第5章 死の秘宝
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第3話 闇に誓う沈黙
マルフォイ邸の扉が、ゆっくりと軋んだ。
薄闇に沈む広間の奥。
ヴォルデモートは黒いソファに腰をかけ、白い手を組んでいた。
指が静かに動き、蛇のように滑らかに絡まる。
その紅の瞳が、スネイプを射抜く。
スネイプは歩みを止め、音もなく跪いた。
石床は冷たく、痛みすらも静寂の一部となる。
「よくやった、セブルス。
ダンブルドアを葬ったお前の忠誠、俺様は満足しているぞ。」
その声は、絹を裂くように細く、鋭かった。
スネイプの影が床に落ち、闇の波紋のように広がる。
「ホグワーツは今、主を失った。
あの城を支配できる者は、もはやお前しかおらぬ。」
「光栄に存じます。我が君。」
「お前が校長を務めろ。
ホグワーツを完全に我が手に。」
「御意にございます。」
低く落ちたその声の底に、言葉にならぬ決意が潜んでいた。
───この城も、生徒たちの命を守るのだ。
───イリスを何としても守りたいと。
ヴォルデモートは薄く笑った。
炎の光がその肌を赤く照らす。
「それとイリスを連れてこい。
あの娘は、俺様のものだ。」
その名を聞いた途端、スネイプの胸の奥で何かが軋む。
けれどそれは既に予想出来ていた言葉だった。
ダンブルドアを手にかけなければならないと分かった時からずっと考えていた。
今この言葉を言われたあとの対応を──。
「イリスを今連れて来ても、まだ忠誠心はございません。
彼女は我らの知らぬ魔法で逃げ出すかもしれません。」
「ならばどうするつもりなのだ? 俺様がイリスを望んでいるのだぞ?」
「時間を頂ければ……、我輩が彼女の心を、我が君への忠誠へと導きましょう。
幸い、あの女は……我輩に好意を抱いております。
それを利用すれば、我が君に跪かせることなど容易いでしょう。」
計画していたとはいえど、言葉を吐くたびに喉の奥が焼けるように痛んだ。
愛を利用と言い換える冷酷さ。
それを口にするたび、人間としての皮が剥がれていくような気がした。
この言葉に苦しい気持ちを抱えるスネイプとは反対に、ヴォルデモートは笑う。
愉快そうに、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。
「イリスは実に哀れだ。
惚れた男が、これほど冷酷だとも知らずに。」
赤い瞳が、嘲るように輝く。
スネイプは黙してその光を受ける。
忠誠を演じる面の裏で、胸を締め付ける感覚に襲われていた。
「よかろう、セブルス。
逃げる可能性は断て。
愚かな感情の鎖を、俺様のために締め上げろ。」
「承知いたしました、我が君。」
深く頭を下げたまま、スネイプは瞼を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、あの夜の別れ際のイリスの表情。
あの瞳に宿っていたのは、どんな冷酷な闇にも染まらぬ光だった。
自分はその光を踏みにじる言葉を吐いた。
心を守るためとはいえ、己の口で愛を穢した。
それは忠誠よりも重い罰のようで、沈黙の底に彼の自嘲が滲んだ。
───
重い扉が開く音が、ホグワーツの石壁に響いた。
冷たい空気が流れ込み、蝋燭の灯が小さく震える。
スネイプは数人の死喰い人を連れ、黒い影のように歩いた。
その足音に応えるように、マクゴナガルが現れる。
「セブルス……あなた、何をするつもりです。」
「挨拶に来たのだ。
新たな校長として。」
「校長……あなたが?」
マクゴナガルの声が震えた。
怒りと哀しみが、同じ光を宿している。
スネイプはただ静かに言った。
「この城を守る者が必要だ。
