第4章 謎のプリンス
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第1話 破れぬ誓い
スピナーズ・エンドは、昼間でも陰鬱だった。
灰色の雲は垂れ込め、濁った川が緩やかに流れ、古びた煉瓦の壁は煤で黒ずんでいる。
その狭い家の一室で、スネイプは新聞を広げていた。ページをめくる指先は落ち着いているが、視線は記事を捉えていない。頭の奥では別の重さがずっと蠢いていた。
ホグワーツと闇の陣営、二重の顔を往復する生活は、少しの隙も許さない。
扉を叩く硬い音が響いた。
ペティグリューが慌てて玄関へ向かう。そこに立っていたのは、蒼白な顔をしたナルシッサ・マルフォイと、その隣にベラトリックス・レストレンジだった。
「ワームテール、下がれ」
スネイプが冷たく命じると、ペティグリューは情けない呻きを漏らしながら部屋の外へ追いやられた。
ナルシッサは今にも崩れ落ちそうなほど震えていた。
「来てはならないのは分かっているのです。でも…」
必死に言葉を繋ぎとめるようにして、涙を浮かべながらスネイプを見つめる。
「闇の帝王も、他には話すなと──」
「あのお方が禁じたのなら話すべきでは無い」
スネイプは遮った。声は冷え切っているが、胸の奥では重く苦い痛みが広がっていた。
ドラコに背負わせた使命、その理不尽さを知っているからこそ。
ベラトリックスが棚に並ぶ置物を弄んでいるのが視界に入り、苛立ちが滲む。
「戻せ、ベラトリックス。勝手に我輩の物に触るな」
刺すような視線に、彼女は不満げに瓶を置き直した。
スネイプは再びナルシッサへ目を向けた。
「今回の件は我輩も承知している」
「お前が?闇の帝王がお前にはなしたのか?」
ベラトリックスが探るような視線を送る。
「我輩をお疑いか。無理もあるまい。
我輩は長年芝居を続け、偉大なダンブルドアでさえ欺いた。…彼は偉大な魔法使いだ。侮ることは愚かなこと」
ナルシッサの瞳には揺るぎがなかった。
「あなたを信じます。……でもドラコは…まだ子供なの」
縋るように言うナルシッサ。スネイプは冷たい現実を突きつけるしかなかった。
「闇の帝王のお心は変えられぬ」
その言葉に、彼女の頬を一筋の涙が伝った。 しかし次の瞬間、スネイプはわずかに声を落とした。
「だが…我輩がドラコを助けることは出来よう」
その言葉に縋るようにナルシッサの顔が緩んだが、ベラトリックスの冷笑が割り込む。
「ならば誓え。破れぬ誓いを立てよ!
言葉など信用できない。
お前は蛇のようにスルリと逃げる卑怯者だ」
挑発に顔色は変えなかった。だが内心には重い決意がすでに根を下ろしていた。
「杖を出せ」
二人の腕が重ねられ、ベラトリックスが杖を翳す。光の糸が絡みつき、肌に焼き付くような熱を放つ。
「汝セブルス・スネイプは闇の帝王の望みを叶えんとするドラコ・マルフォイを守ると誓うか」
「誓おう」
「彼に危険が及ばぬよう誓うか」
「誓おう」
「もしドラコが失敗すれば、お前が代わりに務めを果たすと誓うか」
「誓おう」
言葉を口にするごとに、光の糸が深く締め付けていく。 その重さは痛みではなく、未来を閉ざす鎖の感覚だった。
やがて光は消え、誓いは終わった。 ベラトリックスは満足げに笑い、ナルシッサを伴って立ち去る。
────
静寂が戻るとスネイプは窓辺に立ち、曇天の空を見上げた。
冷たい誓いの余韻が腕に残る。
思い浮かぶのは、柔らかく眠るイリスの姿だった。白い髪、安らかな寝息、指先に伝わった温もり。
あの短い灯りの時間が、どれほど自分を救っていたか。
今はただ、その記憶を胸に刻みながら進むしかない。
ドラコを守ると誓った。
だが――本当に守りたいのは誰なのか。 その二つの誓いが、やがて自分を引き裂くのは分かっている。
たとえこの誓いが自分を奈落へ突き落とすものでも──イリスだけは守り抜く。
