暗黒武術会編
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そろそろ準決勝が始まったくらいかな。
みんなの応援にも行きたかったんだけど……。
どうしても浦飯くんと師範の事が気になって霊気をたどって近場まで来てしまった。
結局昨日、部屋には帰らなかったみたいだし……。
それに探って気になったのが師範の霊気がすごく弱々しくなったこと。
覆面選手としてきた時の霊力はもう無い。
それどころか修行をつけてもらっていた頃より更に落ちてる。
それに反して浦飯くんと思われる霊力が爆発的に上がった。
でも何だろう、浦飯くんから発せられているのにすごく馴染んでいない。
「この辺りのはずだけど……。」
誰に言うわけでもなく独り言がこぼれた。
時間が経つ毎に胸のざわめきが大きくなってきて不安になる。
キョロキョロ見回しながら森の中を進んでいくと地響きのような音が大きくなってくる。
感じる霊気の方向と同じだ。
地面をけって急いでその方向へと足を進める。
森の切れ目だろうか、日の光が差し込むすこし開けた場所の奥に洞窟が見えた。
近づくにつれ聞こえてくるのは地響きから爆発に似た音になっていく。
何が起こっているんだという疑問と普段と違う異常感に不安を覚えて走る速度が上がっていく。
密集した木々を抜けると、ごつごつした岩が並ぶ洞窟の入り口に人影が見えた。
あの薄桃色の髪……!
「師範!!」
よろよろと歩いて洞窟から出てくる師範に駆け寄る。
「!……凛。はぁ、あたしの教え子にはろくなのが居ないね。ここにきてもお前にできることはないよ。」
師範にしては珍しく私の存在に気づかなかったのか少しだけ目を見開いたが、すぐにため息交じりにそう言った。
……やっぱりひどく霊力が低下している。
「ごめんなさい、どうしても気になって。師範の気もすごく弱々しいし浦飯くんも……。聞こえてくるすさまじい音は……浦飯くんですか?」
「あたしのことは心配ない。そうさな……この大会で試練を乗り切れるだけの霊力がつけばと思ったんだがな……。確かに幽助の霊力は上がったが、この試練を乗り切れるかは……五分じゃ。」
「!?……乗り切れなかったらもしかして……。」
「ああ、死ぬだろうね。でもあのままじゃどのみち100%戸愚呂には勝てない。」
「……。」
この大会のゲストに呼ばれた時点では浦飯くんの死は確実だったと思う。
浦飯くんの霊力を感知できるようになった時、今までより上がっていて頑張ったんだなと思った。
……それでも昨日、戸愚呂と対峙した時には誰も勝てないってそう思った。
今日は準決勝だ。
もう時間がない。
だからこそ師範は最後の試練、師範の霊気の源を渡したんだろう。
……受け入れられるだけの器がないと死ぬ。
本来ならもっともっと力を付けてから渡すはずだったんだと思う。
師範を見ると洞窟の奥をじっと見つめていた。
風が師範の髪を揺らす。
私も音が響く奥を見つめる。
今必死に浦飯くんは渡された力と戦っている。
わたしには想像できないようなすさまじい苦痛が彼を襲っているのだろう。
「あとはあいつ次第だ、会場へ行きな。」
「え?で、でも……。」
「言ったろ、ここにいてもお前にできることは何もない。それにいま準決勝はあの3人だけでやっているんだろ?あたしだってお前が感じている通り、力はほとんど幽助にくれてやった。時が来るまで無駄にはできない状態だ。あいつらだって負けるつもりはないだろうが……万が一、準決勝で誰かが死んだとき決勝の補充のメンバーは誰がやるんだい。幽助の頑張りも無駄にする気かい?」
「死っ……そんなこと!!…………そ、う……ですね。」
「物わかりのいい子は嫌いじゃないよ。お前は戻って大好きな蔵馬の事でも心配しておやり。」
「なっ……!師範!!」
「はーっはっは!ほら、行きな。」
師範は腰に手を当てて大きく笑うと、バシンと私の背中をたたいた。
もう、本当に師範は……。
「……はい、浦飯くんをよろしくお願いします。」
「いわれるまでもないね。」