私がその役を引き受ける。」
「守る? あなたが……?」
その声が途中で途切れる。
マクゴナガルの唇がわずかに揺れ、視線が落ちる。
スネイプは何も返さず、背を向けた。
そのとき視界に入ってしまった階段の上に白い影。
──イリス。
彼女が立っていた。
光のような髪が揺れ、赤い瞳がこちらを見つめている。
その頬に色があり、唇に息が宿る。
あの日から痩せたりなどせず、変わらず生きている。
その事実だけで、胸が軋むほど熱くなる。
だが、恋しさが口を開かせる前に、視線を逸らした。
ローブを翻し、闇の中へと消える。
背後の扉が、静かに彼を飲み込んだ。
───
数日後、ホグワーツの大広間には沈黙が満ちていた。
校長就任の晩餐。
祝福の声はなく、蝋燭の炎だけが揺れている。
教師席の中央に、黒いローブの男。
両脇にはカロー兄妹の闇の魔法を教えるアミカス、マグル学を教えるがアレクトが座っており、笑い声が不気味に響く。
誰も拍手をしない。
皿の上の食事は冷え、フォークの音さえ止んだ。
生徒席の端に、たった1人イリスがいた。
その瞳が、まっすぐにこちらを見ている。
その視線が肌を刺すように届く。
けれどスネイプは、目を合わせなかった。
一度でも感情を見せれば、すべてが崩れる。
闇は隙を嗅ぎつけ、彼女を奪う。
ローブの袖の中で、指先がわずかに震えた。
それを隠すように、ワインを口に含む。
苦味が舌を刺し、喉を通るたびに沈黙が深く沈む。
それに愛を穢してしまった自分にはもうイリスへ向ける顔もなかった。
あのころのようには戻れないが、ただ、イリスが傷つかずに生きてさえくれていたらいい。
それだけで自分は幸せなのだとスネイプは言い聞かせていた。
誰にも、イリスにさえも心を見せてはいけない。
その冷たさが、彼の唯一の鎧だった。
けれどその底には、凍りきらぬ光があった。
遠く離れても消えない白の残滓。
それがまだ彼を人間のまま繋ぎ止めてくれていたのだった。
マルフォイ邸の扉が、ゆっくりと軋んだ。
薄闇に沈む広間の奥。
ヴォルデモートは黒いソファに腰をかけ、白い手を組んでいた。
指が静かに動き、蛇のように滑らかに絡まる。
その紅の瞳が、スネイプを射抜く。
スネイプは歩みを止め、音もなく跪いた。
石床は冷たく、痛みすらも静寂の一部となる。
「よくやった、セブルス。
ダンブルドアを葬ったお前の忠誠、俺様は満足しているぞ。」
その声は、絹を裂くように細く、鋭かった。
スネイプの影が床に落ち、闇の波紋のように広がる。
「ホグワーツは今、主を失った。
あの城を支配できる者は、もはやお前しかおらぬ。」
「光栄に存じます。我が君。」
「お前が校長を務めろ。
ホグワーツを完全に我が手に。」
「御意にございます。」
低く落ちたその声の底に、言葉にならぬ決意が潜んでいた。
───この城も、生徒たちの命を守るのだ。
───イリスを何としても守りたいと。
ヴォルデモートは薄く笑った。
炎の光がその肌を赤く照らす。
「それとイリスを連れてこい。
あの娘は、俺様のものだ。」
その名を聞いた途端、スネイプの胸の奥で何かが軋む。
けれどそれは既に予想出来ていた言葉だった。
ダンブルドアを手にかけなければならないと分かった時からずっと考えていた。
今この言葉を言われたあとの対応を──。
「イリスを今連れて来ても、まだ忠誠心はございません。
彼女は我らの知らぬ魔法で逃げ出すかもしれません。」
「ならばどうするつもりなのだ? 俺様がイリスを望んでいるのだぞ?」
「時間を頂ければ……、我輩が彼女の心を、我が君への忠誠へと導きましょう。
幸い、あの女は……我輩に好意を抱いております。
それを利用すれば、我が君に跪かせることなど容易いでしょう。」