スネイプの目は冷たくも、奥底に燃える炎を宿したまま、灰色の空を見つめていた。
スピナーズ・エンドは、昼間でも陰鬱だった。
灰色の雲は垂れ込め、濁った川が緩やかに流れ、古びた煉瓦の壁は煤で黒ずんでいる。
その狭い家の一室で、スネイプは新聞を広げていた。ページをめくる指先は落ち着いているが、視線は記事を捉えていない。頭の奥では別の重さがずっと蠢いていた。
ホグワーツと闇の陣営、二重の顔を往復する生活は、少しの隙も許さない。
扉を叩く硬い音が響いた。
ペティグリューが慌てて玄関へ向かう。そこに立っていたのは、蒼白な顔をしたナルシッサ・マルフォイと、その隣にベラトリックス・レストレンジだった。
「ワームテール、下がれ」
スネイプが冷たく命じると、ペティグリューは情けない呻きを漏らしながら部屋の外へ追いやられた。
ナルシッサは今にも崩れ落ちそうなほど震えていた。
「来てはならないのは分かっているのです。でも…」
必死に言葉を繋ぎとめるようにして、涙を浮かべながらスネイプを見つめる。
「闇の帝王も、他には話すなと──」
「あのお方が禁じたのなら話すべきでは無い」
スネイプは遮った。声は冷え切っているが、胸の奥では重く苦い痛みが広がっていた。
ドラコに背負わせた使命、その理不尽さを知っているからこそ。
ベラトリックスが棚に並ぶ置物を弄んでいるのが視界に入り、苛立ちが滲む。
「戻せ、ベラトリックス。勝手に我輩の物に触るな」
刺すような視線に、彼女は不満げに瓶を置き直した。
スネイプは再びナルシッサへ目を向けた。
「今回の件は我輩も承知している」
「お前が?闇の帝王がお前にはなしたのか?」
ベラトリックスが探るような視線を送る。
「我輩をお疑いか。無理もあるまい。
我輩は長年芝居を続け、偉大なダンブルドアでさえ欺いた。…彼は偉大な魔法使いだ。侮ることは愚かなこと」
ナルシッサの瞳には揺るぎがなかった。
「あなたを信じます。……でもドラコは…まだ子供なの」
縋るように言うナルシッサ。スネイプは冷たい現実を突きつけるしかなかった。
「闇の帝王のお心は変えられぬ」
その言葉に、彼女の頬を一筋の涙が伝った。 しかし次の瞬間、スネイプはわずかに声を落とした。
「だが…我輩がドラコを助けることは出来よう」
その言葉に縋るようにナルシッサの顔が緩んだが、ベラトリックスの冷笑が割り込む。
「ならば誓え。破れぬ誓いを立てよ!
言葉など信用できない。
お前は蛇のようにスルリと逃げる卑怯者だ」
挑発に顔色は変えなかった。だが内心には重い決意がすでに根を下ろしていた。
「杖を出せ」
二人の腕が重ねられ、ベラトリックスが杖を翳す。光の糸が絡みつき、肌に焼き付くような熱を放つ。
「汝セブルス・スネイプは闇の帝王の望みを叶えんとするドラコ・マルフォイを守ると誓うか」
「誓おう」
「彼に危険が及ばぬよう誓うか」
「誓おう」
「もしドラコが失敗すれば、お前が代わりに務めを果たすと誓うか」
「誓おう」
言葉を口にするごとに、光の糸が深く締め付けていく。 その重さは痛みではなく、未来を閉ざす鎖の感覚だった。
やがて光は消え、誓いは終わった。 ベラトリックスは満足げに笑い、ナルシッサを伴って立ち去る。
────
静寂が戻るとスネイプは窓辺に立ち、曇天の空を見上げた。
冷たい誓いの余韻が腕に残る。
思い浮かぶのは、柔らかく眠るイリスの姿だった。白い髪、安らかな寝息、指先に伝わった温もり。
あの短い灯りの時間が、どれほど自分を救っていたか。
今はただ、その記憶を胸に刻みながら進むしかない。
ドラコを守ると誓った。
だが――本当に守りたいのは誰なのか。 その二つの誓いが、やがて自分を引き裂くのは分かっている。
たとえこの誓いが自分を奈落へ突き落とすものでも──イリスだけは守り抜く。
スネイプの目は冷たくも、奥底に燃える炎を宿したまま、灰色の空を見つめていた。