ニッと笑うと師範は木陰に腰を下ろし、もう話すことはないと言わんばかりに目を閉じた。
二人とも必ず戻ってきてね。
後ろ髪引かれる思いだがここいても仕方がないという事はわかる。
一礼をして会場へ歩みを進めた。
確か会場変わったんだよね、少し遠いから急がなきゃ。
森を駆け抜けながらさっきの言葉を思いだす。
"準決勝で誰かが死んだとき"
……生死をかけた戦い。
わかっていたはずだった。
でもその言葉を聞いたときに心臓をグッと掴まれたように苦しくなった。
どこかでみんななら大丈夫だと思っていたのかもしれない。
蔵馬が死にかけて、戸愚呂チームと対面して力の差を思い知った後でも……。
何とかなるんだと、何とかしてくれると。
1人も欠けることなく終わるんだと。
わかってた。
覚悟していた。
そのはずなのに師範にそう言われてすごく動揺した。
……わかってなかったって事、だよね。
覚悟だってまだできてない、そういう事。
徐々にスピードを上げて急ぐ。
森を抜けると準決勝の会場が見えた……。
ドーム状の何とも言えない形している。
会場に入り中央のリングを見ると飛影と誰かが戦っている最中だった。
勝敗を確認するために電光掲示板に目を移すと既に飛影は1勝して連戦しているようだ。
相手は黒桃太郎。
昨日見た金髪でガム噛んでたやつか。
それにしても全然見た目が違う。
あの時とはうって変わって完全に妖怪だ。
耳は大きく、大きな口からは鋭い牙が見え、手には鋭い爪が生えて体は毛におおわれている。
……見た目は狼男だろうか。
黒桃太郎は一瞬にして飛影との間を詰め、右肩へ噛みついた。
「飛影……!」
思わず叫んでしまったが、次の瞬間飛影は桑原くんの霊剣のような剣をもって黒桃太郎の上半身と下半身を切り離した。
炎の、剣……!
先が折れた剣に妖気と出した炎を合わせて相手を切り裂けるだけの鋭さを生み出したんだ。
何て格闘センスなんだろう……!
「黒桃太郎選手戦闘不能とみなし飛影選手の勝利とします!」
「肉を切らせて骨を断つー!!飛影選手の逆転勝利です!!」
聞いたことのない女性の声とこの大会お馴染みの声が聞こえ下を覗くと、前の試合まで審判兼実況をやっていた女の子が実況席らしき場所にいた。
そういえば、彼女は子兎 ちゃんというらしい。
自己紹介は試合前にしたみたいだけど始まった時居なかったから聞きそびれていたようだ。
リングにいるのは準決勝から雇われた樹里 ちゃん。
2人とも可愛い……。
!?
急に背後に妖気を感知して後ろを振り向くと戸愚呂と独特なマスクをした長い黒髪の男が立っていた。
「お前が例の女か……。」
「……。」
動けない。
見えないけれど何かに囲まれている。
多数の妖気の塊が周りにたくさん浮いている。
動いたら……触れたら危ないとわかる。
「鴉 。」
咎めるような声色で戸愚呂は隣にいた男に対して言うと、目を細めて鴉と呼ばれた男は私を見た。
換気口からの風だろうか。
さらさらと長く黒い髪が揺れている。
「冗談だ、見えてはいないが何か感じているようだな?その美しさも申し分ない。」
鴉と呼ばれた男がそう言った瞬間、周りに感じていたなにかは消えた。
こいつの能力なの……?
能力で何かが私の周りにあることはわかったけれど、それが何なのかは全くわからなかった。
「……何か用ですか。」
「そう警戒するな、今日のところは優勝賞品であるお前と浦飯チームを見に来ただけだ。そのバングルも意味をなさなくなったようだしな。」
「……。左京さんは何か言っていましたか?」
「何も。」
「そう、ですか。」
バングルの件、何かあるかと思っていたけど昨日は何もなかった。
今ここにいるという事を警戒したものの別にペナルティーを課そうとしたわけではない。
その事実に少しだけホッとするものの改めて感じる戦闘力に驚愕する……。
隣のこの男もだけれどやっぱり勝てるビジョンが見えない。
「……ウラメシは足掻いているようだな。」
「!!」
ビックリして鴉から戸愚呂へ視線を移す。
戸愚呂は口の端を上げてニヤリと笑った。
なんで知って……。
師範と浦飯くんが居ないから……?
