第4章 謎のプリンス
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第5話 触れる熱
ホグワーツの校内は、春の空気の中にもどこか浮ついた熱気が漂っていた。
その理由のひとつは廊下の角という角で、ロンとラベンダーが人目もはばからず抱き合い、音を立ててキスを繰り返しているからだった。
「……まただよ」
前を歩いていた生徒が小声でため息をつき、笑いを堪えるように友達と視線を交わす。
通り過ぎるたびに、ひそやかな笑いや冷やかしの声が上がる。
イリスは足を止め、瞬きを繰り返した。唇を重ねる行為。
それは人間にとって自然なもののように見えた。
だが、そこに込められた意味は何なのか。どうして、見ている周囲まで気まずい感情を抱くのか。
彼女にはまだ理解できなかった。
───
その日の放課後。廊下を歩いていたイリスは、柱の陰で俯いて立つハーマイオニーを見つけた。
彼女は足早に人通りを避け、人気のない回廊へ歩みを進めていく。イリスも迷わず、その背を追った。
「……イリス」
振り返ったハーマイオニーの目は赤く滲んでいた。彼女は小さな声で続ける。
「ロンが……あの子と、あんなふうにしてるのを見るのは、やっぱり……辛いわ」
初めて聞いた弱音。イリスは胸の奥に重さを感じた。
人間の恋というものは、こうして他者を苦しめることもあるのかと。
だが、それ以上を尋ねるべきではないと直感した。イリスは彼女を気遣うようにそっと肩に手を置いた。
───
夜。イリスはスネイプの部屋を訪れていた。
机に広げられた羊皮紙と本の山。その横で彼は羽根ペンを動かしていた。
部屋には紅茶の香りが漂い、火のはぜる音が静けさを際立たせる。
その姿を眺めているだけで、不思議と安心できる。
彼が目の前にいて、同じ時間を過ごしているという事実。
それが、今のイリスには十分だった。
やがて仕事を区切り、ペンを置いたスネイプにイリスはためらいがちに切り出した。
「……先生。ひとつ、聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「人間にとって……キスとは、どういうものなのですか?」
スネイプの瞳が一瞬大きく見開かれた。すぐに怪訝な色が浮かび、低く問う。
「……誰の真似だ?」
「真似ではありません。ただ、知りたいんです」
真剣な眼差しに、スネイプは沈黙する。
やがて長い息を吐き、椅子の背にもたれた。
「キスは……挨拶として使う文化もある。だが――恋人同士のそれは違う」
彼の声は低く、言葉を探すように途切れがちだった。
「信頼や……愛情。あるいは、独占欲。相手が自分だけのものだと、刻み込むような意味を持つ」
視線が、イリスを捕らえる。
「だからこそ、軽々しくすべきではない。少なくとも我輩は……あの愚か者どものように、人前で安売りするものではない」
言葉を受け止めながらも、イリスの顔にはまだ迷いが残っていた。
「……よく分からないです」
素直な答えに、スネイプは苦く息を吐いた。
そして立ち上がり、彼女の傍へと歩み寄る。
「……そんなに知りたいというのなら、特別に教えてやる」
吐き捨てるような声音。次の瞬間、彼はためらいなく唇を重ねた。
───
温かさ。柔らかさ。胸の奥に広がる不思議な感覚に、イリスの目が大きく見開かれる。
すぐにスネイプは唇を離した。逸らした横顔に苦い影を落としながら、低く問う。
「……これで分かったか」
頬が熱を帯び、言葉を探す。イリスは少し震える声で答えた。
「……すごい、です。でも……もう少しだけ、分かりたい」
その真っ直ぐな一言に、スネイプの理性が音を立てて揺らぐ。
次の瞬間、彼は再び唇を重ねた。今度は堰を切ったように。
深く、熱く。抱き寄せる腕に力がこもり、イリスの背を引き寄せる。彼の舌が触れ、絡む。
イリスの体は強張ったが、すぐに甘い震えが背を駆け抜けた。
初めての感覚に戸惑いながらも、その熱は恐怖ではなく、心地よいものへと変わっていく。
息を奪われるたびに胸の奥がじんわりと痺れ、意識がふわりと浮かぶ。
スネイプの舌の動きに導かれるように、イリスもぎこちなく応えた。
触れ合うたびに、温かさが増していく。
胸の奥で小さな火が灯り、それが全身へ広がる感覚。
頬が熱く染まり、彼の腕の中で抗うことなく身を委ねた。
やがてスネイプは我に返るように唇を離した。
荒い息を抑え込みながら、苦悩に満ちた目で彼女を見つめる。
「……これ以上は危うい」
その声には、深い独占欲と同時に、自らを縛ろうとする必死の理性が滲んでいた。
イリスは言葉を失ったまま、その目を見返す。
彼の瞳の奥で燃える熱は、もう決して隠せないものになっていた。
胸の奥にまだ知らない感覚が渦巻いている。
温かさも、甘さも確かに感じた。
けれどなぜ人間がこれを交わすのか、その意味はまだ完全には掴めなかった。
これが愛の一端なのだろうか?
