次の日も南野くんは私にあの視線をよこした。
その次も、またその次も。

私は一体彼に何をしてしまったのか。
皆目見当がつかない。


あれから一週間経つが、視線を寄越すだけでそれ以外はなにもない。
ただ見張っているだけ。

いい加減私も疲れてきちゃったんだけどな。
げんなりしながらクラスメイトと話している彼に目で訴えてみる。

見つめていると気づいたのか南野くんは少し目を見開いてから凄く冷たい目でこちらを見た。


既視感。


どこかで？
思いを巡らせてみる。


そうだ。

魔界で出会った白銀の美しい狐の目とそっくりなんだ。
鋭く射貫くような目。



私が「普通」じゃない理由。


元々私は妖怪だった。


魔界でS級妖怪に追いかけられ瀕死だった私は、何とか人間界に逃げ込み人間の受精体に憑依した。

「吸血鬼」それが私の前世。


「普通」じゃない。

それどころか人間かどうかも怪しいのだ。


吸血鬼といっても人間界で一般的に知られているような血を飲んで生きる妖怪とは別の存在。


病気の者の血や毒を体の中へ取り込み、どんなものでも妖気で自分の中に抗体を作る。

そして自分の血を他者に薬として分け与えることが出来る種族。

逆に今まで取り込んだ毒や病気を使用することも可能だ。
私の血は薬にも毒にもなる。
毒を取り込むために血を吸う姿から吸血鬼に分けられている。




そんな私を珍しがり盗みに来たのがその美しい妖狐だった。


魔界では名の通った盗賊の頭。

名は「蔵馬」。




今まで何回も見ていたはずなのに今あの目を見て思い出すなんて。
どうして気づかなかったんだろう。
かすかに感じる妖気の感じが少し違ったから？
集中して深く探ってみれば懐かしい妖気を感じる。

額に冷や汗がうかぶ。
心臓がどくどくとすごい音を立てているように感じる。

今日はとても暑いというのに私の周りはあの日、彼からの視線が変わった日のように吹雪いているように感じる。


でも私の記憶違いでなければ彼……、蔵馬とは今まで良好な関係を築けていたはず。
睨まれるようなそんな関係ではなかったはずだ。


「くらまなの？」


動揺が隠せず震え声で微かに言葉を発する。


蔵馬なはずがない。

だって彼は魔界にいるはずなのだから。

人間の姿でこの人間界に居るはずなんてない。
だからそっくりなこの妖気もあの眼差しも蔵馬なはずがないんだ。