第5章 死の秘宝
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第5話 壊れた杖と残る声
教室の床に、イリスはしばらく倒れたままだった。
痛みはもう魔法のものではない。
けれど、体の奥に残る鈍い痺れが、まだ消えずに息づいていた。
指先を動かそうとしても、まるで鉛のように重い。
自分の体が自分のものでないように感じる。
やっとの思いで体を起こしたとき、教室には誰の姿もなかった。
静まり返った空間に、蝋燭の火だけがかすかに揺れている。
時間は昼を過ぎているようで、廊下には遠くに靴音が反響していた。
イリスは机の端につかまり、足の震えを隠すように立ち上がる。
イリスは壁を伝いながら医務室へと歩き出した。
ポンフリーがいるはずだ。
とにかく、誰かの存在が欲しかった。
自分を責めず、傷つけない顔が欲しかった。
───
人気のない廊下に、笑い声が割り込んだ。
その笑いは喉の底から荒く響き、イリスの胸を締めつけた。
「ようやくおきたの?このアバズレ。」
声の主は三人のスリザリン生だった。
その顔にはわざとらしい笑みを浮かべている。
その目には侮蔑の光が宿り、見下ろす視線が突き刺さる。
一人が軽く手を出して突き飛ばした。
体は簡単に傾き、床に膝をつく。
彼らの嘲笑が耳に刺さる。
「お前がエルフだからって、抵抗したせいで俺の親友が理不尽に罰を受けた。お前の空気を読まない性格のせいでな!」
「そうよ。自分だけ守られて、特別扱いなんて、気分が悪いのよ。私たちが理不尽に虐められてるのをみてどうだった?さぞいい気分だったでしょうね!」
冷たい声が交錯する。
一人が近づき、イリスの片耳を乱暴に掴み上げられた。
瞬間、頭が引き上げられ、耳の根が裂けるような痛みが走る。
悲鳴が漏れる。
「ねぇ、あんたって、あの“名前を言ってはいけない人”に気に入られてるんでしょ?
その見た目で誘った? それとも……奉仕が上手なの?」
もう一人が笑いながら言うと、三人目がイリスの背に足を乗せた
軽く乗せられた足──それが、次の瞬間には暴力に変わった。
腹、胸、背中。
靴の先が骨の上を打つたび、空気が肺から押し出される。
床の冷たさが皮膚に染み、呼吸が乱れる。
蹴られた拍子に、裾の下から杖が転がり出た。
それを一人の男子生徒が拾い上げると、指の間でくるりと回し、冷たく笑った。
「これがないと何もできないだろ?それなら──」
乾いた音が響いた。
杖が、折られた。
その音は、小さな破壊音にすぎなかった。
けれどイリスにとって、それはここでの魔法使いの生活の終わりの合図だった。
イリスは杖がなくても魔法は使える。
それでも──
ここで魔法を学んだ日々も、友と笑い合った記憶も、
そしてスネイプと過ごした静かな時間さえも、ここで生徒として過ごしてきた日々が……。
今、この一音で壊れた気がした。
力が抜け、目を閉じる。
この世界から遠ざかりたかった。
見世物小屋の檻にいた頃と同じ匂いが、また鼻の奥に広がってくる。
どうせあの頃に戻るのは時間の問題なのだ、と。
もう、どうでもよかった。
───
そのとき、廊下の奥から低い声が落ちた。
「……何をしている?」
静けさが、瞬く間に張り詰める。
その声の冷たさに、三人の生徒はびくりと肩を跳ねさせた。
イリスは目を開く力もないままその声を聞く。
どうして...どうして今この声がするのか...。
全てを諦めようとしていたのに...この声がそんなイリスを引き戻す。
「こっ、校長、この生徒がわざと私たちを押したんです。それで少し揉めて──」
「……それ以上、戯言を言うならば、貴様らにも罰を与えねばならぬが、どうするか。」
氷のような声だった。