「決勝で戦えることを楽しみにしている。」
「……。」
本当に闘うのが好きなのね……。
ただ、強い者を求めてる。
「第3戦、蔵馬V.S.裏浦島選手!!」
ハッとして円闘場の方へ目を向ける。
なんで呼び捨て……?
ゲストだから?
いや、いいんだけども。
……なんでそんなことに反応してしまったんだろう。
「始め!!」
「おっと、どうやら両者似たような武器を使うようです。これはどちらの技が冴えるか洗練された技術の勝負となりそうです!」
蔵馬は薔薇のムチ。
裏浦島は釣竿を使うようね……。
両者とも攻撃を始めたが、本気を出してはいないようだ。
互いに様子を見あってるの?
「こ、これはすごい攻防の応酬。両者の間に火花の壁が見えるほどです!」
蔵馬の武器化した植物に引けを取らないあの釣り糸……。
すごく素材が気になる。
しばらく攻防が続いたあと、急に裏浦島が体勢を崩した。
蔵馬のムチが裏浦島に決まると思った次の瞬間……。
裏浦島の攻撃が蔵馬の全身を襲った。
「ダウン!!」
普段なら当たりそうも無い攻撃だったのに。
完全に油断してた……?
でも用心深い彼がそんなヘマするはずが。
裏浦島は何か言いながらニヤニヤ笑っていた。
「どうやら蔵馬選手、敵の奸計にはまってしまったようです!!とうとう本性を現したか裏御伽チーム!!」
なるほど、昔の蔵馬ならはまらなかっただろうけど……。
飛影はくだらん感情だっていいそう。
……悪いとは言わない、人を思いやるって素敵な事だもの。
"戦いの中ではその感情は捨てるんだな。"
昔私がよく言われた事だったのに。
ふと円闘場が糸でドーム状に覆われていることに気づく。
あれは一体?
蔵馬は繰り出される裏浦島の攻撃を血を流しながら避ける。
円闘場の端へ行った瞬間、足に糸が当たり気づいたようだ。
「なんと円闘場を囲み、糸が張り巡らされています!おっと、気付かぬうちにここにも針で糸の一端が……。」
裏浦島は何が箱のようなものを取り出すと、ソレをあけた。
あっという間に糸で作られた結界内に煙が立ち込め、中の様子が見えなくなる。
そして、みるみる蔵馬の妖気が弱まっていく。
あの煙は、なに?
やがて蔵馬の妖気が消え、息を飲んだ次の瞬間……ひどく懐かしい妖気を感じた。
恐ろしく強く、刃物のように鋭い妖気。
「ほう。」
後ろで鴉の声が聞こえた。
振り向くと、目を細めてリングを見ていた。
視線をリングに戻して煙の中を凝視する。
「蔵、馬……。」
……なんだか、やっと会えたような気がする。
今まで蔵馬だって思ってなかった訳じゃない。
疑ってた訳でもない。
学校で私の事を警戒していた時のあの冷たい目、今でも忘れない。
共有している記憶も蔵馬がもっていたものだ。
植物の武器化だって蔵馬のもの。
それでも、やっぱり見た目も妖気も違いすぎて心に引っかかっていたのかな。
蔵馬があの妖狐蔵馬である。
その事実をやっと実感出来た感じがした。
「こちら実況席からは煙でなにも見えません!!審判の樹里さん!!ふたりの状況を知らせてください!!」
妖気にあてられたのか樹里さんの返事はない。
何も見えないせいで会場内はブーイングの嵐だ。
数分経った時、相手チームのひとりが刀を投げつけると、覆っていた結界が破れて煙が消えはじめた。
