短編
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「ねえ、秀ちゃん。」
「なに?」
「秀ちゃんって好きな子いるの?」
「……特別な子はいるよ。」
「……そうなんだ。」
幼なじみの南野秀一こと秀ちゃん。
今は幾分かマシだけれど、幼い頃は人見知りが本当に激しくて友達が少なかった。
いつも秀ちゃんの後をついてまわっていたほどだ。
そんな私が今まで人とそれなりに上手く付き合えてきたのは彼のおかげで、私は小さい時から彼の事が大好きだ。
ただ、私がいつも話しかけるせいで女の子達は私の事をよく思っていない。
そりゃああれだけ容姿もよくて優しいんだもの、人気は出るよね。
陰口をたたかれているのも知っていたけれど、秀ちゃんから離れたくなくて聞こえないふり、見ないふりをしていた。
最近になって同じクラスの喜多嶋麻弥ちゃんは秀ちゃんの事が好きだと気づいた。
明るくてクラスでイチバン可愛い人気者だ。
麻弥ちゃんはよく秀ちゃんに話しかけていたし秀ちゃんも嫌な顔ひとつせずにそれに応えていた。
だから、秀ちゃんに聞いたのだ。
好きな子いるの?って。
最初はキョトンとした顔をしていたけれど、少し笑って特別な子がいると言った。
"特別な子"
その言葉を聞いた時、頭に浮かんだのは麻弥ちゃんだった。
私はただの幼馴染。
私の事を気にかけてくれるのは優しい彼のお母さんが秀ちゃんに言ってくれているからだろう。
そろそろ秀ちゃんから離れないといけないよね……。
見ていてお似合いだと思ったし、そろそろ秀ちゃんに頼ってばかりもいられないってそうも思った。
そう考えてその日から距離を置いた。
私から話しかけなければ秀ちゃんが私に話しかけてくることはほとんどない。
自分から離れたくせにそれが酷く寂しかった。
……1週間、口を聞かなかったのは初めてだ。
昼休み、秀ちゃんは相変わらず本を読んでいる。
あ、麻弥ちゃん……。
今までは昼休みに本を読んでいても私が話しかけにいっていたから私と秀ちゃんの時間だったけれど、ここ1週間は話に行かないからすっかり麻弥ちゃんに取られてしまった。
取られてしまった?
いや……約束していたわけでもないし、恋人でもないのに何言ってるんだろう。
麻弥ちゃんとおしゃべりしている秀ちゃんを見ていると、不意に目が合った。
びっくりしてすぐに下を向く。
ああ、しまった。
ビックリしてそらしてしまった。
……気分悪くしてないといいなあ。
そしてその日の放課後、私は聞きたくない話を聞いてしまった。
「ねぇねぇ、喜多嶋ちゃんはバレンタインデーどうするの?」
「えっ!?」
「まぁ、わかってるよ!南野くんでしょ!」
「……うん。」
頬を染めている姿はとてもかわいかった。
毎年あげていたけれど今年からはいらないかな……。
うーん、でも最後くらい……。
聞きたくなかったな。
そうしてあげるかどうか悩んでいる間に2月13日という前日にまで日は進んでいた。
……くっつくにしても今年くらいは送ってもいいよね。
幸運なことに今年の14日は日曜日だ。
今日みんな渡していなかったところを見るときっとみんなが渡すのは15日の月曜日……。
当日に秀ちゃんに渡してしまおう。
そうと決まれば作ってしまわないと!
決めてからの行動は早かったと思う。
直ぐ買い物に行ってチョコ作りを始める。
最後くらいは違うものがいいかな……?
毎年生チョコだったし今年はトリュフチョコにしよう。
……明日は渡す前にリナリアの花買っていこう。
生チョコとそう変わらない手順に特に苦戦することなく、初めてにしてはなかなかうまくいった出来栄えに微笑むと冷蔵庫に入れる。
当日の朝になり、迷惑にならないように10時まで待って秀ちゃんのお家に電話する。
数コール後、受話器が上がる音がした。
「もしもし?」
出たのは秀ちゃんのお母さんだ。
「もしもし、おはようございます。凛です。秀ちゃんいますか……?」
「あら、おはよう!ごめんね、秀一は9時ごろに出かけて行ったわ。てっきり凛ちゃんとだと思ったのだけれど。」
その言葉を聞いて一気に気分が沈んだ。
きっと麻弥ちゃんだ……。
「あ、そうなんですね……。あの、今から行っても大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。あ、もしかしてチョコ?毎年ありがとうね!」
「えっ、あ、はい。あの、30分後お伺いします。」
「ええ、待ってるわね。気を付けてくるのよ。」
そういって電話は切られた。
……昨日電話しておくんだったな。
風船のように期待に膨らんでいた胸は一気に空気が抜けて萎んでしまった。
リナリア買って一緒に置いておこう。
きっと秀ちゃんなら意味が分かるだろう。
そしてきっと知らないふりをする。
用意しておいたお気に入りの服を着て家を出る。
ちゃんとお花屋さんに行ってリナリアの花でミニブーケを作ってもらう。
店員さんは始終にこにこしていて、"頑張ってね!"と最後に言葉をいただいてしまった。
恥ずかしい。
秀ちゃんのお家の前まできてインターホンを鳴らすと出たのはまさかの秀ちゃんだった。
……え?
