第4章 謎のプリンス
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第3話 闇の防衛術
新学期が始まった。
ホグワーツの塔の上に薄い霧がかかり、遠くの湖が鈍く光っている。
門の内側は守りの魔法に包まれ、外界のざわめきが届かない分、かえって静けさが際立って感じられた。
教員席では、新任のホラス・スラグホーンが豪奢なベストを身につけ、早くも愛想よく笑っていた。
一方、黒衣のスネイプは背筋を伸ばし、視線だけで食堂全体を見渡している。
ダンブルドアの紹介により
スラグホーンが魔法薬学を
スネイプが闇の防衛術を
担当することになったのだった。
イリスは二人の授業がどのようなものになるのか、期待に胸をふくらませていた。
───
翌朝。
イリスは賑やかな廊下を進み、闇の防衛術の教室を目指した。
扉を開けると、教室はすでに整えられていた。
机の配置、明かりの当たり方、黒板の余白すべてが授業のために無駄なく用意されている。
黒板に白い粉が走る。
スネイプは振り向きもせず、要点を次々と書き出していった。
闇の魔法の性質
防御と抑制の原則
不可逆の痕跡について
対処法の階梯
チョークの音が止むと同時に、彼は生徒たちを見渡した。
「無駄な雑談は不要だ」
冷たく短い声。
隣の席で誰かの喉が小さく鳴った。
「闇の魔法は“破壊衝動”を核に持つ。完全に消し去ることはできない。
跡は残る。形を変えても、根は消えない。
防衛術の本質は“打ち消すこと”ではない。
“抑え込み”“受け流し”“逸らすこと”だ」
黒板の端に、三つの言葉が並ぶ。
抑える/受け流す/逸らす。
「許されざる呪文は防げても、存在を無効化はできん。
呪われた傷は癒えても痕跡が残ることがある。
闇の魔法は、生き物のようなものだ。
無闇に近づけば、使い手にも牙を剥く」
空気が冷えたように感じられる。
イリスは静かに息を吐いた。
消せないもの。
それは森の理と似ている。
嵐は消せない。流れを止めれば別の場所に負荷がかかる。
ならば避け、やり過ごし、耐えるしかない。
───
座学が終わると同時に、スネイプの声が響く。
「防御姿勢。全員、立て」
椅子が一斉に音を立てた。
彼は杖を滑らせるように構え、前列に向けて訓練用の衝撃呪文を放つ。
「プロテゴ」
「遅い」
刺すような評価。
だが次の瞬間には、正しい構え方や杖の角度が即座に示される。
形だけの励ましはない。だが、正しい答えは確実に与えられる。
イリスの順番が回ってきた。
杖を胸の前に据え、足を半歩開く。
視線が合う。
一瞬、言葉にならない合図が交わったように思えた。
「プロテゴ」
薄い膜のような防御が衝撃を受ける。
足元が揺れたが、崩れはしない。
「……可」
評価は簡素だった。
それでも胸の内側に、静かな熱が灯った。
───
「もう一度だ。詠唱は短く、動作は最小限に。恐怖を刻め。恐怖の中でしか、反応は速くならん」
スネイプの声が響く。
彼は照明を落とし、幻影の魔法生物を浮かび上がらせた。
低い唸り声。冷たい空気。
幻影と分かっていても心臓が速くなる。
「プロテゴ・マキシマ」
スネイプは手本を見せた。
無駄のない防御。視線の置き方、腕の運び。最小の動作で最大の守りを作る技。
イリスはその姿を見て確信する。
彼は知識も技術も、卓越した魔法使いだ。
その緊張感の中で、スネイプは次に杖を向ける。
───
ハリーの番だった。
鋭い呪文が飛ぶ。
ハリーは慌てて杖を振り上げ、「プロテゴ!」と叫んだ。
防御膜は歪み、衝撃を受けて後ろに大きくよろける。
「雑だ。声に頼りすぎている。詠唱は短く、動作は最小限だと、今教えたばかりだろう」
冷たく言い放つスネイプ。
だがハリーは反発するように、唇を噛みながら返す。
「でも、防げたじゃないか」
スネイプの瞳が鋭く光った。