計画していたとはいえど、言葉を吐くたびに喉の奥が焼けるように痛んだ。
愛を利用と言い換える冷酷さ。
それを口にするたび、人間としての皮が剥がれていくような気がした。
この言葉に苦しい気持ちを抱えるスネイプとは反対に、ヴォルデモートは笑う。
愉快そうに、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。
「イリスは実に哀れだ。
惚れた男が、これほど冷酷だとも知らずに。」
赤い瞳が、嘲るように輝く。
スネイプは黙してその光を受ける。
忠誠を演じる面の裏で、胸を締め付ける感覚に襲われていた。
「よかろう、セブルス。
逃げる可能性は断て。
愚かな感情の鎖を、俺様のために締め上げろ。」
「承知いたしました、我が君。」
深く頭を下げたまま、スネイプは瞼を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、あの夜の別れ際のイリスの表情。
あの瞳に宿っていたのは、どんな冷酷な闇にも染まらぬ光だった。
自分はその光を踏みにじる言葉を吐いた。
心を守るためとはいえ、己の口で愛を穢した。
それは忠誠よりも重い罰のようで、沈黙の底に彼の自嘲が滲んだ。
───
重い扉が開く音が、ホグワーツの石壁に響いた。
冷たい空気が流れ込み、蝋燭の灯が小さく震える。
スネイプは数人の死喰い人を連れ、黒い影のように歩いた。
その足音に応えるように、マクゴナガルが現れる。
「セブルス……あなた、何をするつもりです。」
「挨拶に来たのだ。
新たな校長として。」
「校長……あなたが?」
マクゴナガルの声が震えた。
怒りと哀しみが、同じ光を宿している。
スネイプはただ静かに言った。
「この城を守る者が必要だ。
私がその役を引き受ける。」
「守る? あなたが……?」
その声が途中で途切れる。
マクゴナガルの唇がわずかに揺れ、視線が落ちる。
スネイプは何も返さず、背を向けた。
そのとき視界に入ってしまった階段の上に白い影。
──イリス。
彼女が立っていた。
光のような髪が揺れ、赤い瞳がこちらを見つめている。
その頬に色があり、唇に息が宿る。
あの日から痩せたりなどせず、変わらず生きている。
その事実だけで、胸が軋むほど熱くなる。
だが、恋しさが口を開かせる前に、視線を逸らした。
ローブを翻し、闇の中へと消える。
背後の扉が、静かに彼を飲み込んだ。
───
数日後、ホグワーツの大広間には沈黙が満ちていた。
校長就任の晩餐。
祝福の声はなく、蝋燭の炎だけが揺れている。
教師席の中央に、黒いローブの男。
両脇にはカロー兄妹の闇の魔法を教えるアミカス、マグル学を教えるがアレクトが座っており、笑い声が不気味に響く。
誰も拍手をしない。
皿の上の食事は冷え、フォークの音さえ止んだ。
生徒席の端に、たった1人イリスがいた。
その瞳が、まっすぐにこちらを見ている。
その視線が肌を刺すように届く。
けれどスネイプは、目を合わせなかった。
一度でも感情を見せれば、すべてが崩れる。
闇は隙を嗅ぎつけ、彼女を奪う。
ローブの袖の中で、指先がわずかに震えた。
それを隠すように、ワインを口に含む。
苦味が舌を刺し、喉を通るたびに沈黙が深く沈む。
それに愛を穢してしまった自分にはもうイリスへ向ける顔もなかった。
あのころのようには戻れないが、ただ、イリスが傷つかずに生きてさえくれていたらいい。
それだけで自分は幸せなのだとスネイプは言い聞かせていた。
誰にも、イリスにさえも心を見せてはいけない。
その冷たさが、彼の唯一の鎧だった。
けれどその底には、凍りきらぬ光があった。
遠く離れても消えない白の残滓。
それがまだ彼を人間のまま繋ぎ止めてくれていたのだった。
