第5章 死の秘宝
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第6話 矛盾
朝の光が、薄いカーテンの隙間から差し込んでいた。
イリスはその光の中で静かに目を開ける。
机の上には、折れた杖の欠片。
指先で触れると、ひびの奥に残る魔力の気配がまだ息づいている。
まるで、壊れてなお彼女の心を見守っているかのようだった。
スネイプに「今日と明日は部屋で謹慎だ」と言われた翌朝。
その声がまだ耳の奥に残っている。
冷たく響いたはずのその言葉は、不思議とあたたかかった。
あの人は孤独の中で、すべてを抱え込んでいる。
誰にも頼らず、誰にも弱さを見せず。
だからこそ、あの背中はあんなにも遠い。
どうすれば、孤独にしないでいられるだろう。
どうすれば、あの人を支えられるのだろう。
けれど、わかっている。
彼を守ろうとすることは、彼の戦いを奪うこと。
彼の意志を無視すること。
それはあの人が“私を守る”ために背負っている痛みを、無駄にすることだ。
守りたい。
けれど、守れば傷つけてしまう。
この矛盾を抱えたまま、イリスは息を吐いた。
それでも、あの声をもう一度聞けるのなら。
あの人を孤独の中から救い出せるならそれでいいと思えた。
───
謹慎が明けて授業が再開され、数日。
ホグワーツの空気はさらに重くなっていた。
教室の隅では、泣き腫らした目をした生徒たちが机に伏せている。
廊下を歩けば、擦れ違いざまに肩をぶつけられ、陰口が刺さる。
イリスはそれを淡々と受け流した。
しかしスリザリンの生徒たちは、彼女を見るたび笑い声を潜めず、目を細めていた。
その日も、授業が終わると同時に足早に教室を出ようとした。
だが──。
出口の前に立ち塞がる影がいくつもあった。
複数のスリザリン生。
その後ろには笑みを浮かべる女子生徒と、腕を組んだ男子生徒。
「行くところはまだないだろう? “姫君”。」
ぞっとする声。
教室にまだ残っていた他の組の生徒たちは、目を逸らして次々に出ていく。
やがて扉が閉まり、静寂が降りた。
残されたのは数多くのスリザリンの生徒たちと、イリスだけ。
「やれ。」
その言葉と同時に、制服の襟が乱暴に引かれた。
布が裂け、冷たい空気が肌に触れる。
服を破られるその力の強さによろけて、床に倒れ込む音が響いた。
「やめて!」
声を上げても、誰も止まらない。
足音と笑いが交じり合い、手が彼女の腕を後ろにねじる。
制服が裂かれ、素肌が全て晒された。
イリスはその状況に恥ずかしさも恐怖もない。
ただ、頭のどこかで思い出す――ハーマイオニーたちの言葉。
“人間にとって、肌を晒すのは恥ずかしいことなのよ。”
そう。
人間にとってはきっと、これが屈辱なのだ。
だがイリスは、違った。
見世物小屋で散々晒された身には、羞恥も誇りも、とうに削がれていた。
それでも──
彼らの目に浮かぶ欲と残酷さには、吐き気がした。
男たちが笑いながら近づいてくる。
その顔は、見世物小屋で金を払い、彼女に触れた男たちと同じだった。
「ねぇ、“あの人”にどんな奉仕をしてるのか、ここで見せてみなさいよ?」
女子生徒の冷たい声に、笑いが高まる。
男子生徒が自身のベルトを外そうと手をかけたとき──
「やめろ。」
短く、鋭い声。
ドラコだった。
青ざめた顔で、震える声を押し出す。
「こいつは……闇の帝王のものだ。手を出せば、全員が罰を受ける。」
静寂が走る。
誰かが息を呑み、数人が顔を見合わせる。
「……そうだな。やめとこうぜ。」
一人が笑って言い、順に足音が遠ざかっていく。
やがて最後の一人が出ていき、教室に静けさが戻った。
イリスは床に残された服の欠片を集めようとした。
指が震えている。
そこに、同じように膝をついたドラコが手を伸ばした。
「……すまない。ここまでする奴らだとは、思わなかった。」
その声はかすれていた。
イリスは小さく微笑む。
「ドラコ、私は平気。人間じゃないもの。
私にはこの行為がどんな意味をもたらすのか、知らない。恥ずかしくないの。」
ドラコは驚いたように顔を上げた。
「……そうなのか?」
「ええ。だから、気にしないで。」
その声は穏やかで、どこかあたたかかった。
イリスは、震えるドラコの手から服の布片をそっと受け取り、代わりに彼の肩へ腕を回す。
「私の大切な人は、私が辛い時、こうしてくれたの。
温もりを感じると、凍った心が少しだけ溶けるの。
ドラコ、あなたはすごく頑張ってる。
誰よりも怖い思いをしているでしょう?誰よりも我慢してるでしょう?……それだけで、十分だよ。」
その言葉に、ドラコの目から涙が落ちた。
彼は声を殺して泣きながら、イリスを抱きしめ返す。
闇の支配によりホグワーツは残酷な世界になってしまった。
人間はどこまでも愚かで残酷だけれど、
それでも優しさを捨てきれず、冷たくなりきれない。
