第4章 謎のプリンス
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第20話 別れのあと
夜が明けきらない灰色の空の下、生徒たちはそれぞれ寮へと帰されていった。
ダンブルドアの葬儀の準備が始まるまで、静かに待つようにと告げられて。
中庭に残ったイリスは、動けなかった。
胸の痛みよりも、今は足の痛みが勝っていた。
石片とガラス片が無数に刺さり、裂けた皮膚から血がにじんでいる。
あのときは必死に走れたのに、今は立つことさえ難しい。
冷たい風が頬を撫で、体の奥にまで疲労が沈んでいく。
その時、駆け寄ってくる足音がした。
「イリス!」
ハーマイオニーが息を切らして走ってきた。
少し離れたところには、ぼんやりと立ち尽くすハリーの姿がある。
「ハリー、イリス。行きましょう……」
ハーマイオニーの声は震えていた。
だがハリーは返事をしない。
イリスもまた、地面に座り込んだまま微動だにしなかった。
その様子に気づいたハーマイオニーが膝をつき、心配そうに覗き込む。
「イリス……スネイプのことは、すごく……」
「ハーマイオニー、大丈夫。……大丈夫よ。」
イリスはかすれた声で答え、かすかに微笑んだ。
「セブルスの想いは、もう受け取ったの。私も伝えたいことは全部伝えたから。……それよりも、足が痛くて。」
視線を下げると、足の裏は赤黒く染まり、布切れが血を吸って暗く濡れていた。
ハーマイオニーも思わず息を呑む。
「やだ、イリス……どうして! こんな状態で……いつからなの!」
震える声にイリスは苦く笑った。
どれほどの痛みだったのか、今ようやく自覚した。
ハーマイオニーはすぐに振り返り、声を張る。
「先生!誰か!怪我人です!」
駆けつけたハグリットが、そっとイリスを抱き上げた。
彼の腕は驚くほど優しく、揺れるたびに安堵と疲労が同時に押し寄せた。
ハグリット達よりほんの少し早く戻っていたポンフリーが医務室で待ち構えていた。
「なんてことかしら……裸足であの校舎を走ったですって?」
手際よく杖を振ると、光が足元を包み、刺さっていた破片が次々と浮かび上がる。
金属の音が小さく響き、足の裏から抜けるたび、細かな痛みが連なっていった。
息を詰め、拳を握る。
薬草の強い香りと、塗布薬の冷たさが同時に広がる。
「靴はどうしたのです。……まったく愚かな真似を。」
言葉は厳しいが、動きは正確で、痛みを和らげる魔法が重ねて施される。
足の裏が熱を帯び、やがてじんわりと温かさに変わっていった。
───
翌朝。
イリスは自室のベッドで目を覚ました。
窓の外は薄い曇り空。
足を下ろすと、不思議なほど痛みがなかった。
包帯もなく、皮膚は滑らかで、まるで傷など最初からなかったかのようだった。
薬の効果と自らの治癒の力か。
どうであれ、身体はもう動ける。
けれど胸の奥の重さは消えなかった。
静まり返った廊下に出る。
いつものざわめきはなく、音がすべて消えたようだった。
校舎そのものが息をひそめている。
イリスが向かったのは、隣の部屋。
──スネイプの私室。
扉は鍵がかかっておらず、静かに押すと軋む音を立てて開いた。
中には、昨日までの空気がそのまま残っていた。
本棚の上には整理されない書物、机の上には開きかけの瓶と羽根ペン。
そして、ほのかに残る香。
イリスはゆっくりと歩き、指先を家具の縁に滑らせながら奥へ進む。
どの瞬間にも、あの低い声と静かな眼差しが蘇る。
幾度も語らい、触れ合い、沈黙の中でも隣にいるだけで幸せだった記憶が、ひとつひとつ浮かんでは胸を締めつけた。
ベッドの端に腰を下ろし、シーツに顔を埋める。
スネイプの匂いが、まだそこにあった。