なんで?
出かけたんじゃ……?
ぐるぐると"なんで?"で頭がいっぱいになる。
「凛?ちょっとまって、すぐ行くから。」
言葉を発していないのに一瞬でばれた。
いないと思っていた相手が家にいて動揺で手が震える。
「凛、いろいろ聞きたいことあるからとりあえず入って。」
ドアを開けたままにっこりと笑っているけれど目が笑っていない。
久しぶりに見た、この秀ちゃんスマイル。
って、いや、だからなんで秀ちゃん家にいるの?
軽くパニック状態だ。
「お、おじゃまします。あ、あの秀ちゃん、これ……。」
もうなんだか逃げだしたくて玄関でリナリアのミニブーケとチョコを秀ちゃんに押し付ける。
「え、ありがとう。……!」
急に押し付けられて呆気にとられていたけれど、ミニブーケを受け取って気づいたのか目を見開いた。
その表情に恥ずかしくなって後ろ手でドアを開けようとすると、秀ちゃんに腕を掴まれた。
「ねえ、凛。これ、期待していいの?」
「え?」
予想外の言葉に聞き返す。
え、期待?
なんの話?
「何を誤解しているのかわからないけど、オレが特別だって思ってるのは凛だけだけど?」
「……!」
「"この恋に気づいて"、"私の恋に気づいて"。」
「!!!」
「好きだよ、凛。」
「え!?」
「オレのカン違い?」
「あ、え、いや……わ、私も……好きです……。」
私の返事を聞き満足そうに笑うと、手を引かれリビングへ連れていかれる。
様子がおかしい私を見て、秀ちゃんのお母さんが察したのはそれから数分後の事だった。
わかり易すぎ、と笑われてしまった。
楽しいお茶会も終わり、ふわふわした気持ちで玄関で靴を履く。
近いのに家まで送ると言ってくれた秀ちゃんと歩く。
家の前までくると秀ちゃんの顔つきが変わった。
「……明日、最近の事どういう事が全部説明してもらうから。」
と本日二回目の秀ちゃんスマイルをいただき、震えながら返事をすると彼はにっこりと微笑んだ。
「なに?」
「秀ちゃんって好きな子いるの?」
「……特別な子はいるよ。」
「……そうなんだ。」
幼なじみの南野秀一こと秀ちゃん。
今は幾分かマシだけれど、幼い頃は人見知りが本当に激しくて友達が少なかった。
いつも秀ちゃんの後をついてまわっていたほどだ。
そんな私が今まで人とそれなりに上手く付き合えてきたのは彼のおかげで、私は小さい時から彼の事が大好きだ。
ただ、私がいつも話しかけるせいで女の子達は私の事をよく思っていない。
そりゃああれだけ容姿もよくて優しいんだもの、人気は出るよね。
陰口をたたかれているのも知っていたけれど、秀ちゃんから離れたくなくて聞こえないふり、見ないふりをしていた。
最近になって同じクラスの喜多嶋麻弥ちゃんは秀ちゃんの事が好きだと気づいた。
明るくてクラスでイチバン可愛い人気者だ。
麻弥ちゃんはよく秀ちゃんに話しかけていたし秀ちゃんも嫌な顔ひとつせずにそれに応えていた。
だから、秀ちゃんに聞いたのだ。
好きな子いるの?って。
最初はキョトンとした顔をしていたけれど、少し笑って特別な子がいると言った。
"特別な子"
その言葉を聞いた時、頭に浮かんだのは麻弥ちゃんだった。
私はただの幼馴染。
私の事を気にかけてくれるのは優しい彼のお母さんが秀ちゃんに言ってくれているからだろう。
そろそろ秀ちゃんから離れないといけないよね……。
見ていてお似合いだと思ったし、そろそろ秀ちゃんに頼ってばかりもいられないってそうも思った。
そう考えてその日から距離を置いた。
私から話しかけなければ秀ちゃんが私に話しかけてくることはほとんどない。
自分から離れたくせにそれが酷く寂しかった。
……1週間、口を聞かなかったのは初めてだ。
昼休み、秀ちゃんは相変わらず本を読んでいる。
あ、麻弥ちゃん……。
今までは昼休みに本を読んでいても私が話しかけにいっていたから私と秀ちゃんの時間だったけれど、ここ1週間は話に行かないからすっかり麻弥ちゃんに取られてしまった。
取られてしまった?
