第4章 謎のプリンス
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第8話 裂ける気配
フィルチに襟首を掴まれたドラコが、会場の中央へ引きずられてきた。
ざわめきが波のように広がり、音楽が細く揺らいで止まる。
「二階の廊下で、何やらコソコソしておりました!この者は招待されたと言い張りますがまことですか?」
夜会の灯りが、ドラコの白い顔をぎらりと照らす。逃げ道はない。
彼は肩で息をして、観念したように吐き捨てた。
「ああ、招待されてないさ! これでいいだろ!」
会場の空気が一段低くなる。遠巻きの視線が突き刺さる中、
隣にいたスネイプが一歩前へ出た。
「我輩が外まで連れていこう」
低い声に、フィルチの手が外れる。
イリスは、いつもの流れならドラコが渋々でも礼を言うと思っていた。
だが、少年の眼差しは氷のように冷たく、反抗だけを宿している。
「……助けなんて、いらない」
吐き捨てるような言い方のまま、ドラコは踵を返した。
スネイプは無言でその背へ続き、ふたりは会場を後にする。
取り残されたイリスの耳に、周囲の囁きが不穏に重なった。
数秒後、ハリーが駆け寄ってくる。
「スネイプは絶対、何か知ってる。追うよ!」
返事を待たずに手を引かれる。
イリスは一度だけ振り返って煌びやかな会場を見やり、ハリーの後を走った。
───
人気のない廊下。冷えた石床が靴音を拾う。
曲がり角の手前で身を潜めると、荒い声が響いた。
「別に守ってもらう必要なんかない!
これは僕の役目だ!
僕が選ばれたんだ、僕が成し遂げなきゃ……!」
ドラコの声は大きい。だが震えが混じっている。
続いて、抑えた低い声が返る。
「君を守ると、破れぬ誓いを立てたのだぞ」
息を呑む音が、自分のものだと気づくまでに数拍かかった。
スネイプの低く抑えた声音は刺すように冷たくはなかった。なだめる色を帯びている。
「怖いのだろう。隠してもわかる。手助けを受け入れるがいい」
「断る!」
反発の響きが廊下に弾けた。
言葉の刃が行き交うたびに、二人の距離がさらに遠のいていくのがわかる。
イリスの胸の奥に、名付けようのない重さが落ちていった。
破れぬ誓い。
その言葉だけが、暗い水面に落ちた石のように波紋を広げる。
それ以上の会話は遠ざかり、やがて足音だけが細くなって消えた。
自室に戻るまでの道のりを、イリスは覚えていなかった。
ただ、足元が少しずつ冷たくなっていく感覚だけが残った。
───
翌朝。
クリスマス休暇で生徒たちが列車へ急ぐざわめきの中、大広間の一角でハリーとロンと腰かけた。
パン屑の散る卓上を見つめながら、ハリーが昨夜の会話の断片を繰り返す。
ロンの顔色が変わった。
「本当に、『破れぬ誓い』って言ってたのか?」
「言ってた。スネイプが、ドラコを守るって」
ハリーの言葉に、ロンは喉を鳴らした。
ロンはとてもいいにくそうに首を開いた
「破れぬ誓いは……破ると、死ぬんだ。」
頭の中で音が切れた。
イリスは息の仕方を忘れたように固まる。
何かが遠くへ引き剥がされる感覚のあと、一気に現実が雪崩のように戻ってきた。
「……どうやって結ぶの」
自分の声が上擦っているのを、遅れて自覚した。
気がついた時には椅子から立ち上がりロンの方へ体をのめり込ませていた。
ロンは目を丸くして、うろ覚えの手順を示す。
「互いの腕を重ねて、手首を掴み合って……杖で光を絡めるんだ。誓いの言葉に合わせて、糸みたいな光が巻きつくんだそれで──」