静かな部屋の中で、鼓動だけが響く。
昨日で全てを終えたはずなのに、心はそれを拒んでいた。
ただ、会いたい。もう一度声が聞きたい。
目を閉じれば、黒いローブの裾と指先の温もりがよみがえる。
イリスは声を殺し、静かに泣いた。
誰にも見られないように。
ふたりだけの思い出が染み付いたこの場所で。
────
やがて涙が乾く頃、イリスは静かに部屋を後にした。
廊下に出ると、そこにはハリー、ハーマイオニー、ロンの三人が立っていた。
いつからそこにいたのか分からない。
けれど、誰も何も言わずに見守っていた。
「イリス……」
ハーマイオニーが歩み寄り、そっと抱きしめる。
その腕は温かく、心の奥に届く。
ロンがその上から包み、最後にハリーも静かに腕を回した。
誰も言葉を探さず、ただ一緒に立っていた。
「イリス、こんなに目を腫らして……やっぱり大丈夫じゃないわ。」
ハーマイオニーの声に、イリスは小さく笑う。
「別れがこんなに辛いものだなんて、知らなかった。
頭では分かっているのに……どうしてこんなに会いたくなるのかしら。」
ハーマイオニーは頷き、静かに言葉を重ねた。
「もう分かるでしょう?どうしてかなんて。
それが人間らしい感情なの。理屈で抑えられないものよ。」
イリスは目を伏せ、息を整えた。
「愛……なんだね。」
その言葉が零れたとき、胸の奥でスネイプの声が響いた。
──愛は死んでも消えない。
──相手がいなくなっても、なお続く。
──だからこそ、痛みになる。
イリスはゆっくりと顔を上げた。
涙はもう流れていなかった。
ハーマイオニーが微笑み、ハリーとロンが頷く。
そして三人に寄り添われながら、イリスは歩き出した。
これから行くのは、ダンブルドアの葬儀。
足取りはまだ重く、胸の奥は静かに痛む。
それでも、彼女の歩みは確かだった。
光を信じた人々のもとへ向かうように、
朝の空へ、ゆっくりと歩を進めていく。
夜が明けきらない灰色の空の下、生徒たちはそれぞれ寮へと帰されていった。
ダンブルドアの葬儀の準備が始まるまで、静かに待つようにと告げられて。
中庭に残ったイリスは、動けなかった。
胸の痛みよりも、今は足の痛みが勝っていた。
石片とガラス片が無数に刺さり、裂けた皮膚から血がにじんでいる。
あのときは必死に走れたのに、今は立つことさえ難しい。
冷たい風が頬を撫で、体の奥にまで疲労が沈んでいく。
その時、駆け寄ってくる足音がした。
「イリス!」
ハーマイオニーが息を切らして走ってきた。
少し離れたところには、ぼんやりと立ち尽くすハリーの姿がある。
「ハリー、イリス。行きましょう……」
ハーマイオニーの声は震えていた。
だがハリーは返事をしない。
イリスもまた、地面に座り込んだまま微動だにしなかった。
その様子に気づいたハーマイオニーが膝をつき、心配そうに覗き込む。
「イリス……スネイプのことは、すごく……」
「ハーマイオニー、大丈夫。……大丈夫よ。」
イリスはかすれた声で答え、かすかに微笑んだ。
「セブルスの想いは、もう受け取ったの。私も伝えたいことは全部伝えたから。……それよりも、足が痛くて。」
視線を下げると、足の裏は赤黒く染まり、布切れが血を吸って暗く濡れていた。
ハーマイオニーも思わず息を呑む。
「やだ、イリス……どうして! こんな状態で……いつからなの!」
震える声にイリスは苦く笑った。
どれほどの痛みだったのか、今ようやく自覚した。
ハーマイオニーはすぐに振り返り、声を張る。
「先生!誰か!怪我人です!」
駆けつけたハグリットが、そっとイリスを抱き上げた。
彼の腕は驚くほど優しく、揺れるたびに安堵と疲労が同時に押し寄せた。
