第4章 謎のプリンス
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第18話 夜に沈む誓い
夜が裂けるように燃えていた。
ハグリットの小屋から立ち上る炎は風に煽られ、火花が宙を舞う。
焦げた木と血と土の匂いが、戦いの終わりを告げていた。
その中でスネイプはただ立ち尽くしていた。
耳の奥には、ハリーの叫びが焼きついている。
「スネイプ!! 先生はお前を信じてたのに!!」
怒りとも絶望ともつかぬ声が夜を裂いた。
だがスネイプの胸に残ったのは深く沈む倦怠と報われぬ孤独だけだった。
なぜだ。
なぜここまで血を流しても、誰にも理解されないのか。
命を削り、嘲られ、罵られながら、それでも信じるものを守るために動いてきたというのに。
だが……それでいいのだ。
ポッターに知られる必要などない。
知らずに憎んでいれば、それでいい。
我輩の役割は、光を守る影だ。
そう思って踵を返したそのとき……。
視界の端に、白い影が見えた。
夜明けの欠片のように儚い白。イリスだった。
炎に照らされた彼女の姿は、まるで闇の中の灯火のように見えた。
ポッターが吐いた言葉を、何も言わずに受け止め、信じることで否定した存在。
その視線が胸に触れた瞬間、痛みが広がる。
彼女だけは、巻き込んではならない。
ローブを翻し、視線を逸らす。
その光に触れ続ければ、二度と戻れなくなる。
その瞬間、背中に小さな衝撃が走った。
細い腕が、必死に縋りつく感触へ変わる。
振り返るよりも早く、イリスが胸元へ崩れ込んできた。
喉の奥で押し殺した嗚咽が震えている。
「やだ……いやだ……行かないで……置いていかないで……!」
掠れた声が夜に散る。
その熱がスネイプの胸を焼いた。
嗚咽と涙、震える肩。
ここまで感情をむき出しにするイリスを、初めて見た。
そしてそれが、どうしようもなく愛しかった。
抱きしめ返してしまえば、二度と離れられなくなる。
分かっている。
それでも、胸の奥で何かが決壊しそうだった。
「イリス……やめろ」
落ち着いた声を出すつもりだった。
だがその声は、懇願にも似て震えていた。
「セブルス……嫌よ……!」
泣きながら呼ぶ声が、鋭く心を貫いた。
その顔を見るだけで胸が崩れそうになる。
スネイプはイリスの肩にそっと手を置く。
その温もりが痛いほど愛おしい。
どうして、こんな時にまでお前は我輩を縛る。
いや、違う。
我輩の方が、お前に縛られたがっているのだ。
「やめてくれ……頼む」
掠れた声でそう告げ、腕に力を込める。
震える身体をそっと引き剥がした。
絡んでいた指が、名残を引くように離れていく。
その弱さが余計に心臓を締めつけた。
「イリス……分かってくれ」
その言葉に、彼女の涙が一瞬止まる。
震える息を吐きながら顔を上げたイリスの瞳には、
まだ涙が宿っているのに、不思議と強い光が戻っていた。
「……信じてる。信じてるの。でも──」
声は細く、それでも真っ直ぐだった。
すべてを見たうえで、なお信じると告げるその強さに、
スネイプは息を呑む。
ああ、この子はもう、我輩よりもずっとまっすぐに“信じる”ということを知っている。
この子こそ、光だ。
だからこそこの手で汚してはいけない。
震える両手がスネイプの頬を包んだ。
白い指が触れた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
イリスは背伸びをして、そっと唇を寄せる。
静かな、深いキス。
それは欲でも慰めでもなく、想いを伝えるためだけのまっすぐな祈りのような口づけだった。
キスの意味も知らず、その意味を知ったあとも自発的にすることもなかったイリスが、初めて自らの意思で行ったキス。
それは最大限の信愛の証。
その瞬間、スネイプは悟った。
この少女の“信じる力”こそが、自分を救ってくれる唯一の光なのだと。
「セブルス……私、信じてるから……負けないで……」
声は震えていたが、その響きは風よりも確かだった。
スネイプは息を止め、ゆっくりと瞳を閉じる。
この少女は、これほどまでに純粋に信じることができるのか。
己の罪と汚れのすべてを見た上で……。
イリスの言葉が、魂の底に届く。
愛している、と言いかけた言葉を飲み込む。
言葉にしてしまえば、守れなくなる。
だが、何かを残したい。
だからどうかこれだけは赦してほしい……。
スネイプはイリスの頬をなぞり、指先を首筋へ滑らせた。
白い髪を指で払い、唇をそっと寄せる。
微かな震えとともに、唇が肌に触れた。
その瞬間、胸の奥から熱があふれ出す。
このまま押し倒して抱きしめてしまいたい。