誰も返事をしない。
三人の顔から血の気が引き、静かに後ずさる。
「...ミス・イリス、どうやら先程の授業で反抗したとの報告があるがどうなんだ?」
イリスは自分へ投げかけられた言葉に、ゆっくりと目を開けた。
目の前に、スネイプが立っている。その瞳がイリスを見つめていた。
その黒いローブの裾が、ほんのわずかに揺れた。
「……イリス。答えろ。我輩の時間を無駄にする気か。」
低く、抑えた声。
イリスは喉が詰まるのをこらえ、かすれた声で答えた。
「……すみません。反抗……しました。」
スネイプはその返事を聞き鼻を鳴らす。
そしてスリザリン生へ視線を向ける。
「イリスを残して戻れ。」
その一言で、三人は逃げるように散っていく
そしてその姿が廊下の角を曲がり完全に消えた。
彼女たちの足音が遠ざかるのを確認すると、スネイプは、折れた杖を拾い上げる。
杖の断面を一瞥しただけで、スネイプは静かにイリスの傍に置く。
その仕草が、彼の声よりも優しかった。
そしてイリスに背中を向ける。
「お前も戻れ。今日と明日は部屋で謹慎だ。」
その背中はまっすぐだった。
声は冷たい。
けれど、イリスには分かった。
それは罰ではなく、休めという命令だと。
目が合った時から堪えていた涙が視界をさえぎりポロポロとこぼれ落ち、床を濡らす。
あの日から、初めて彼の目が自分を見た。
冷たく遠く感じていたスネイプの存在が、冷たい仮面の奥に確かに感じたかつての温もり。
それがたまらなく嬉しかった。
磔の呪いで砕けていた心が、ゆっくりと結ばれていく。
ぼやけた視界で、遠ざかっていくスネイプの背中を見つめる。
黒いローブが廊下の闇に溶けていく。
その姿はどこまでも孤独で、重荷を背負い続ける彼を認めてくれる人はいるのだろうか。
もし──
もしできるなら、私もセブルスの重荷を一緒に背負いたい。
一人で全て守ろうとする彼を私も守りたい。
そんな考えがイリスの中に芽吹き、彼女を奮い立たせるのだった。
教室の床に、イリスはしばらく倒れたままだった。
痛みはもう魔法のものではない。
けれど、体の奥に残る鈍い痺れが、まだ消えずに息づいていた。
指先を動かそうとしても、まるで鉛のように重い。
自分の体が自分のものでないように感じる。
やっとの思いで体を起こしたとき、教室には誰の姿もなかった。
静まり返った空間に、蝋燭の火だけがかすかに揺れている。
時間は昼を過ぎているようで、廊下には遠くに靴音が反響していた。
イリスは机の端につかまり、足の震えを隠すように立ち上がる。
イリスは壁を伝いながら医務室へと歩き出した。
ポンフリーがいるはずだ。
とにかく、誰かの存在が欲しかった。
自分を責めず、傷つけない顔が欲しかった。
───
人気のない廊下に、笑い声が割り込んだ。
その笑いは喉の底から荒く響き、イリスの胸を締めつけた。
「ようやくおきたの?このアバズレ。」
声の主は三人のスリザリン生だった。
その顔にはわざとらしい笑みを浮かべている。
その目には侮蔑の光が宿り、見下ろす視線が突き刺さる。
一人が軽く手を出して突き飛ばした。
体は簡単に傾き、床に膝をつく。
彼らの嘲笑が耳に刺さる。
「お前がエルフだからって、抵抗したせいで俺の親友が理不尽に罰を受けた。お前の空気を読まない性格のせいでな!」
「そうよ。自分だけ守られて、特別扱いなんて、気分が悪いのよ。私たちが理不尽に虐められてるのをみてどうだった?さぞいい気分だったでしょうね!」
冷たい声が交錯する。
一人が近づき、イリスの片耳を乱暴に掴み上げられた。
瞬間、頭が引き上げられ、耳の根が裂けるような痛みが走る。
悲鳴が漏れる。
「ねぇ、あんたって、あの“名前を言ってはいけない人”に気に入られてるんでしょ?