見えたのは長い綺麗な銀髪の妖狐の時の姿。
あの時のまま、変わらない姿。
「し、死々若丸選手の刀によって結界が破られました!!し、しかしそこに現れたのは一体ーー!?」
煙が完全に消えて徐々に南野秀一の姿に変わる。
「ああ!!く、蔵馬選手!?なんと銀髪の妖怪は蔵馬選手でした!!」
リングの上には剣が刺さった小さい豚のような妖怪が横たわっていた。
……幻魔獣。
怖気付いて余計な事でも話したのかしら。
蔵馬もあの煙の事は知りたいはずだもの。
あの姿でならきっと後ろの人達にも引けを取らないと思うし。
っていうか気配が増えてる。
蔵馬に気を取られて人が増えていることに気付かなかった。
後ろを見ると大きな鎧を着た人が増えていた。
男……だよね。
急に黄色い声が飛び交い始め、何事かと周りを見回すと、死々若丸命と書かれた旗などが色々な所であがっていた。
近くにも集団がひとつありアイドルのライブ会場のような雰囲気になっている。
「キャー!!若様がんばってー!!浦飯チームなんか殺っちゃってちょーだい!」
「あ、でも蔵馬は殺さないでほしいー!!」
「あ〜~~浮気者!!」
そんな会話も聞こえてきて少しムッとした。
「え~~大会も準決勝に突入し、それぞれにファンがついているもようです。華やかで非常にいいですね。」
円闘場に視線を戻すと、横で浦飯チームがじゃんけんをしていた。
飛影は強そうな死々若丸とやりたいんだろう。
蔵馬は煙の秘密知りたいだろうし。
桑原くんは……なんか怒ってるな。
長い……なかなか決まらないな。
じゃんけんで激闘を繰り広げてる。
あ、桑原くんが拳を突き上げた。
「数十回のあいこの結果、結局桑原選手に決定しました。」
流石、桑原くん。
じゃんけんの強さは折り紙付きね。
「あれならいいわー。さっさと殺してー!」
……哀れ桑原くん。
まぁ、桑原くんは雪菜ちゃんしか見えてないし……多少は言われても……。
いいハズないね……。
みんなの応援にも行きたかったんだけど……。
どうしても浦飯くんと師範の事が気になって霊気をたどって近場まで来てしまった。
結局昨日、部屋には帰らなかったみたいだし……。
それに探って気になったのが師範の霊気がすごく弱々しくなったこと。
覆面選手としてきた時の霊力はもう無い。
それどころか修行をつけてもらっていた頃より更に落ちてる。
それに反して浦飯くんと思われる霊力が爆発的に上がった。
でも何だろう、浦飯くんから発せられているのにすごく馴染んでいない。
「この辺りのはずだけど……。」
誰に言うわけでもなく独り言がこぼれた。
時間が経つ毎に胸のざわめきが大きくなってきて不安になる。
キョロキョロ見回しながら森の中を進んでいくと地響きのような音が大きくなってくる。
感じる霊気の方向と同じだ。
地面をけって急いでその方向へと足を進める。
森の切れ目だろうか、日の光が差し込むすこし開けた場所の奥に洞窟が見えた。
近づくにつれ聞こえてくるのは地響きから爆発に似た音になっていく。
何が起こっているんだという疑問と普段と違う異常感に不安を覚えて走る速度が上がっていく。
密集した木々を抜けると、ごつごつした岩が並ぶ洞窟の入り口に人影が見えた。
あの薄桃色の髪……!
