短編
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仕事を終え、暗い部屋に明かりを灯す。
長い髪を一つにまとめ、晩御飯の準備をする。
冷蔵庫からトマトを手に取りさっと洗ってまな板に置くと静まり返った部屋に違和感を感じた。
いつもは気にならないのに今日はなんだか少し寂しい。
ローテーブルにあったリモコンを手に取りテレビをつける。
適当にチャンネルを変えると賑やかな番組にあたった。
人の声が聞こえるだけで寂しさは少し和らいだ気がする。
作ったご飯を一人で食べていると、青春の再現ドラマが始まった。
ピンク色のチューリップにまつわるお話らしい。
……高校生の時、か。
ふと蔵馬の顔を思い浮かべて無性に声が聴きたくなった。
時間は22時半。
この時間なら家に帰って休んでいる頃だろうか。
手に届く場所に置いてあるPHSに手を伸ばすと電話をかける。
「もしもし?」
数コールの後、聞こえた声に心から安堵した。
てっきり家にいるのかと思っていたけれど蔵馬のほかにも大勢の声が聞こえる。
「もしもし、ごめん、外?」
「あぁ、今日はちょっと飲み会でね。どうかしたんですか?電話なんて珍しい。」
「あーいや、無性に声が聴きたくなって。ごめんね邪魔しちゃって。」
「……。」
「蔵馬?」
「南野先輩!あ、電話中すみません。みんなが2軒目行くぞってうるさくて。先輩も来ますよね?」
「すぐ行きますからちょっと待っていてください。すみません、凛。」
「いいの、声聞けて嬉しかった。またね。」
「南野くん!次行くぞ!」
電話越しに聞こえる声に苦笑して、電話終了のボタンを押す。
……かわいらしい女の子の声だったなぁ。
一緒にいられるその子に少し嫉妬してしまう。
ため息をひとつつくと立ち上がって食器を片付ける。
明日は日曜で休日だし、気になっていた小説でも読もうかな。
ソファに座って小説を読み進めていると、玄関のチャイムが鳴った。
時計を見ると23時半だ。
「こんな時間に……?」
警戒しながらチェーンのかかった扉を開けると私の恋人が立っていた。
「蔵馬、どうしたの?飲み会は?」
「もちろん抜けてきましたよ。」
一度閉めてチェーンを外し、ドアを開けるとスーツ姿の蔵馬が当たり前のように私の横を通って家にあがった。
もう一度戸締りをすると、リビングでジャケットを脱いでハンガーにかけている蔵馬の元へ向かう。
「電話であまりにも可愛い事を言うので急いで会いに来ました。」
「え。」
ネクタイを緩めながら顔だけこちらへ向けて微笑む蔵馬に何とも言えない幸せな気持ちがあふれる。
抜けさせてしまった少しの罪悪感と私を優先してくれたという優越感。
"好き"の気持ちを込めて抱きつくと優しく抱きしめ返してくれた。
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