第1章 アズカバンの囚人
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ホグワーツの石造りの廊下は、新学期のざわめきで満ちていた。
その中に、ひときわ異質な影が歩いていた。
黒衣のスネイプの後ろ、フードを深く被った小柄な少女──イリス。
その姿に生徒たちの視線が集まり、ざわめきが波のように広がる。
「……あの子、見た?」
「白すぎる……まるで死人みたい」
「目が赤かった……しかも痩せすぎて、骨と皮ばっかり……」
「綺麗、なのに……気味が悪い。人形みたい」
ささやきは恐れと好奇心に揺れ、あからさまに突き刺さる。
紅い瞳は光を吸い込みすぎてぎょろりと見開かれ、痩せ細った頬に影を落としている。
その異様さは、彼女の“美しさ”をもってしても覆い隠せなかった。
イリスは胸が潰れそうになりながら歩を進める。
だが胸元に抱えた杖──月桂樹とユニコーンの尾の毛が、自分を選んでくれたその確かな温もりが、今の彼女をどうにか支えていた。
──
「……ちょっと待って!」
大広間へ続く廊下の角で、声が飛んだ。
振り返ると、黒髪の少年と赤毛の少年、そして栗色の髪の少女が立っていた。
黒髪の少年──ハリーが、一歩前に出て口を開いた。
「イリス!!」
だがイリスの体は強張り、反射的に背を向ける。
心臓が跳ね上がり、声を出すことすらできず、ただ逃げるように歩き去った。
「……行っちゃった……」
ハリーは小さく呟いた。
「なんだよアイツ」とロンが眉をひそめる。
「声かけてやったのに、無視するなんて失礼だよな」
「ロン!」ハーマイオニーがすぐにたしなめる。
「やめなさい。きっと理由があるのよ」
「でも態度悪すぎるだろ」
ロンは納得できない様子で肩をすくめた。
「……そうだな」
ハリーも口では同意した。
けれどその瞳はまだ、去っていった小さな背を追い続けていた。
ーー
スネイプの後を追い、大広間、中庭を通り過ぎ人影は減り、やがて2人だけになった。
「……お前のような存在に、群衆は慣れていない」
スネイプは振り返りもせず、低く投げかけた。その言葉が石壁に響く。
「視線に怯えるのは当然だ。だが……怯えてばかりでは、ますます孤立するぞ」
その声音は氷のように冷たかった。
けれどイリスには、それが“答え”のように胸へ落ちた。
──それは残酷な真実だった。
だが同時に、初めて与えられた“理由”でもあった。
ただ拒絶されるだけの日々とは違う。
言葉になった瞬間、孤立の痛みは少しだけ輪郭を持ち、彼女の中に確かな痕跡を刻んでいった。
やがて辿り着いたのは、スネイプの研究室の近くに用意された小さな個室。
医務室を出るにはもう十分回復している。
けれど、どこの寮にも属さない特異な存在として、そこに部屋を与えられたのだ。
背後に残る生徒たちの囁きが、「仲間にはなれない」という孤独感をいっそう濃くしていた。
──
その夜。
机には今日買い揃えた本や道具が並び、ベッドに腰を下ろしたイリスは杖を手に取った。
月桂樹の木に、ユニコーンの尾の毛。
握った瞬間、冷たさではなく確かな温もりが手のひらを満たす。
胸の奥に小さな光が灯り、呼吸がほんの少しだけ楽になった。
「……これは檻ではないのかもしれない」
囁きは夜の静けさに溶け、消えていった。
だがその一言は、確かに未来を受け入れる小さな兆しとなって、イリスの胸に芽生えていた。