「師範!!」
よろよろと歩いて洞窟から出てくる師範に駆け寄る。
「!……凛。はぁ、あたしの教え子にはろくなのが居ないね。ここにきてもお前にできることはないよ。」
師範にしては珍しく私の存在に気づかなかったのか少しだけ目を見開いたが、すぐにため息交じりにそう言った。
……やっぱりひどく霊力が低下している。
「ごめんなさい、どうしても気になって。師範の気もすごく弱々しいし浦飯くんも……。聞こえてくるすさまじい音は……浦飯くんですか?」
「あたしのことは心配ない。そうさな……この大会で試練を乗り切れるだけの霊力がつけばと思ったんだがな……。確かに幽助の霊力は上がったが、この試練を乗り切れるかは……五分じゃ。」
「!?……乗り切れなかったらもしかして……。」
「ああ、死ぬだろうね。でもあのままじゃどのみち100%戸愚呂には勝てない。」
「……。」
この大会のゲストに呼ばれた時点では浦飯くんの死は確実だったと思う。
浦飯くんの霊力を感知できるようになった時、今までより上がっていて頑張ったんだなと思った。
……それでも昨日、戸愚呂と対峙した時には誰も勝てないってそう思った。
今日は準決勝だ。
もう時間がない。
だからこそ師範は最後の試練、師範の霊気の源を渡したんだろう。
……受け入れられるだけの器がないと死ぬ。
本来ならもっともっと力を付けてから渡すはずだったんだと思う。
師範を見ると洞窟の奥をじっと見つめていた。
風が師範の髪を揺らす。
私も音が響く奥を見つめる。
今必死に浦飯くんは渡された力と戦っている。
わたしには想像できないようなすさまじい苦痛が彼を襲っているのだろう。
「あとはあいつ次第だ、会場へ行きな。」
「え?で、でも……。」
「言ったろ、ここにいてもお前にできることは何もない。それにいま準決勝はあの3人だけでやっているんだろ?あたしだってお前が感じている通り、力はほとんど幽助にくれてやった。時が来るまで無駄にはできない状態だ。あいつらだって負けるつもりはないだろうが……万が一、準決勝で誰かが死んだとき決勝の補充のメンバーは誰がやるんだい。幽助の頑張りも無駄にする気かい?」
「死っ……そんなこと!!…………そ、う……ですね。」
「物わかりのいい子は嫌いじゃないよ。お前は戻って大好きな蔵馬の事でも心配しておやり。」
「なっ……!師範!!」
「はーっはっは!ほら、行きな。」
師範は腰に手を当てて大きく笑うと、バシンと私の背中をたたいた。
もう、本当に師範は……。
「……はい、浦飯くんをよろしくお願いします。」
「いわれるまでもないね。」
ニッと笑うと師範は木陰に腰を下ろし、もう話すことはないと言わんばかりに目を閉じた。
二人とも必ず戻ってきてね。
後ろ髪引かれる思いだがここいても仕方がないという事はわかる。
一礼をして会場へ歩みを進めた。
確か会場変わったんだよね、少し遠いから急がなきゃ。
森を駆け抜けながらさっきの言葉を思いだす。
"準決勝で誰かが死んだとき"
……生死をかけた戦い。
わかっていたはずだった。
でもその言葉を聞いたときに心臓をグッと掴まれたように苦しくなった。
どこかでみんななら大丈夫だと思っていたのかもしれない。
蔵馬が死にかけて、戸愚呂チームと対面して力の差を思い知った後でも……。
何とかなるんだと、何とかしてくれると。
1人も欠けることなく終わるんだと。
わかってた。
覚悟していた。
そのはずなのに師範にそう言われてすごく動揺した。
……わかってなかったって事、だよね。
覚悟だってまだできてない、そういう事。
徐々にスピードを上げて急ぐ。
森を抜けると準決勝の会場が見えた……。
ドーム状の何とも言えない形している。
会場に入り中央のリングを見ると飛影と誰かが戦っている最中だった。
勝敗を確認するために電光掲示板に目を移すと既に飛影は1勝して連戦しているようだ。
相手は黒桃太郎。
昨日見た金髪でガム噛んでたやつか。
それにしても全然見た目が違う。
あの時とはうって変わって完全に妖怪だ。
耳は大きく、大きな口からは鋭い牙が見え、手には鋭い爪が生えて体は毛におおわれている。
……見た目は狼男だろうか。
黒桃太郎は一瞬にして飛影との間を詰め、右肩へ噛みついた。
「飛影……!」
思わず叫んでしまったが、次の瞬間飛影は桑原くんの霊剣のような剣をもって黒桃太郎の上半身と下半身を切り離した。
炎の、剣……!
