第3章 不死鳥の騎士団
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第4話 見守る影
放課後の廊下。 自室を出たスネイプは、ふと視線の先で立ち止まった。
白いハンカチを手にしたイリス。その布は真っ赤に染まり、彼女は右手を押さえていた。 一瞬で胸の奥がざわついた。
「……」
気づけば歩み寄り、荒々しく彼女の手を掴み上げていた。
「これは……なんだ」
低く抑えた声。それでも震えが混じるのを自分でも悟った。 イリスは驚く素振りもなく、ただ淡々と答える。
「……アンブリッジ先生からの罰則です。『人間に口答えするな』と」
スネイプは眉間に深い皺を刻んだ。 くだらぬ理由。あの女のやり口は見え透いている。
「くだらん……。ああいう女に歯向かうな。最も面倒な手合いだ」
吐き捨てるように言葉を並べる。だが、その裏で脈打つ感情を抑え込むことはできなかった。 他の生徒ならば、こんな傷など気にも留めないはずだ。だが――。
(……我輩はもう、自分の気持ちを抑えるのはやめたはずだ)
彼女の血に染まる手を見て心が乱れるのは、ただの教員としての義務感ではない。 他の誰でもない、イリスだからだ。 その事実を、否応なく認めざるを得なかった。
スネイプは短く息を吐き、何も言わず自室へ引き返すと、薬瓶を手に戻ってきた。
「来い」
彼女を促し、彼女の部屋へと足を踏み入れた。
───
イリスは椅子に腰を下ろし、右手を膝の上に置いた。 白い肌は赤く抉られ、何度も同じ場所に刻まれた文字が醜く腫れ上がっている。
スネイプは片膝を床につき、傷口をまじまじと見つめると、低く息を吐いた。
「……ひどいものだ」
薬瓶の栓を抜くと、鋭い薬草の匂いが鼻を刺す。 冷たい薬液が傷口に触れた瞬間、イリスの体がぴくりと震えた。
「っ……」
「我慢しろ」
視線を上げず、淡々と告げる。
「この傷を綺麗に治したいなら、必要なことだ」
スネイプは丁寧に薬を塗り込む。 何度も、何度も。 繰り返すうちに段々と傷が浅くなっていくのがわかる。
集中するあまり、息遣いすら静かになる。 ただ傷を癒すことだけに全神経を注いでいた。
そんな自分に気づいた瞬間、リリーの面影が浮かんだ。
(……違う。彼女はリリーではない)
だが同時に、否応なく思い知らされる。
(それでも……あの時と同じ感情を抱くなど……)
もう二度と芽生えることはないと思っていた感情が、確かに今、目の前の少女に向けられている。 苦く、そして甘い自覚だった。
───
翌朝。 大広間で彼女を見かけた。 傷は塞がっていたが、皮膚はまだ引き攣り、赤黒い痕が残っている。
スネイプは迷うことなく近づき、小瓶を突き出した。
「塗っておけ」
乱暴な口調。だがそれは、あのあと夜遅くまで調合を続けた薬だ。
イリスは少し驚いたように瞬きをし、それから大切そうに小瓶を両手で受け取り、胸ポケットへ仕舞った。 その仕草を目にした瞬間、スネイプの胸の奥で、わずかな温もりが灯った。
───
数日後の放課後。
巡回の途中、見慣れぬ扉が見えて足を止めた。 ちょうどその中へ、白銀の髪を揺らしながらイリスが入っていくのが見えた。
「……必要の部屋、か」
すぐに理解した。 何やらポッター共が実力を付けるための集会をし始めたとの噂が回っていたから。 彼女が自ら力をつけようと、その扉を選んだのだ。
(……あの子は、あの時の我輩のように闇に呑まれるのではなく、必死に学ぼうとしているのか)
胸中に、どうしようもなく溢れる想いがあった。
リリーとは違う。 だがあの時と同じように守りたい。支えたいと強く願っている。
夜、窓辺に立ち、月を見上げる。
「我輩に……支える資格などあるのか」
呟きはかき消されるように夜気に溶けた。 それでも胸の奥では、ひとつの決意が静かに形を成し始めていた。
(……見守ろう。たとえ陰からでも)
