
「近くまで来て血の匂いがすると思えば、この有り様。……お前はしばらくそこで反省していろ。」
「痛っ……くら、ま……さん……。」
痛くてたまらない。
どうにかしようと動く度に深く刺さっていく。
去っていく美しい銀色をただ見つめることしかできない。
……抜けないなら溶かすまでだ。
そう考えて集中しようとするも、あまりの痛さにうまく妖気を練ることが出来ない。
竹に自分の血が重力によって伝い落ちていく。
気が遠くなるような痛みに耐えながら少しずつ竹を溶かしていく。
ここで諦めたらダメだと自分に言い聞かせ、気絶しそうになりながらもなんとかやり過ごす。
なんでこんな目に……。
泣きそうになるのを必死に堪える。
逃げ出そうとした自分が悪いのは分かっている。
でもそもそも、こんな体じゃなければこんな事にはなっていないはずなんだ。
頭が体の痛みと心の痛みとでごちゃごちゃになってうまくいかない。
溶かしていた毒は徐々にただの血へと変わっていく。
……だんだん目が霞んできた。
血を、流しすぎたのかも。
「私は、ただ……普通に暮らしたいだけなのに……。」
こぼれ落ちる本音と涙。
動かない体では拭うことも出来ず、かすみはじめた景色を目を閉じて闇に消す。
「……少しは反省したか?オレは狙った獲物は逃さない主義でな。」
ぼんやりと聞こえる声に目を開けると、その瞬間刺さっていた竹が全て消えた。
地面に落ちると思い、衝撃を覚悟し、固く目を閉じる。
しかしやってきたのは思っていたより小さな衝撃だった。
その衝撃でも十分な痛みを伴うけれど、地面に叩き付けられるよりはマシな痛みだ。
不思議に思いゆっくりと目を開けると、ぼんやりと白いものが目に映った。
半分程しか見えない世界で、赤く染まっていくそれをぼーっとする頭で見ていると、睡魔が襲ってきた。
だんだん痛みも感じなくなってきてる。
死ぬのかなぁ……。
「……少々やりすぎたか。駁、部屋へ。」
「……はい。」
強烈な睡魔に任せて再び目を閉じる。
「ったく、ばーか……。動くなって言ったろ……。」
そんな声が聞こえた気がした。
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