先が折れた剣に妖気と出した炎を合わせて相手を切り裂けるだけの鋭さを生み出したんだ。
何て格闘センスなんだろう……!
「黒桃太郎選手戦闘不能とみなし飛影選手の勝利とします!」
「肉を切らせて骨を断つー!!飛影選手の逆転勝利です!!」
聞いたことのない女性の声とこの大会お馴染みの声が聞こえ下を覗くと、前の試合まで審判兼実況をやっていた女の子が実況席らしき場所にいた。
そういえば、彼女は
自己紹介は試合前にしたみたいだけど始まった時居なかったから聞きそびれていたようだ。
リングにいるのは準決勝から雇われた
2人とも可愛い……。
!?
急に背後に妖気を感知して後ろを振り向くと戸愚呂と独特なマスクをした長い黒髪の男が立っていた。
「お前が例の女か……。」
「……。」
動けない。
見えないけれど何かに囲まれている。
多数の妖気の塊が周りにたくさん浮いている。
動いたら……触れたら危ないとわかる。
「
咎めるような声色で戸愚呂は隣にいた男に対して言うと、目を細めて鴉と呼ばれた男は私を見た。
換気口からの風だろうか。
さらさらと長く黒い髪が揺れている。
「冗談だ、見えてはいないが何か感じているようだな?その美しさも申し分ない。」
鴉と呼ばれた男がそう言った瞬間、周りに感じていたなにかは消えた。
こいつの能力なの……?
能力で何かが私の周りにあることはわかったけれど、それが何なのかは全くわからなかった。
「……何か用ですか。」
「そう警戒するな、今日のところは優勝賞品であるお前と浦飯チームを見に来ただけだ。そのバングルも意味をなさなくなったようだしな。」
「……。左京さんは何か言っていましたか?」
「何も。」
「そう、ですか。」
バングルの件、何かあるかと思っていたけど昨日は何もなかった。
今ここにいるという事を警戒したものの別にペナルティーを課そうとしたわけではない。
その事実に少しだけホッとするものの改めて感じる戦闘力に驚愕する……。
隣のこの男もだけれどやっぱり勝てるビジョンが見えない。
「……ウラメシは足掻いているようだな。」
「!!」
ビックリして鴉から戸愚呂へ視線を移す。
戸愚呂は口の端を上げてニヤリと笑った。
なんで知って……。
師範と浦飯くんが居ないから……?
「決勝で戦えることを楽しみにしている。」
「……。」
本当に闘うのが好きなのね……。
ただ、強い者を求めてる。
「第3戦、蔵馬V.S.裏浦島選手!!」
ハッとして円闘場の方へ目を向ける。
なんで呼び捨て……?
ゲストだから?
いや、いいんだけども。
……なんでそんなことに反応してしまったんだろう。
「始め!!」
「おっと、どうやら両者似たような武器を使うようです。これはどちらの技が冴えるか洗練された技術の勝負となりそうです!」
蔵馬は薔薇のムチ。
裏浦島は釣竿を使うようね……。
両者とも攻撃を始めたが、本気を出してはいないようだ。
互いに様子を見あってるの?
「こ、これはすごい攻防の応酬。両者の間に火花の壁が見えるほどです!」
蔵馬の武器化した植物に引けを取らないあの釣り糸……。
すごく素材が気になる。
しばらく攻防が続いたあと、急に裏浦島が体勢を崩した。
蔵馬のムチが裏浦島に決まると思った次の瞬間……。
裏浦島の攻撃が蔵馬の全身を襲った。
「ダウン!!」
普段なら当たりそうも無い攻撃だったのに。
完全に油断してた……?
でも用心深い彼がそんなヘマするはずが。
裏浦島は何か言いながらニヤニヤ笑っていた。
「どうやら蔵馬選手、敵の奸計にはまってしまったようです!!とうとう本性を現したか裏御伽チーム!!」
なるほど、昔の蔵馬ならはまらなかっただろうけど……。
飛影はくだらん感情だっていいそう。
……悪いとは言わない、人を思いやるって素敵な事だもの。
"戦いの中ではその感情は捨てるんだな。"
昔私がよく言われた事だったのに。
ふと円闘場が糸でドーム状に覆われていることに気づく。
あれは一体?