黒い影は静かに揺らぎながらも、確かに少女を支えようと前へと進み始めていた。
放課後の廊下。 自室を出たスネイプは、ふと視線の先で立ち止まった。
白いハンカチを手にしたイリス。その布は真っ赤に染まり、彼女は右手を押さえていた。 一瞬で胸の奥がざわついた。
「……」
気づけば歩み寄り、荒々しく彼女の手を掴み上げていた。
「これは……なんだ」
低く抑えた声。それでも震えが混じるのを自分でも悟った。 イリスは驚く素振りもなく、ただ淡々と答える。
「……アンブリッジ先生からの罰則です。『人間に口答えするな』と」
スネイプは眉間に深い皺を刻んだ。 くだらぬ理由。あの女のやり口は見え透いている。
「くだらん……。ああいう女に歯向かうな。最も面倒な手合いだ」
吐き捨てるように言葉を並べる。だが、その裏で脈打つ感情を抑え込むことはできなかった。 他の生徒ならば、こんな傷など気にも留めないはずだ。だが――。
(……我輩はもう、自分の気持ちを抑えるのはやめたはずだ)
彼女の血に染まる手を見て心が乱れるのは、ただの教員としての義務感ではない。 他の誰でもない、イリスだからだ。 その事実を、否応なく認めざるを得なかった。
スネイプは短く息を吐き、何も言わず自室へ引き返すと、薬瓶を手に戻ってきた。
「来い」
彼女を促し、彼女の部屋へと足を踏み入れた。
───
イリスは椅子に腰を下ろし、右手を膝の上に置いた。 白い肌は赤く抉られ、何度も同じ場所に刻まれた文字が醜く腫れ上がっている。
スネイプは片膝を床につき、傷口をまじまじと見つめると、低く息を吐いた。
「……ひどいものだ」
薬瓶の栓を抜くと、鋭い薬草の匂いが鼻を刺す。 冷たい薬液が傷口に触れた瞬間、イリスの体がぴくりと震えた。
「っ……」
「我慢しろ」
視線を上げず、淡々と告げる。
「この傷を綺麗に治したいなら、必要なことだ」
スネイプは丁寧に薬を塗り込む。 何度も、何度も。 繰り返すうちに段々と傷が浅くなっていくのがわかる。
集中するあまり、息遣いすら静かになる。 ただ傷を癒すことだけに全神経を注いでいた。
そんな自分に気づいた瞬間、リリーの面影が浮かんだ。
(……違う。彼女はリリーではない)
だが同時に、否応なく思い知らされる。
(それでも……あの時と同じ感情を抱くなど……)
もう二度と芽生えることはないと思っていた感情が、確かに今、目の前の少女に向けられている。 苦く、そして甘い自覚だった。
───
翌朝。 大広間で彼女を見かけた。 傷は塞がっていたが、皮膚はまだ引き攣り、赤黒い痕が残っている。
スネイプは迷うことなく近づき、小瓶を突き出した。
「塗っておけ」
乱暴な口調。だがそれは、あのあと夜遅くまで調合を続けた薬だ。
イリスは少し驚いたように瞬きをし、それから大切そうに小瓶を両手で受け取り、胸ポケットへ仕舞った。 その仕草を目にした瞬間、スネイプの胸の奥で、わずかな温もりが灯った。
───
数日後の放課後。
巡回の途中、見慣れぬ扉が見えて足を止めた。 ちょうどその中へ、白銀の髪を揺らしながらイリスが入っていくのが見えた。
「……必要の部屋、か」
すぐに理解した。 何やらポッター共が実力を付けるための集会をし始めたとの噂が回っていたから。 彼女が自ら力をつけようと、その扉を選んだのだ。
(……あの子は、あの時の我輩のように闇に呑まれるのではなく、必死に学ぼうとしているのか)
胸中に、どうしようもなく溢れる想いがあった。
リリーとは違う。 だがあの時と同じように守りたい。支えたいと強く願っている。
夜、窓辺に立ち、月を見上げる。
「我輩に……支える資格などあるのか」
呟きはかき消されるように夜気に溶けた。 それでも胸の奥では、ひとつの決意が静かに形を成し始めていた。
(……見守ろう。たとえ陰からでも)
黒い影は静かに揺らぎながらも、確かに少女を支えようと前へと進み始めていた。