それでも、これが「人間にとって大切な人と行う大切なもの」ということだけは身をもって分かった。
ホグワーツの校内は、春の空気の中にもどこか浮ついた熱気が漂っていた。
その理由のひとつは廊下の角という角で、ロンとラベンダーが人目もはばからず抱き合い、音を立ててキスを繰り返しているからだった。
「……まただよ」
前を歩いていた生徒が小声でため息をつき、笑いを堪えるように友達と視線を交わす。
通り過ぎるたびに、ひそやかな笑いや冷やかしの声が上がる。
イリスは足を止め、瞬きを繰り返した。唇を重ねる行為。
それは人間にとって自然なもののように見えた。
だが、そこに込められた意味は何なのか。どうして、見ている周囲まで気まずい感情を抱くのか。
彼女にはまだ理解できなかった。
───
その日の放課後。廊下を歩いていたイリスは、柱の陰で俯いて立つハーマイオニーを見つけた。
彼女は足早に人通りを避け、人気のない回廊へ歩みを進めていく。イリスも迷わず、その背を追った。
「……イリス」
振り返ったハーマイオニーの目は赤く滲んでいた。彼女は小さな声で続ける。
「ロンが……あの子と、あんなふうにしてるのを見るのは、やっぱり……辛いわ」
初めて聞いた弱音。イリスは胸の奥に重さを感じた。
人間の恋というものは、こうして他者を苦しめることもあるのかと。
だが、それ以上を尋ねるべきではないと直感した。イリスは彼女を気遣うようにそっと肩に手を置いた。
───
夜。イリスはスネイプの部屋を訪れていた。
机に広げられた羊皮紙と本の山。その横で彼は羽根ペンを動かしていた。
部屋には紅茶の香りが漂い、火のはぜる音が静けさを際立たせる。
その姿を眺めているだけで、不思議と安心できる。
彼が目の前にいて、同じ時間を過ごしているという事実。
それが、今のイリスには十分だった。
やがて仕事を区切り、ペンを置いたスネイプにイリスはためらいがちに切り出した。
「……先生。ひとつ、聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「人間にとって……キスとは、どういうものなのですか?」
スネイプの瞳が一瞬大きく見開かれた。すぐに怪訝な色が浮かび、低く問う。
「……誰の真似だ?」
「真似ではありません。ただ、知りたいんです」
真剣な眼差しに、スネイプは沈黙する。
やがて長い息を吐き、椅子の背にもたれた。
「キスは……挨拶として使う文化もある。だが――恋人同士のそれは違う」
彼の声は低く、言葉を探すように途切れがちだった。
「信頼や……愛情。あるいは、独占欲。相手が自分だけのものだと、刻み込むような意味を持つ」
視線が、イリスを捕らえる。
「だからこそ、軽々しくすべきではない。少なくとも我輩は……あの愚か者どものように、人前で安売りするものではない」
言葉を受け止めながらも、イリスの顔にはまだ迷いが残っていた。
「……よく分からないです」
素直な答えに、スネイプは苦く息を吐いた。
そして立ち上がり、彼女の傍へと歩み寄る。
「……そんなに知りたいというのなら、特別に教えてやる」
吐き捨てるような声音。次の瞬間、彼はためらいなく唇を重ねた。
───
温かさ。柔らかさ。胸の奥に広がる不思議な感覚に、イリスの目が大きく見開かれる。
すぐにスネイプは唇を離した。逸らした横顔に苦い影を落としながら、低く問う。
「……これで分かったか」
頬が熱を帯び、言葉を探す。イリスは少し震える声で答えた。
「……すごい、です。でも……もう少しだけ、分かりたい」
その真っ直ぐな一言に、スネイプの理性が音を立てて揺らぐ。
次の瞬間、彼は再び唇を重ねた。今度は堰を切ったように。
深く、熱く。抱き寄せる腕に力がこもり、イリスの背を引き寄せる。彼の舌が触れ、絡む。
イリスの体は強張ったが、すぐに甘い震えが背を駆け抜けた。
初めての感覚に戸惑いながらも、その熱は恐怖ではなく、心地よいものへと変わっていく。
息を奪われるたびに胸の奥がじんわりと痺れ、意識がふわりと浮かぶ。
スネイプの舌の動きに導かれるように、イリスもぎこちなく応えた。
触れ合うたびに、温かさが増していく。
胸の奥で小さな火が灯り、それが全身へ広がる感覚。
頬が熱く染まり、彼の腕の中で抗うことなく身を委ねた。
やがてスネイプは我に返るように唇を離した。
荒い息を抑え込みながら、苦悩に満ちた目で彼女を見つめる。
「……これ以上は危うい」
その声には、深い独占欲と同時に、自らを縛ろうとする必死の理性が滲んでいた。
イリスは言葉を失ったまま、その目を見返す。
彼の瞳の奥で燃える熱は、もう決して隠せないものになっていた。
胸の奥にまだ知らない感覚が渦巻いている。
温かさも、甘さも確かに感じた。
けれどなぜ人間がこれを交わすのか、その意味はまだ完全には掴めなかった。
これが愛の一端なのだろうか?
それでも、これが「人間にとって大切な人と行う大切なもの」ということだけは身をもって分かった。