その見た目で誘った? それとも……奉仕が上手なの?」
もう一人が笑いながら言うと、三人目がイリスの背に足を乗せた
軽く乗せられた足──それが、次の瞬間には暴力に変わった。
腹、胸、背中。
靴の先が骨の上を打つたび、空気が肺から押し出される。
床の冷たさが皮膚に染み、呼吸が乱れる。
蹴られた拍子に、裾の下から杖が転がり出た。
それを一人の男子生徒が拾い上げると、指の間でくるりと回し、冷たく笑った。
「これがないと何もできないだろ?それなら──」
乾いた音が響いた。
杖が、折られた。
その音は、小さな破壊音にすぎなかった。
けれどイリスにとって、それはここでの魔法使いの生活の終わりの合図だった。
イリスは杖がなくても魔法は使える。
それでも──
ここで魔法を学んだ日々も、友と笑い合った記憶も、
そしてスネイプと過ごした静かな時間さえも、ここで生徒として過ごしてきた日々が……。
今、この一音で壊れた気がした。
力が抜け、目を閉じる。
この世界から遠ざかりたかった。
見世物小屋の檻にいた頃と同じ匂いが、また鼻の奥に広がってくる。
どうせあの頃に戻るのは時間の問題なのだ、と。
もう、どうでもよかった。
───
そのとき、廊下の奥から低い声が落ちた。
「……何をしている?」
静けさが、瞬く間に張り詰める。
その声の冷たさに、三人の生徒はびくりと肩を跳ねさせた。
イリスは目を開く力もないままその声を聞く。
どうして...どうして今この声がするのか...。
全てを諦めようとしていたのに...この声がそんなイリスを引き戻す。
「こっ、校長、この生徒がわざと私たちを押したんです。それで少し揉めて──」
「……それ以上、戯言を言うならば、貴様らにも罰を与えねばならぬが、どうするか。」
氷のような声だった。
誰も返事をしない。
三人の顔から血の気が引き、静かに後ずさる。
「...ミス・イリス、どうやら先程の授業で反抗したとの報告があるがどうなんだ?」
イリスは自分へ投げかけられた言葉に、ゆっくりと目を開けた。
目の前に、スネイプが立っている。その瞳がイリスを見つめていた。
その黒いローブの裾が、ほんのわずかに揺れた。
「……イリス。答えろ。我輩の時間を無駄にする気か。」
低く、抑えた声。
イリスは喉が詰まるのをこらえ、かすれた声で答えた。
「……すみません。反抗……しました。」
スネイプはその返事を聞き鼻を鳴らす。
そしてスリザリン生へ視線を向ける。
「イリスを残して戻れ。」
その一言で、三人は逃げるように散っていく
そしてその姿が廊下の角を曲がり完全に消えた。
彼女たちの足音が遠ざかるのを確認すると、スネイプは、折れた杖を拾い上げる。
杖の断面を一瞥しただけで、スネイプは静かにイリスの傍に置く。
その仕草が、彼の声よりも優しかった。
そしてイリスに背中を向ける。
「お前も戻れ。今日と明日は部屋で謹慎だ。」
その背中はまっすぐだった。
声は冷たい。
けれど、イリスには分かった。
それは罰ではなく、休めという命令だと。
目が合った時から堪えていた涙が視界をさえぎりポロポロとこぼれ落ち、床を濡らす。
あの日から、初めて彼の目が自分を見た。
冷たく遠く感じていたスネイプの存在が、冷たい仮面の奥に確かに感じたかつての温もり。
それがたまらなく嬉しかった。
磔の呪いで砕けていた心が、ゆっくりと結ばれていく。
ぼやけた視界で、遠ざかっていくスネイプの背中を見つめる。
黒いローブが廊下の闇に溶けていく。
その姿はどこまでも孤独で、重荷を背負い続ける彼を認めてくれる人はいるのだろうか。
もし──
もしできるなら、私もセブルスの重荷を一緒に背負いたい。
一人で全て守ろうとする彼を私も守りたい。
そんな考えがイリスの中に芽吹き、彼女を奮い立たせるのだった。