蔵馬は繰り出される裏浦島の攻撃を血を流しながら避ける。
円闘場の端へ行った瞬間、足に糸が当たり気づいたようだ。
「なんと円闘場を囲み、糸が張り巡らされています!おっと、気付かぬうちにここにも針で糸の一端が……。」
裏浦島は何が箱のようなものを取り出すと、ソレをあけた。
あっという間に糸で作られた結界内に煙が立ち込め、中の様子が見えなくなる。
そして、みるみる蔵馬の妖気が弱まっていく。
あの煙は、なに?
やがて蔵馬の妖気が消え、息を飲んだ次の瞬間……ひどく懐かしい妖気を感じた。
恐ろしく強く、刃物のように鋭い妖気。
「ほう。」
後ろで鴉の声が聞こえた。
振り向くと、目を細めてリングを見ていた。
視線をリングに戻して煙の中を凝視する。
「蔵、馬……。」
……なんだか、やっと会えたような気がする。
今まで蔵馬だって思ってなかった訳じゃない。
疑ってた訳でもない。
学校で私の事を警戒していた時のあの冷たい目、今でも忘れない。
共有している記憶も蔵馬がもっていたものだ。
植物の武器化だって蔵馬のもの。
それでも、やっぱり見た目も妖気も違いすぎて心に引っかかっていたのかな。
蔵馬があの妖狐蔵馬である。
その事実をやっと実感出来た感じがした。
「こちら実況席からは煙でなにも見えません!!審判の樹里さん!!ふたりの状況を知らせてください!!」
妖気にあてられたのか樹里さんの返事はない。
何も見えないせいで会場内はブーイングの嵐だ。
数分経った時、相手チームのひとりが刀を投げつけると、覆っていた結界が破れて煙が消えはじめた。
見えたのは長い綺麗な銀髪の妖狐の時の姿。
あの時のまま、変わらない姿。
「し、死々若丸選手の刀によって結界が破られました!!し、しかしそこに現れたのは一体ーー!?」
煙が完全に消えて徐々に南野秀一の姿に変わる。
「ああ!!く、蔵馬選手!?なんと銀髪の妖怪は蔵馬選手でした!!」
リングの上には剣が刺さった小さい豚のような妖怪が横たわっていた。
……幻魔獣。
怖気付いて余計な事でも話したのかしら。
蔵馬もあの煙の事は知りたいはずだもの。
あの姿でならきっと後ろの人達にも引けを取らないと思うし。
っていうか気配が増えてる。
蔵馬に気を取られて人が増えていることに気付かなかった。
後ろを見ると大きな鎧を着た人が増えていた。
男……だよね。
急に黄色い声が飛び交い始め、何事かと周りを見回すと、死々若丸命と書かれた旗などが色々な所であがっていた。
近くにも集団がひとつありアイドルのライブ会場のような雰囲気になっている。
「キャー!!若様がんばってー!!浦飯チームなんか殺っちゃってちょーだい!」
「あ、でも蔵馬は殺さないでほしいー!!」
「あ〜~~浮気者!!」
そんな会話も聞こえてきて少しムッとした。
「え~~大会も準決勝に突入し、それぞれにファンがついているもようです。華やかで非常にいいですね。」
円闘場に視線を戻すと、横で浦飯チームがじゃんけんをしていた。
飛影は強そうな死々若丸とやりたいんだろう。
蔵馬は煙の秘密知りたいだろうし。
桑原くんは……なんか怒ってるな。
長い……なかなか決まらないな。
じゃんけんで激闘を繰り広げてる。
あ、桑原くんが拳を突き上げた。
「数十回のあいこの結果、結局桑原選手に決定しました。」
流石、桑原くん。
じゃんけんの強さは折り紙付きね。
「あれならいいわー。さっさと殺してー!」
……哀れ桑原くん。
まぁ、桑原くんは雪菜ちゃんしか見えてないし……多少は言われても……。
いいハズないね……。