体の奥に、そんな衝動が生まれる。
そんな溢れかけたものを、歯を食いしばって堰き止めた。
これ以上、境を越えれば、守れなくなるから。
どうかこの印だけは夜に奪われないでくれ。
どうか君だけは、闇に染まらないでくれ。
それが、今の自分に赦された最後の祈りであり、愛の証だった。
唇を離すと、喉の奥がひどく痛んだ。
これ以上ここにいれば、理性が崩れる。
だから背を向けた。
ローブが風を孕む。
足を踏み出すたび、湿った草が音を立て、遠くで小屋が軋む。
嗚咽が風に乗って微かに届く。
振り返りたい衝動を、歯を食いしばって堪える。
それが最善なのだから。
───
歩くたびに胸の奥で何かが崩れ落ちる。
イリスを苦しめると分かっていたのに惹かれた。
守るはずだったのに縛ってしまった。
光を抱きしめたいと願いながら、自分の影で包んでしまった。
校門の前で足を止める。
風が頬を撫で、灰の匂いが通り過ぎる。
夜空にはまだ緑の印が揺れている。
「信じてる。負けないで。」
胸の奥で、イリスの声が再び響く。
それが、崩れかけた心を支える唯一の糸だった。
──愛している。イリス。
こんな愛する資格も、愛される資格もない哀れな男を……。
それでも信じ、祈ってくれたお前を、どうして忘れられるだろう。
お前の言葉は、嘲りや罵りよりもずっと重く、胸の奥をあたためる。
こんなにも心強いものを、誰が手放せるだろうか。
気づけば、頬を伝うものがあった。
涙など、とっくに枯れたと思っていたのに。
一筋の雫が、夜気の中で冷たく光った。
乱雑に手で涙を拭い、夜空を見上げる。
ここから先は、闇の陣営として生きる道。
あらゆる敵意と憎悪を受け入れる覚悟はできている。
胸の奥で静かに決意を固める。
だが、たとえこの身がどんなに穢れようとも、
胸の奥にイリスの祈りがある限り、闇に染まることは無い。
彼女が信じてくれた分だけ、己もまた信じる。
光は必ず残る。
彼女がその光を見失わぬように、我輩が闇の中で見張り続ける。
ローブを整え、深く呼吸を整える。
校門を越えた先には孤独と使命と罰が待っている。
それでも今は、イリスの声がある。
「……必ず、守ってみせよう。」
声は誰に届くでもなく、風に溶けた。
校門の前で、ひとつの影が夜に溶けていく。
歩き出す足取りは重くも、確かだった。
イリスが残した温もりが、まだ指先に宿っている。
それが、闇の底で灯り続ける唯一の火となるのだった。
夜が裂けるように燃えていた。
ハグリットの小屋から立ち上る炎は風に煽られ、火花が宙を舞う。
焦げた木と血と土の匂いが、戦いの終わりを告げていた。
その中でスネイプはただ立ち尽くしていた。
耳の奥には、ハリーの叫びが焼きついている。
「スネイプ!! 先生はお前を信じてたのに!!」
怒りとも絶望ともつかぬ声が夜を裂いた。
だがスネイプの胸に残ったのは深く沈む倦怠と報われぬ孤独だけだった。
なぜだ。
なぜここまで血を流しても、誰にも理解されないのか。
命を削り、嘲られ、罵られながら、それでも信じるものを守るために動いてきたというのに。
だが……それでいいのだ。
ポッターに知られる必要などない。
知らずに憎んでいれば、それでいい。
我輩の役割は、光を守る影だ。
そう思って踵を返したそのとき……。
視界の端に、白い影が見えた。
夜明けの欠片のように儚い白。イリスだった。
炎に照らされた彼女の姿は、まるで闇の中の灯火のように見えた。
ポッターが吐いた言葉を、何も言わずに受け止め、信じることで否定した存在。
その視線が胸に触れた瞬間、痛みが広がる。
彼女だけは、巻き込んではならない。
ローブを翻し、視線を逸らす。
その光に触れ続ければ、二度と戻れなくなる。
その瞬間、背中に小さな衝撃が走った。
細い腕が、必死に縋りつく感触へ変わる。
振り返るよりも早く、イリスが胸元へ崩れ込んできた。
喉の奥で押し殺した嗚咽が震えている。
「やだ……いやだ……行かないで……置いていかないで……!」
掠れた声が夜に散る。
その熱がスネイプの胸を焼いた。
嗚咽と涙、震える肩。
ここまで感情をむき出しにするイリスを、初めて見た。
そしてそれが、どうしようもなく愛しかった。
抱きしめ返してしまえば、二度と離れられなくなる。
分かっている。
それでも、胸の奥で何かが決壊しそうだった。
「イリス……やめろ」
落ち着いた声を出すつもりだった。
だがその声は、懇願にも似て震えていた。
「セブルス……嫌よ……!」
泣きながら呼ぶ声が、鋭く心を貫いた。
その顔を見るだけで胸が崩れそうになる。
スネイプはイリスの肩にそっと手を置く。
その温もりが痛いほど愛おしい。
どうして、こんな時にまでお前は我輩を縛る。