いや……約束していたわけでもないし、恋人でもないのに何言ってるんだろう。
麻弥ちゃんとおしゃべりしている秀ちゃんを見ていると、不意に目が合った。
びっくりしてすぐに下を向く。
ああ、しまった。
ビックリしてそらしてしまった。
……気分悪くしてないといいなあ。
そしてその日の放課後、私は聞きたくない話を聞いてしまった。
「ねぇねぇ、喜多嶋ちゃんはバレンタインデーどうするの?」
「えっ!?」
「まぁ、わかってるよ!南野くんでしょ!」
「……うん。」
頬を染めている姿はとてもかわいかった。
毎年あげていたけれど今年からはいらないかな……。
うーん、でも最後くらい……。
聞きたくなかったな。
そうしてあげるかどうか悩んでいる間に2月13日という前日にまで日は進んでいた。
……くっつくにしても今年くらいは送ってもいいよね。
幸運なことに今年の14日は日曜日だ。
今日みんな渡していなかったところを見るときっとみんなが渡すのは15日の月曜日……。
当日に秀ちゃんに渡してしまおう。
そうと決まれば作ってしまわないと!
決めてからの行動は早かったと思う。
直ぐ買い物に行ってチョコ作りを始める。
最後くらいは違うものがいいかな……?
毎年生チョコだったし今年はトリュフチョコにしよう。
……明日は渡す前にリナリアの花買っていこう。
生チョコとそう変わらない手順に特に苦戦することなく、初めてにしてはなかなかうまくいった出来栄えに微笑むと冷蔵庫に入れる。
当日の朝になり、迷惑にならないように10時まで待って秀ちゃんのお家に電話する。
数コール後、受話器が上がる音がした。
「もしもし?」
出たのは秀ちゃんのお母さんだ。
「もしもし、おはようございます。凛です。秀ちゃんいますか……?」
「あら、おはよう!ごめんね、秀一は9時ごろに出かけて行ったわ。てっきり凛ちゃんとだと思ったのだけれど。」
その言葉を聞いて一気に気分が沈んだ。
きっと麻弥ちゃんだ……。
「あ、そうなんですね……。あの、今から行っても大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。あ、もしかしてチョコ?毎年ありがとうね!」
「えっ、あ、はい。あの、30分後お伺いします。」
「ええ、待ってるわね。気を付けてくるのよ。」
そういって電話は切られた。
……昨日電話しておくんだったな。
風船のように期待に膨らんでいた胸は一気に空気が抜けて萎んでしまった。
リナリア買って一緒に置いておこう。
きっと秀ちゃんなら意味が分かるだろう。
そしてきっと知らないふりをする。
用意しておいたお気に入りの服を着て家を出る。
ちゃんとお花屋さんに行ってリナリアの花でミニブーケを作ってもらう。
店員さんは始終にこにこしていて、"頑張ってね!"と最後に言葉をいただいてしまった。
恥ずかしい。
秀ちゃんのお家の前まできてインターホンを鳴らすと出たのはまさかの秀ちゃんだった。
……え?
なんで?
出かけたんじゃ……?
ぐるぐると"なんで?"で頭がいっぱいになる。
「凛?ちょっとまって、すぐ行くから。」
言葉を発していないのに一瞬でばれた。
いないと思っていた相手が家にいて動揺で手が震える。
「凛、いろいろ聞きたいことあるからとりあえず入って。」
ドアを開けたままにっこりと笑っているけれど目が笑っていない。
久しぶりに見た、この秀ちゃんスマイル。
って、いや、だからなんで秀ちゃん家にいるの?
軽くパニック状態だ。
「お、おじゃまします。あ、あの秀ちゃん、これ……。」
もうなんだか逃げだしたくて玄関でリナリアのミニブーケとチョコを秀ちゃんに押し付ける。
「え、ありがとう。……!」
急に押し付けられて呆気にとられていたけれど、ミニブーケを受け取って気づいたのか目を見開いた。
その表情に恥ずかしくなって後ろ手でドアを開けようとすると、秀ちゃんに腕を掴まれた。
「ねえ、凛。これ、期待していいの?」
「え?」
予想外の言葉に聞き返す。
え、期待?
なんの話?
「何を誤解しているのかわからないけど、オレが特別だって思ってるのは凛だけだけど?」
「……!」
「"この恋に気づいて"、"私の恋に気づいて"。」
「!!!」
「好きだよ、凛。」
「え!?」
「オレのカン違い?」
「あ、え、いや……わ、私も……好きです……。」
私の返事を聞き満足そうに笑うと、手を引かれリビングへ連れていかれる。
様子がおかしい私を見て、秀ちゃんのお母さんが察したのはそれから数分後の事だった。
わかり易すぎ、と笑われてしまった。
楽しいお茶会も終わり、ふわふわした気持ちで玄関で靴を履く。
近いのに家まで送ると言ってくれた秀ちゃんと歩く。
家の前までくると秀ちゃんの顔つきが変わった。
「……明日、最近の事どういう事が全部説明してもらうから。」
と本日二回目の秀ちゃんスマイルをいただき、震えながら返事をすると彼はにっこりと微笑んだ。