第4章 謎のプリンス
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第10話 孤独だった名前
休暇に入ってから、イリスは意識的にスネイプを避けていた。
すれ違えば視線を逸らし、廊下の足音が近づけば別の道を選んだ。
それでも、気づけば思考は彼に絡め取られている。
今も仕事をしているのではないか。
食事は取っただろうか。
無理をしていないだろうか。
心配ばかりが募っていく。
だがその名を呼べば、きっと聞いてしまう。
「あなたは死喰い人なのか」と。
その恐れが、イリスを沈黙の檻に閉じ込めていた。
───
休暇も終盤を迎えた午後。
イリスが廊下に出た瞬間、目の前にスネイプの黒いローブが立ちふさがった。
「イリス。最近、我輩を避けることに熱心なようだな」
低く響く声。
その間にわずかな沈黙が落ち、空気が重くなる。
「理由を聞かせてもらおう。まさか我輩に恐れをなした訳ではあるまい」
イリスは小さく首を振り、か細い声を絞り出す。
「あなたが……ドラコと“破れぬ誓い”を結んでいると……
それに、死喰い人だって……」
スネイプの表情がわずかに動く。
瞳の奥で何かが鈍く揺れ、そして冷たく沈んだ。
「誰から聞いたかは知らぬが……我輩を疑っているのか。
お前の目には、我輩がヴォルデモートの忠実な犬と映っているのか?」
その声には怒りではなく、深い悲しみが滲んでいた。
冷ややかな声に、イリスは思わず顔を上げた。
顔を上げて見えたのは、長い年月誰にも信用されず生きてきた男の静かな傷だった。
「そんな簡単に信じたわけじゃないの。
私には……あなたの右腕に絡む、違う魔法の粒が見えるの。
破れぬ誓いの方法を聞いて、粒子を見たら本当だって分かる。
でも……死喰い人かどうかは分からない。
あなたを見てきた私には、そうと決めつけるなんてできない。
だから、私……信じたいの」
瞳が潤み、言葉が震える。
その涙を見た瞬間、スネイプの肩がわずかに落ちた。
「……我輩が何をしていようと、信じる者は限られている。
だがイリス、お前だけは、何があっても巻き込みたくない。
それだけは、わかっていろ」
その言葉には苦悩も後悔もあった。
それでも、イリスは涙を止められなかった。
スネイプは一歩踏み出し、震える指先でイリスの頬をそっと撫でた。
指先が涙をすくい取る。
「そのような目をするな。
我輩は誤解されることに慣れている」
「でも……」
イリスの唇に、人差し指が静かに触れる。
「イリス。
本来ならば我輩は、誰にも理解されぬまま孤独に生きていた。
それを変えたのはお前だ。
今もこうして、決めつけずに我輩を見ている者がいる。
それだけで十分だ」
スネイプの声は静かだったが、瞳の奥には先ほどの悲しみがもう無かった。
そこには、確かな温度と安らぎが宿っていた。
イリスはその言葉を胸に受け、何かに突き動かされるように抱きついた。
腕の中の温もりが現実になった瞬間、こらえていた嗚咽がこぼれた。
スネイプは肩に震える手を置き、迷いながらもゆっくりと腕を回した。
強く、しかし優しく抱きしめ返す。
「スネイプ先生……」
胸に埋めた顔の奥から、イリスの声が掠れて響く。
「セブルスだ……」
「セブルス……?」
「我輩の名だ。それくらい覚えておけ」
「セブルス……!」
「なんだ」
「セブルス!」
無邪気に繰り返すその声に、スネイプは思わず息を漏らす。
「……もうよい。黙れ」
「セブ──うあっ」
イリスの頭を自身の胸に押し付け、スネイプは小さくため息をついた。
だが、その頬にはわずかな笑みが滲んでいる。
自分の名を、こんなふうに呼ぶ声を最後に聞いたのはいつだったろう。
リリーの笑顔が一瞬だけ脳裏を掠める。
けれど彼の心には、もう痛みはなかった。
代わりに胸に満ちるのは、今この腕の中の温もりだった。
スネイプはイリスをさらに強く抱き寄せる。