いや、違う。
我輩の方が、お前に縛られたがっているのだ。
「やめてくれ……頼む」
掠れた声でそう告げ、腕に力を込める。
震える身体をそっと引き剥がした。
絡んでいた指が、名残を引くように離れていく。
その弱さが余計に心臓を締めつけた。
「イリス……分かってくれ」
その言葉に、彼女の涙が一瞬止まる。
震える息を吐きながら顔を上げたイリスの瞳には、
まだ涙が宿っているのに、不思議と強い光が戻っていた。
「……信じてる。信じてるの。でも──」
声は細く、それでも真っ直ぐだった。
すべてを見たうえで、なお信じると告げるその強さに、
スネイプは息を呑む。
ああ、この子はもう、我輩よりもずっとまっすぐに“信じる”ということを知っている。
この子こそ、光だ。
だからこそこの手で汚してはいけない。
震える両手がスネイプの頬を包んだ。
白い指が触れた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
イリスは背伸びをして、そっと唇を寄せる。
静かな、深いキス。
それは欲でも慰めでもなく、想いを伝えるためだけのまっすぐな祈りのような口づけだった。
キスの意味も知らず、その意味を知ったあとも自発的にすることもなかったイリスが、初めて自らの意思で行ったキス。
それは最大限の信愛の証。
その瞬間、スネイプは悟った。
この少女の“信じる力”こそが、自分を救ってくれる唯一の光なのだと。
「セブルス……私、信じてるから……負けないで……」
声は震えていたが、その響きは風よりも確かだった。
スネイプは息を止め、ゆっくりと瞳を閉じる。
この少女は、これほどまでに純粋に信じることができるのか。
己の罪と汚れのすべてを見た上で……。
イリスの言葉が、魂の底に届く。
愛している、と言いかけた言葉を飲み込む。
言葉にしてしまえば、守れなくなる。
だが、何かを残したい。
だからどうかこれだけは赦してほしい……。
スネイプはイリスの頬をなぞり、指先を首筋へ滑らせた。
白い髪を指で払い、唇をそっと寄せる。
微かな震えとともに、唇が肌に触れた。
その瞬間、胸の奥から熱があふれ出す。
このまま押し倒して抱きしめてしまいたい。
体の奥に、そんな衝動が生まれる。
そんな溢れかけたものを、歯を食いしばって堰き止めた。
これ以上、境を越えれば、守れなくなるから。
どうかこの印だけは夜に奪われないでくれ。
どうか君だけは、闇に染まらないでくれ。
それが、今の自分に赦された最後の祈りであり、愛の証だった。
唇を離すと、喉の奥がひどく痛んだ。
これ以上ここにいれば、理性が崩れる。
だから背を向けた。
ローブが風を孕む。
足を踏み出すたび、湿った草が音を立て、遠くで小屋が軋む。
嗚咽が風に乗って微かに届く。
振り返りたい衝動を、歯を食いしばって堪える。
それが最善なのだから。
───
歩くたびに胸の奥で何かが崩れ落ちる。
イリスを苦しめると分かっていたのに惹かれた。
守るはずだったのに縛ってしまった。
光を抱きしめたいと願いながら、自分の影で包んでしまった。
校門の前で足を止める。
風が頬を撫で、灰の匂いが通り過ぎる。
夜空にはまだ緑の印が揺れている。
「信じてる。負けないで。」
胸の奥で、イリスの声が再び響く。
それが、崩れかけた心を支える唯一の糸だった。
──愛している。イリス。
こんな愛する資格も、愛される資格もない哀れな男を……。
それでも信じ、祈ってくれたお前を、どうして忘れられるだろう。
お前の言葉は、嘲りや罵りよりもずっと重く、胸の奥をあたためる。
こんなにも心強いものを、誰が手放せるだろうか。
気づけば、頬を伝うものがあった。
涙など、とっくに枯れたと思っていたのに。
一筋の雫が、夜気の中で冷たく光った。
乱雑に手で涙を拭い、夜空を見上げる。
ここから先は、闇の陣営として生きる道。
あらゆる敵意と憎悪を受け入れる覚悟はできている。
胸の奥で静かに決意を固める。
だが、たとえこの身がどんなに穢れようとも、
胸の奥にイリスの祈りがある限り、闇に染まることは無い。
彼女が信じてくれた分だけ、己もまた信じる。
光は必ず残る。
彼女がその光を見失わぬように、我輩が闇の中で見張り続ける。
ローブを整え、深く呼吸を整える。
校門を越えた先には孤独と使命と罰が待っている。
それでも今は、イリスの声がある。
「……必ず、守ってみせよう。」
声は誰に届くでもなく、風に溶けた。
校門の前で、ひとつの影が夜に溶けていく。
歩き出す足取りは重くも、確かだった。
イリスが残した温もりが、まだ指先に宿っている。
それが、闇の底で灯り続ける唯一の火となるのだった。