「結果だけで満足するのは愚か者の思考だ。実戦なら、その隙で命を落とす」
ハリーは視線を逸らさず、挑むように肩を張った。
「はい」
「はい“先生”だ」
「僕に先生なんて敬語はいりませんよ、“先生”」
その言葉に、数人の生徒が息を呑んだ。イリスも胸がざわめく。
スネイプの声は一層低く冷えた。
「傲慢な口答えだ、ポッター。貴様は自分の命すら過信している。罰則だ。今夜、我輩の部屋へ来い」
そして冷徹に告げる。
「何人たりとも我輩に向かって生意気な態度は許さん。例えそれが“選ばれし者”であってもだ」
教室の空気が一気に張りつめる。
ハリーは唇を噛んだまま席に戻った。
───
やがて鐘が鳴る。
黒板にはまだ三つの言葉が残っている。
抑える/受け流す/逸らす。
「本質を忘れるな。闇は消せない。だが、凌げる」
そう言い終えると同時に黒板を消し、スネイプは教室を後にした。
廊下で、ハーマイオニーが小声で囁く。
「すごかったわね……。いやな意味でも、良い意味でも……」
ロンは顔をしかめながら肩を回した。
「かなりハードだったよな。怖いし……でも、できるようになった気もする」
イリスは頷いた。
辛い。厳しい。けれど、何も知らず戦場に出すよりはるかに優しい。
ハリーたちは先程の反抗を「よくやった」と盛り上がっている。
だがイリスはふと立ち止まり、窓を見上げた。
窓から射す光が床に淡く広がる。
黒板に残っていた言葉が胸に蘇る。
闇は消せない。
だからこそ、身の守り方を知らなければならない。
自然もまた消せない流れを持つ。
嵐は避け、受け流し、やり過ごす。
それは、森の掟に似ていた。
───
人の流れに混じりながら、ふと振り返る。
廊下の角に、黒いローブの裾が一瞬見えた。
スネイプだ。
振り返らずに去っていく背は冷たく見える。
たしかにハリーへの個人的な感情も滲んでいた。
けれど、教室に残された整然とした理論、正しい型、恐怖をも利用する導き。
それらのすべてが――彼の不器用で素直じゃない“優しさ”の形なのだと、イリスは思った。
新学期が始まった。
ホグワーツの塔の上に薄い霧がかかり、遠くの湖が鈍く光っている。
門の内側は守りの魔法に包まれ、外界のざわめきが届かない分、かえって静けさが際立って感じられた。
教員席では、新任のホラス・スラグホーンが豪奢なベストを身につけ、早くも愛想よく笑っていた。
一方、黒衣のスネイプは背筋を伸ばし、視線だけで食堂全体を見渡している。
ダンブルドアの紹介により
スラグホーンが魔法薬学を
スネイプが闇の防衛術を
担当することになったのだった。
イリスは二人の授業がどのようなものになるのか、期待に胸をふくらませていた。
───
翌朝。
イリスは賑やかな廊下を進み、闇の防衛術の教室を目指した。
扉を開けると、教室はすでに整えられていた。
机の配置、明かりの当たり方、黒板の余白すべてが授業のために無駄なく用意されている。
黒板に白い粉が走る。
スネイプは振り向きもせず、要点を次々と書き出していった。
闇の魔法の性質
防御と抑制の原則
不可逆の痕跡について
対処法の階梯
チョークの音が止むと同時に、彼は生徒たちを見渡した。
「無駄な雑談は不要だ」
冷たく短い声。
隣の席で誰かの喉が小さく鳴った。
「闇の魔法は“破壊衝動”を核に持つ。完全に消し去ることはできない。
跡は残る。形を変えても、根は消えない。
防衛術の本質は“打ち消すこと”ではない。
“抑え込み”“受け流し”“逸らすこと”だ」
黒板の端に、三つの言葉が並ぶ。
抑える/受け流す/逸らす。
「許されざる呪文は防げても、存在を無効化はできん。
呪われた傷は癒えても痕跡が残ることがある。
闇の魔法は、生き物のようなものだ。
無闇に近づけば、使い手にも牙を剥く」
空気が冷えたように感じられる。
イリスは静かに息を吐いた。
消せないもの。
それは森の理と似ている。