「ありがとう」
イリスは短く礼を言い、両手でこめかみを押さ椅子に倒れ込むように腰掛けた。
脳裏に、あの夜の風景が鮮やかに浮かび上がる。
ダイアゴン横丁の帰り道。
人波の向こう、スネイプの右手にまとわりつく、細い光の粒。
危険の色ではなかった。けれど、自然の魔力の流れとは違っていた。
それは、誓いの残滓だったのだろうか。
破ると命を奪う、縛りの光。
では、なぜ。
誰から、ドラコをどう守るために。
昨夜のドラコの震えた声。
闇の横丁で見かけた、ベラトリックスに寄り添うドラコの横顔。
ひとつずつの点が、勝手に線を描いて繋がり始める。
ドラコは任務を命じられている。
ホグワーツに侵入させるのか、それとも、もっと取り返しのつかないことか。
だからスネイプは守る誓いを結んだ。
その「守る」は、誰に対しての忠誠から来るのか。
スネイプは死喰い人なのか。
その想像に、胸が強く縮こまる。
そんなはずはない。
ダンブルドアが見抜けないはずがない。
自分に開心術を教えたあの時間、ハリーのそばで戦うように導いた言葉、あれは何のため。
否定したい気持ちと、繋がっていく現実の断片が、互いに引き裂き合った。
目の前の皿に乗ったパンが歪む。
フォークを持つ指先が震えている。
熱いものが喉の奥までこみ上げ、息をすると胸がきしむ。
何に泣けばいいのかも、わからない。
「イリス?」
ハーマイオニーの声がした。
顔を上げると、彼女の目が心配そうに揺れている。
その瞬間、堰が切れたように涙が滲んだ。
説明もできず、イリスは立ち上がってハーマイオニーに抱きついた。
肩に額を押し当てると、温かい手が背にまわる。
涙は理由を選ばないで流れた。
昨夜の廊下、絡みつく光、スネイプの声、ドラコの震え、ロンの言葉。
ひとつずつの像が胸に重なり、形を定めないまま、ただ痛みになっていく。
イリスは静かに目を閉じ、浅く呼吸を繰り返した。
抱きしめる腕の温度だけが、いまの自分を現実につなぎ止めてくれる唯一のものだった。
フィルチに襟首を掴まれたドラコが、会場の中央へ引きずられてきた。
ざわめきが波のように広がり、音楽が細く揺らいで止まる。
「二階の廊下で、何やらコソコソしておりました!この者は招待されたと言い張りますがまことですか?」
夜会の灯りが、ドラコの白い顔をぎらりと照らす。逃げ道はない。
彼は肩で息をして、観念したように吐き捨てた。
「ああ、招待されてないさ! これでいいだろ!」
会場の空気が一段低くなる。遠巻きの視線が突き刺さる中、
隣にいたスネイプが一歩前へ出た。
「我輩が外まで連れていこう」
低い声に、フィルチの手が外れる。
イリスは、いつもの流れならドラコが渋々でも礼を言うと思っていた。
だが、少年の眼差しは氷のように冷たく、反抗だけを宿している。
「……助けなんて、いらない」
吐き捨てるような言い方のまま、ドラコは踵を返した。
スネイプは無言でその背へ続き、ふたりは会場を後にする。
取り残されたイリスの耳に、周囲の囁きが不穏に重なった。
数秒後、ハリーが駆け寄ってくる。
「スネイプは絶対、何か知ってる。追うよ!」
返事を待たずに手を引かれる。
イリスは一度だけ振り返って煌びやかな会場を見やり、ハリーの後を走った。
───
人気のない廊下。冷えた石床が靴音を拾う。
曲がり角の手前で身を潜めると、荒い声が響いた。
「別に守ってもらう必要なんかない!
これは僕の役目だ!
