第4章 謎のプリンス
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第12話 背負う想い
放課後の校内は、ひっそりと静まり返っていた。
冬の名残を抱いた風が廊下を抜け、薄橙の光が石壁を染めていく。
イリスは何をするでもなく歩き続け、気づけば天文台の塔の最上階にいた。
吹き抜ける冷たい空気が肌を撫で、遠くで湖が夕陽を映している。
その静けさの中に身を置くと、胸の奥からひとつの記憶が浮かび上がった。
──休暇の終盤。偶然耳にした、あの会話。
───
その日、イリスは誰もいない回廊を歩いていた。
薄暗い階段を上りかけた時、聞き慣れた二つの声が風に混じった。
ダンブルドアと、スネイプ。
「君は、やはり彼女にも何も話していないのじゃな。」
「当然です。あの子を巻き込むつもりはありません。
……我輩の側にいるだけで、すでに十分危険だ。」
「セブルス、君の心は……いつも必要以上に重いものを背負いたがる」
「背負わねば誰が守るのです? あの子も……ポッターも……。
誰も知らずに済むのなら、それでいい。」
「君の沈黙は、時に剣よりも鋭い。……だが、イリスには希望を見せてやりなさい。
あの子の目はまだ光を覚えている。」
「……承知しております。」
「セブルス。君は、君が思うよりずっと清らかだ。」
「……清らか、とは最も遠い言葉だ。」
「それでもだ。……誰も知らぬ場所で誰かを守れる者が、
本当に闇に堕ちたと言えるだろうか?」
短い沈黙のあと、足音が遠ざかっていく。
イリスは息を詰めたまま、動けなかった。
その場に残された空気には、祈りにも似た静けさがあった。
───
今、イリスはその時と同じ夕焼けを目にしていた。
燃えるような橙の空。けれど心は不思議なほど穏やかだった。
スネイプはきっと、人には言えないものを抱えている。
それを知った今、もう疑う理由なんてない。
彼の沈黙の裏には、誓いがある。
それは「裏切り」の仮面を被った、真実の“忠誠”なのだ。
「……セブルス」
声に出したその名は、夕風に溶けて消えた。
けれどその響きが、胸の奥を温かく満たしていく。
信じたいではなく、信じる。
その選択が、今の自分を形づくる唯一の答え。
陽が完全に沈み、夜の気配が塔を包む。
イリスは瞳を閉じ、胸の前でそっと手を組む。
ゆるやかな風が髪を揺らし、肌に残る夕陽の温もりがゆっくりと消えていく。
セブルスは、いつも誰かを守っている。
それなら、彼を守るのは誰なのだろう。
その問いが胸の奥で静かに波紋を広げた。
彼はいつも沈黙の中に立ち、誰にも背中を預けようとしない。
ならば、せめて……。
今はまだ何もできなくても、いつかその沈黙を分かち合えるほど強くなりたい。
あの孤独に寄り添える風になりたい。
呼ばれなくても、気づけば傍に吹いているような。
彼がどんな闇の中にいても、触れずに包めるような。
そうして、また静かに還っていけるように……。
焦って手を伸ばせば、彼の築き上げた均衡を壊してしまうかもしれない。
だから今はただ信じて、見守る。
時がすべてを結ぶその日まで、心だけを彼の傍らに置いておこう。
闇が訪れても、彼の中の光はきっと消えはしない。
それを信じられる限り、イリスの心は静かに灯っていた。
放課後の校内は、ひっそりと静まり返っていた。
冬の名残を抱いた風が廊下を抜け、薄橙の光が石壁を染めていく。
イリスは何をするでもなく歩き続け、気づけば天文台の塔の最上階にいた。
吹き抜ける冷たい空気が肌を撫で、遠くで湖が夕陽を映している。
その静けさの中に身を置くと、胸の奥からひとつの記憶が浮かび上がった。
──休暇の終盤。偶然耳にした、あの会話。
───
その日、イリスは誰もいない回廊を歩いていた。
薄暗い階段を上りかけた時、聞き慣れた二つの声が風に混じった。
ダンブルドアと、スネイプ。
「君は、やはり彼女にも何も話していないのじゃな。」
「当然です。あの子を巻き込むつもりはありません。
……我輩の側にいるだけで、すでに十分危険だ。」
「セブルス、君の心は……いつも必要以上に重いものを背負いたがる」
「背負わねば誰が守るのです? あの子も……ポッターも……。
誰も知らずに済むのなら、それでいい。」
「君の沈黙は、時に剣よりも鋭い。……だが、イリスには希望を見せてやりなさい。
あの子の目はまだ光を覚えている。」
「……承知しております。」
「セブルス。君は、君が思うよりずっと清らかだ。」
「……清らか、とは最も遠い言葉だ。」
「それでもだ。……誰も知らぬ場所で誰かを守れる者が、
本当に闇に堕ちたと言えるだろうか?」
短い沈黙のあと、足音が遠ざかっていく。
イリスは息を詰めたまま、動けなかった。
その場に残された空気には、祈りにも似た静けさがあった。
───
今、イリスはその時と同じ夕焼けを目にしていた。
燃えるような橙の空。けれど心は不思議なほど穏やかだった。
スネイプはきっと、人には言えないものを抱えている。
それを知った今、もう疑う理由なんてない。
彼の沈黙の裏には、誓いがある。
それは「裏切り」の仮面を被った、真実の“忠誠”なのだ。
「……セブルス」
声に出したその名は、夕風に溶けて消えた。
けれどその響きが、胸の奥を温かく満たしていく。
信じたいではなく、信じる。
その選択が、今の自分を形づくる唯一の答え。
陽が完全に沈み、夜の気配が塔を包む。
イリスは瞳を閉じ、胸の前でそっと手を組む。
ゆるやかな風が髪を揺らし、肌に残る夕陽の温もりがゆっくりと消えていく。
セブルスは、いつも誰かを守っている。
それなら、彼を守るのは誰なのだろう。
その問いが胸の奥で静かに波紋を広げた。
彼はいつも沈黙の中に立ち、誰にも背中を預けようとしない。
ならば、せめて……。
今はまだ何もできなくても、いつかその沈黙を分かち合えるほど強くなりたい。
あの孤独に寄り添える風になりたい。
呼ばれなくても、気づけば傍に吹いているような。
彼がどんな闇の中にいても、触れずに包めるような。
そうして、また静かに還っていけるように……。
焦って手を伸ばせば、彼の築き上げた均衡を壊してしまうかもしれない。
だから今はただ信じて、見守る。
時がすべてを結ぶその日まで、心だけを彼の傍らに置いておこう。
闇が訪れても、彼の中の光はきっと消えはしない。
それを信じられる限り、イリスの心は静かに灯っていた。