そんな矛盾こそが、この世界をまだ生かしているのかもしれない。
朝の光が、薄いカーテンの隙間から差し込んでいた。
イリスはその光の中で静かに目を開ける。
机の上には、折れた杖の欠片。
指先で触れると、ひびの奥に残る魔力の気配がまだ息づいている。
まるで、壊れてなお彼女の心を見守っているかのようだった。
スネイプに「今日と明日は部屋で謹慎だ」と言われた翌朝。
その声がまだ耳の奥に残っている。
冷たく響いたはずのその言葉は、不思議とあたたかかった。
あの人は孤独の中で、すべてを抱え込んでいる。
誰にも頼らず、誰にも弱さを見せず。
だからこそ、あの背中はあんなにも遠い。
どうすれば、孤独にしないでいられるだろう。
どうすれば、あの人を支えられるのだろう。
けれど、わかっている。
彼を守ろうとすることは、彼の戦いを奪うこと。
彼の意志を無視すること。
それはあの人が“私を守る”ために背負っている痛みを、無駄にすることだ。
守りたい。
けれど、守れば傷つけてしまう。
この矛盾を抱えたまま、イリスは息を吐いた。
それでも、あの声をもう一度聞けるのなら。
あの人を孤独の中から救い出せるならそれでいいと思えた。
───
謹慎が明けて授業が再開され、数日。
ホグワーツの空気はさらに重くなっていた。
教室の隅では、泣き腫らした目をした生徒たちが机に伏せている。
廊下を歩けば、擦れ違いざまに肩をぶつけられ、陰口が刺さる。
イリスはそれを淡々と受け流した。
しかしスリザリンの生徒たちは、彼女を見るたび笑い声を潜めず、目を細めていた。
その日も、授業が終わると同時に足早に教室を出ようとした。
だが──。
出口の前に立ち塞がる影がいくつもあった。
複数のスリザリン生。
その後ろには笑みを浮かべる女子生徒と、腕を組んだ男子生徒。
「行くところはまだないだろう? “姫君”。」
ぞっとする声。
教室にまだ残っていた他の組の生徒たちは、目を逸らして次々に出ていく。
やがて扉が閉まり、静寂が降りた。
残されたのは数多くのスリザリンの生徒たちと、イリスだけ。
「やれ。」
その言葉と同時に、制服の襟が乱暴に引かれた。
布が裂け、冷たい空気が肌に触れる。
服を破られるその力の強さによろけて、床に倒れ込む音が響いた。
「やめて!」
声を上げても、誰も止まらない。
足音と笑いが交じり合い、手が彼女の腕を後ろにねじる。
制服が裂かれ、素肌が全て晒された。
イリスはその状況に恥ずかしさも恐怖もない。
ただ、頭のどこかで思い出す――ハーマイオニーたちの言葉。
“人間にとって、肌を晒すのは恥ずかしいことなのよ。”
そう。
人間にとってはきっと、これが屈辱なのだ。
だがイリスは、違った。
見世物小屋で散々晒された身には、羞恥も誇りも、とうに削がれていた。
それでも──
彼らの目に浮かぶ欲と残酷さには、吐き気がした。
男たちが笑いながら近づいてくる。
その顔は、見世物小屋で金を払い、彼女に触れた男たちと同じだった。
「ねぇ、“あの人”にどんな奉仕をしてるのか、ここで見せてみなさいよ?」
女子生徒の冷たい声に、笑いが高まる。
男子生徒が自身のベルトを外そうと手をかけたとき──
「やめろ。」
短く、鋭い声。
ドラコだった。
青ざめた顔で、震える声を押し出す。
「こいつは……闇の帝王のものだ。手を出せば、全員が罰を受ける。」
静寂が走る。
誰かが息を呑み、数人が顔を見合わせる。
「……そうだな。やめとこうぜ。」
一人が笑って言い、順に足音が遠ざかっていく。
やがて最後の一人が出ていき、教室に静けさが戻った。
イリスは床に残された服の欠片を集めようとした。
指が震えている。
そこに、同じように膝をついたドラコが手を伸ばした。
「……すまない。ここまでする奴らだとは、思わなかった。」
その声はかすれていた。
イリスは小さく微笑む。
「ドラコ、私は平気。人間じゃないもの。
私にはこの行為がどんな意味をもたらすのか、知らない。恥ずかしくないの。」
ドラコは驚いたように顔を上げた。
「……そうなのか?」
「ええ。だから、気にしないで。」
その声は穏やかで、どこかあたたかかった。
イリスは、震えるドラコの手から服の布片をそっと受け取り、代わりに彼の肩へ腕を回す。
「私の大切な人は、私が辛い時、こうしてくれたの。
温もりを感じると、凍った心が少しだけ溶けるの。
ドラコ、あなたはすごく頑張ってる。
誰よりも怖い思いをしているでしょう?誰よりも我慢してるでしょう?……それだけで、十分だよ。」
その言葉に、ドラコの目から涙が落ちた。
彼は声を殺して泣きながら、イリスを抱きしめ返す。
闇の支配によりホグワーツは残酷な世界になってしまった。
人間はどこまでも愚かで残酷だけれど、
それでも優しさを捨てきれず、冷たくなりきれない。
そんな矛盾こそが、この世界をまだ生かしているのかもしれない。