嵐は消せない。流れを止めれば別の場所に負荷がかかる。
ならば避け、やり過ごし、耐えるしかない。
───
座学が終わると同時に、スネイプの声が響く。
「防御姿勢。全員、立て」
椅子が一斉に音を立てた。
彼は杖を滑らせるように構え、前列に向けて訓練用の衝撃呪文を放つ。
「プロテゴ」
「遅い」
刺すような評価。
だが次の瞬間には、正しい構え方や杖の角度が即座に示される。
形だけの励ましはない。だが、正しい答えは確実に与えられる。
イリスの順番が回ってきた。
杖を胸の前に据え、足を半歩開く。
視線が合う。
一瞬、言葉にならない合図が交わったように思えた。
「プロテゴ」
薄い膜のような防御が衝撃を受ける。
足元が揺れたが、崩れはしない。
「……可」
評価は簡素だった。
それでも胸の内側に、静かな熱が灯った。
───
「もう一度だ。詠唱は短く、動作は最小限に。恐怖を刻め。恐怖の中でしか、反応は速くならん」
スネイプの声が響く。
彼は照明を落とし、幻影の魔法生物を浮かび上がらせた。
低い唸り声。冷たい空気。
幻影と分かっていても心臓が速くなる。
「プロテゴ・マキシマ」
スネイプは手本を見せた。
無駄のない防御。視線の置き方、腕の運び。最小の動作で最大の守りを作る技。
イリスはその姿を見て確信する。
彼は知識も技術も、卓越した魔法使いだ。
その緊張感の中で、スネイプは次に杖を向ける。
───
ハリーの番だった。
鋭い呪文が飛ぶ。
ハリーは慌てて杖を振り上げ、「プロテゴ!」と叫んだ。
防御膜は歪み、衝撃を受けて後ろに大きくよろける。
「雑だ。声に頼りすぎている。詠唱は短く、動作は最小限だと、今教えたばかりだろう」
冷たく言い放つスネイプ。
だがハリーは反発するように、唇を噛みながら返す。
「でも、防げたじゃないか」
スネイプの瞳が鋭く光った。
「結果だけで満足するのは愚か者の思考だ。実戦なら、その隙で命を落とす」
ハリーは視線を逸らさず、挑むように肩を張った。
「はい」
「はい“先生”だ」
「僕に先生なんて敬語はいりませんよ、“先生”」
その言葉に、数人の生徒が息を呑んだ。イリスも胸がざわめく。
スネイプの声は一層低く冷えた。
「傲慢な口答えだ、ポッター。貴様は自分の命すら過信している。罰則だ。今夜、我輩の部屋へ来い」
そして冷徹に告げる。
「何人たりとも我輩に向かって生意気な態度は許さん。例えそれが“選ばれし者”であってもだ」
教室の空気が一気に張りつめる。
ハリーは唇を噛んだまま席に戻った。
───
やがて鐘が鳴る。
黒板にはまだ三つの言葉が残っている。
抑える/受け流す/逸らす。
「本質を忘れるな。闇は消せない。だが、凌げる」
そう言い終えると同時に黒板を消し、スネイプは教室を後にした。
廊下で、ハーマイオニーが小声で囁く。
「すごかったわね……。いやな意味でも、良い意味でも……」
ロンは顔をしかめながら肩を回した。
「かなりハードだったよな。怖いし……でも、できるようになった気もする」
イリスは頷いた。
辛い。厳しい。けれど、何も知らず戦場に出すよりはるかに優しい。
ハリーたちは先程の反抗を「よくやった」と盛り上がっている。
だがイリスはふと立ち止まり、窓を見上げた。
窓から射す光が床に淡く広がる。
黒板に残っていた言葉が胸に蘇る。
闇は消せない。
だからこそ、身の守り方を知らなければならない。
自然もまた消せない流れを持つ。
嵐は避け、受け流し、やり過ごす。
それは、森の掟に似ていた。
───
人の流れに混じりながら、ふと振り返る。
廊下の角に、黒いローブの裾が一瞬見えた。
スネイプだ。
振り返らずに去っていく背は冷たく見える。
たしかにハリーへの個人的な感情も滲んでいた。
けれど、教室に残された整然とした理論、正しい型、恐怖をも利用する導き。
それらのすべてが――彼の不器用で素直じゃない“優しさ”の形なのだと、イリスは思った。