僕が選ばれたんだ、僕が成し遂げなきゃ……!」
ドラコの声は大きい。だが震えが混じっている。
続いて、抑えた低い声が返る。
「君を守ると、破れぬ誓いを立てたのだぞ」
息を呑む音が、自分のものだと気づくまでに数拍かかった。
スネイプの低く抑えた声音は刺すように冷たくはなかった。なだめる色を帯びている。
「怖いのだろう。隠してもわかる。手助けを受け入れるがいい」
「断る!」
反発の響きが廊下に弾けた。
言葉の刃が行き交うたびに、二人の距離がさらに遠のいていくのがわかる。
イリスの胸の奥に、名付けようのない重さが落ちていった。
破れぬ誓い。
その言葉だけが、暗い水面に落ちた石のように波紋を広げる。
それ以上の会話は遠ざかり、やがて足音だけが細くなって消えた。
自室に戻るまでの道のりを、イリスは覚えていなかった。
ただ、足元が少しずつ冷たくなっていく感覚だけが残った。
───
翌朝。
クリスマス休暇で生徒たちが列車へ急ぐざわめきの中、大広間の一角でハリーとロンと腰かけた。
パン屑の散る卓上を見つめながら、ハリーが昨夜の会話の断片を繰り返す。
ロンの顔色が変わった。
「本当に、『破れぬ誓い』って言ってたのか?」
「言ってた。スネイプが、ドラコを守るって」
ハリーの言葉に、ロンは喉を鳴らした。
ロンはとてもいいにくそうに首を開いた
「破れぬ誓いは……破ると、死ぬんだ。」
頭の中で音が切れた。
イリスは息の仕方を忘れたように固まる。
何かが遠くへ引き剥がされる感覚のあと、一気に現実が雪崩のように戻ってきた。
「……どうやって結ぶの」
自分の声が上擦っているのを、遅れて自覚した。
気がついた時には椅子から立ち上がりロンの方へ体をのめり込ませていた。
ロンは目を丸くして、うろ覚えの手順を示す。
「互いの腕を重ねて、手首を掴み合って……杖で光を絡めるんだ。誓いの言葉に合わせて、糸みたいな光が巻きつくんだそれで──」
「ありがとう」
イリスは短く礼を言い、両手でこめかみを押さ椅子に倒れ込むように腰掛けた。
脳裏に、あの夜の風景が鮮やかに浮かび上がる。
ダイアゴン横丁の帰り道。
人波の向こう、スネイプの右手にまとわりつく、細い光の粒。
危険の色ではなかった。けれど、自然の魔力の流れとは違っていた。
それは、誓いの残滓だったのだろうか。
破ると命を奪う、縛りの光。
では、なぜ。
誰から、ドラコをどう守るために。
昨夜のドラコの震えた声。
闇の横丁で見かけた、ベラトリックスに寄り添うドラコの横顔。
ひとつずつの点が、勝手に線を描いて繋がり始める。
ドラコは任務を命じられている。
ホグワーツに侵入させるのか、それとも、もっと取り返しのつかないことか。
だからスネイプは守る誓いを結んだ。
その「守る」は、誰に対しての忠誠から来るのか。
スネイプは死喰い人なのか。
その想像に、胸が強く縮こまる。
そんなはずはない。
ダンブルドアが見抜けないはずがない。
自分に開心術を教えたあの時間、ハリーのそばで戦うように導いた言葉、あれは何のため。
否定したい気持ちと、繋がっていく現実の断片が、互いに引き裂き合った。
目の前の皿に乗ったパンが歪む。
フォークを持つ指先が震えている。
熱いものが喉の奥までこみ上げ、息をすると胸がきしむ。
何に泣けばいいのかも、わからない。
「イリス?」
ハーマイオニーの声がした。
顔を上げると、彼女の目が心配そうに揺れている。
その瞬間、堰が切れたように涙が滲んだ。
説明もできず、イリスは立ち上がってハーマイオニーに抱きついた。
肩に額を押し当てると、温かい手が背にまわる。
涙は理由を選ばないで流れた。
昨夜の廊下、絡みつく光、スネイプの声、ドラコの震え、ロンの言葉。
ひとつずつの像が胸に重なり、形を定めないまま、ただ痛みになっていく。
イリスは静かに目を閉じ、浅く呼吸を繰り返した。
抱きしめる腕の温度だけが、いまの自分を現実につなぎ止めてくれる唯一のものだった。