溢れる想いを隠すように、胸の奥でそっと呟いた。
「……愚か者め」
休暇に入ってから、イリスは意識的にスネイプを避けていた。
すれ違えば視線を逸らし、廊下の足音が近づけば別の道を選んだ。
それでも、気づけば思考は彼に絡め取られている。
今も仕事をしているのではないか。
食事は取っただろうか。
無理をしていないだろうか。
心配ばかりが募っていく。
だがその名を呼べば、きっと聞いてしまう。
「あなたは死喰い人なのか」と。
その恐れが、イリスを沈黙の檻に閉じ込めていた。
───
休暇も終盤を迎えた午後。
イリスが廊下に出た瞬間、目の前にスネイプの黒いローブが立ちふさがった。
「イリス。最近、我輩を避けることに熱心なようだな」
低く響く声。
その間にわずかな沈黙が落ち、空気が重くなる。
「理由を聞かせてもらおう。まさか我輩に恐れをなした訳ではあるまい」
イリスは小さく首を振り、か細い声を絞り出す。
「あなたが……ドラコと“破れぬ誓い”を結んでいると……
それに、死喰い人だって……」
スネイプの表情がわずかに動く。
瞳の奥で何かが鈍く揺れ、そして冷たく沈んだ。
「誰から聞いたかは知らぬが……我輩を疑っているのか。
お前の目には、我輩がヴォルデモートの忠実な犬と映っているのか?」
その声には怒りではなく、深い悲しみが滲んでいた。
冷ややかな声に、イリスは思わず顔を上げた。
顔を上げて見えたのは、長い年月誰にも信用されず生きてきた男の静かな傷だった。
「そんな簡単に信じたわけじゃないの。
私には……あなたの右腕に絡む、違う魔法の粒が見えるの。
破れぬ誓いの方法を聞いて、粒子を見たら本当だって分かる。
でも……死喰い人かどうかは分からない。
あなたを見てきた私には、そうと決めつけるなんてできない。
だから、私……信じたいの」
瞳が潤み、言葉が震える。
その涙を見た瞬間、スネイプの肩がわずかに落ちた。
「……我輩が何をしていようと、信じる者は限られている。
だがイリス、お前だけは、何があっても巻き込みたくない。
それだけは、わかっていろ」
その言葉には苦悩も後悔もあった。
それでも、イリスは涙を止められなかった。
スネイプは一歩踏み出し、震える指先でイリスの頬をそっと撫でた。
指先が涙をすくい取る。
「そのような目をするな。
我輩は誤解されることに慣れている」
「でも……」
イリスの唇に、人差し指が静かに触れる。
「イリス。
本来ならば我輩は、誰にも理解されぬまま孤独に生きていた。
それを変えたのはお前だ。
今もこうして、決めつけずに我輩を見ている者がいる。
それだけで十分だ」
スネイプの声は静かだったが、瞳の奥には先ほどの悲しみがもう無かった。
そこには、確かな温度と安らぎが宿っていた。
イリスはその言葉を胸に受け、何かに突き動かされるように抱きついた。
腕の中の温もりが現実になった瞬間、こらえていた嗚咽がこぼれた。
スネイプは肩に震える手を置き、迷いながらもゆっくりと腕を回した。
強く、しかし優しく抱きしめ返す。
「スネイプ先生……」
胸に埋めた顔の奥から、イリスの声が掠れて響く。
「セブルスだ……」
「セブルス……?」
「我輩の名だ。それくらい覚えておけ」
「セブルス……!」
「なんだ」
「セブルス!」
無邪気に繰り返すその声に、スネイプは思わず息を漏らす。
「……もうよい。黙れ」
「セブ──うあっ」
イリスの頭を自身の胸に押し付け、スネイプは小さくため息をついた。
だが、その頬にはわずかな笑みが滲んでいる。
自分の名を、こんなふうに呼ぶ声を最後に聞いたのはいつだったろう。
リリーの笑顔が一瞬だけ脳裏を掠める。
けれど彼の心には、もう痛みはなかった。
代わりに胸に満ちるのは、今この腕の中の温もりだった。
スネイプはイリスをさらに強く抱き寄せる。
溢れる想いを隠すように、胸の奥でそっと呟いた。
「……愚か者め」