ハグリット達よりほんの少し早く戻っていたポンフリーが医務室で待ち構えていた。
「なんてことかしら……裸足であの校舎を走ったですって?」
手際よく杖を振ると、光が足元を包み、刺さっていた破片が次々と浮かび上がる。
金属の音が小さく響き、足の裏から抜けるたび、細かな痛みが連なっていった。
息を詰め、拳を握る。
薬草の強い香りと、塗布薬の冷たさが同時に広がる。
「靴はどうしたのです。……まったく愚かな真似を。」
言葉は厳しいが、動きは正確で、痛みを和らげる魔法が重ねて施される。
足の裏が熱を帯び、やがてじんわりと温かさに変わっていった。
───
翌朝。
イリスは自室のベッドで目を覚ました。
窓の外は薄い曇り空。
足を下ろすと、不思議なほど痛みがなかった。
包帯もなく、皮膚は滑らかで、まるで傷など最初からなかったかのようだった。
薬の効果と自らの治癒の力か。
どうであれ、身体はもう動ける。
けれど胸の奥の重さは消えなかった。
静まり返った廊下に出る。
いつものざわめきはなく、音がすべて消えたようだった。
校舎そのものが息をひそめている。
イリスが向かったのは、隣の部屋。
──スネイプの私室。
扉は鍵がかかっておらず、静かに押すと軋む音を立てて開いた。
中には、昨日までの空気がそのまま残っていた。
本棚の上には整理されない書物、机の上には開きかけの瓶と羽根ペン。
そして、ほのかに残る香。
イリスはゆっくりと歩き、指先を家具の縁に滑らせながら奥へ進む。
どの瞬間にも、あの低い声と静かな眼差しが蘇る。
幾度も語らい、触れ合い、沈黙の中でも隣にいるだけで幸せだった記憶が、ひとつひとつ浮かんでは胸を締めつけた。
ベッドの端に腰を下ろし、シーツに顔を埋める。
スネイプの匂いが、まだそこにあった。
静かな部屋の中で、鼓動だけが響く。
昨日で全てを終えたはずなのに、心はそれを拒んでいた。
ただ、会いたい。もう一度声が聞きたい。
目を閉じれば、黒いローブの裾と指先の温もりがよみがえる。
イリスは声を殺し、静かに泣いた。
誰にも見られないように。
ふたりだけの思い出が染み付いたこの場所で。
────
やがて涙が乾く頃、イリスは静かに部屋を後にした。
廊下に出ると、そこにはハリー、ハーマイオニー、ロンの三人が立っていた。
いつからそこにいたのか分からない。
けれど、誰も何も言わずに見守っていた。
「イリス……」
ハーマイオニーが歩み寄り、そっと抱きしめる。
その腕は温かく、心の奥に届く。
ロンがその上から包み、最後にハリーも静かに腕を回した。
誰も言葉を探さず、ただ一緒に立っていた。
「イリス、こんなに目を腫らして……やっぱり大丈夫じゃないわ。」
ハーマイオニーの声に、イリスは小さく笑う。
「別れがこんなに辛いものだなんて、知らなかった。
頭では分かっているのに……どうしてこんなに会いたくなるのかしら。」
ハーマイオニーは頷き、静かに言葉を重ねた。
「もう分かるでしょう?どうしてかなんて。
それが人間らしい感情なの。理屈で抑えられないものよ。」
イリスは目を伏せ、息を整えた。
「愛……なんだね。」
その言葉が零れたとき、胸の奥でスネイプの声が響いた。
──愛は死んでも消えない。
──相手がいなくなっても、なお続く。
──だからこそ、痛みになる。
イリスはゆっくりと顔を上げた。
涙はもう流れていなかった。
ハーマイオニーが微笑み、ハリーとロンが頷く。
そして三人に寄り添われながら、イリスは歩き出した。
これから行くのは、ダンブルドアの葬儀。
足取りはまだ重く、胸の奥は静かに痛む。
それでも、彼女の歩みは確かだった。
光を信じた人々のもとへ向かうように、
朝の空へ、ゆっくりと歩を進めていく。
