第3章 不死鳥の騎士団
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第2話 刻まれる罰、癒す手
放課後。 イリスとハリーは、防衛術の教室の奥にあるアンブリッジの部屋へと呼び出された。
部屋はやけに甘ったるい花柄で飾られ、壁一面の猫の飾り皿がこちらを見下ろしていた。だが、空気は不気味なほど張りつめている。
アンブリッジは満面の笑みを浮かべて二人を迎えた。
「まあ、元気そうですこと。少し“しつけ”をすれば、もっと立派になりますわね」
机に置かれた羽根ペンは、インク壺を伴っていなかった。
「こちらに書きなさい。『人間に口答えしてはならない』と、何度も何度も。分かるまで」
ハリーは「嘘を広めた」として
イリスは「教師に反論した」として。
理由は違えど、同じ罰が与えられた。
ペンを握るとすぐに、刃物のような鋭い痛みが走った。書いた言葉はインクではなく、自らの血で刻まれる。
ハリーの手には「私は嘘をついてはいけない」
イリスの手には「人間に口答えしてはならない」
という文字が浮かび上がり、肉に焼き付けられていく。
「っ……」
イリスの手の甲は、ハリーよりも深く刻まれていた。与えられた量も多く、文字を重ねるたびに血がにじみ、ハンカチで押さえても追いつかないほどだった。
アンブリッジは紅茶を優雅にすする。 「まぁ、お行儀よくしていれば、こんな思いはしなくても済むのですわ」
その声音には楽しげな響きすら混じっていた。
ハリーは先に終わり、心配そうにイリスを振り返るが、アンブリッジに促されて退室させられる。 残されたイリスは、淡々と最後まで書き続けた。
(……あぁ、よく似ている。あの男に)
思い出したのは、かつて自分を縛り上げ、見世物として扱った店主の顔だった。 異質だからと殴り、蹴り、抵抗できなくなるまで痛めつける――それが彼にとっての「安心」だった。
(人間は恐れると、こうして支配しようとする。……哀れね)
心の奥に冷たい諦めと、どこか乾いた感情が広がった。
やっと罰則が終わり、部屋を出た時には、右手は血で濡れ、ハンカチは真っ赤に染まっていた。
───
部屋の前に着いた時ちょうど隣の部屋、スネイプの部屋の扉が開いた。 黒いローブの裾を翻し、廊下に姿を現したその人は、イリスの手を一瞥して足を止めた。
「……」
視線が鋭く突き刺さる。次の瞬間、彼は荒々しくイリスの手を掴み上げた。
「これは……なんだ」
低く抑えられた声。けれど、その中に確かな怒りが震えていた。
イリスは隠そうともせず、素直に答えた。
「……アンブリッジ先生からの罰則です。『人間に口答えするな』と」
スネイプの眉間に深い皺が刻まれる。
「くだらん……。ああいう女に歯向かうな。最も面倒な手合いだ」
吐き捨てるような言葉。だがその声音には、苛立ち以上のもの――怒りとも焦燥ともつかぬ感情が滲んでいた。
彼は無言で自室に引き返し、すぐに薬瓶を手に戻ってきた。
「来い」
───
イリスは自分の部屋に入り、椅子に腰を下ろした。
「手を出せ」
促されるまま右手を自分の膝の上に置く。白い肌は赤く歪に裂け、何度も同じ場所を抉られた文字で腫れ上がり、血が固まっていた。
スネイプは片膝を床につき、その傷口をまじまじと見つめ、低く息を吐いた。
「……ひどいものだ」
彼が薬瓶を開けると、鼻を刺すような薬草の匂いが漂った。
冷たい感触が、傷に触れる。
「っ……」
思わず体がこわばる。
「我慢しろ」
スネイプは視線を上げずに言った。
「この傷を綺麗に治したいなら、必要なことだ」
淡々と告げる声は冷たいはずなのに、不思議と安堵が滲んでいた。
彼は丁寧に薬を塗り込む。何度も何度も、同じ動作を繰り返すたびに、焼けるような痛みが熱に変わり、やがてじんわりと和らいでいく。
イリスは顔を歪めながらも、彼の手の感触を意識せずにはいられなかった。 温かい指が自分の手を包み、掌の熱が伝わる。その温かさが、痛みと共に胸をも焦がしていく。
目の前で片膝をつき、真剣な表情で集中するスネイプ。 いつもは冷酷な瞳が、今はただ治療のためだけに研ぎ澄まされている。
(……どうして、こんなにも心が騒ぐのだろう)
この時間が、もっと続いて欲しい――ふと、そんな願いが胸に芽生えてしまった。
───
翌朝。 右手の傷は塞がっていたが、皮膚は引き攣り、赤黒い痕が残っていた。
大広間で顔を合わせたスネイプは、何も言わず、小瓶を乱暴に突きつけてきた。
「塗っておけ」
素っ気ない声。だがそれは、確かに気遣いだった。
イリスはその瓶を両手で受け取り、胸ポケットにそっとしまった。 その仕草は、まるで大切な贈り物を仕舞うかのようだった。
放課後。 イリスとハリーは、防衛術の教室の奥にあるアンブリッジの部屋へと呼び出された。
部屋はやけに甘ったるい花柄で飾られ、壁一面の猫の飾り皿がこちらを見下ろしていた。だが、空気は不気味なほど張りつめている。
アンブリッジは満面の笑みを浮かべて二人を迎えた。
「まあ、元気そうですこと。少し“しつけ”をすれば、もっと立派になりますわね」
机に置かれた羽根ペンは、インク壺を伴っていなかった。
「こちらに書きなさい。『人間に口答えしてはならない』と、何度も何度も。分かるまで」
ハリーは「嘘を広めた」として
イリスは「教師に反論した」として。
理由は違えど、同じ罰が与えられた。
ペンを握るとすぐに、刃物のような鋭い痛みが走った。書いた言葉はインクではなく、自らの血で刻まれる。
ハリーの手には「私は嘘をついてはいけない」
イリスの手には「人間に口答えしてはならない」
という文字が浮かび上がり、肉に焼き付けられていく。
「っ……」
イリスの手の甲は、ハリーよりも深く刻まれていた。与えられた量も多く、文字を重ねるたびに血がにじみ、ハンカチで押さえても追いつかないほどだった。
アンブリッジは紅茶を優雅にすする。 「まぁ、お行儀よくしていれば、こんな思いはしなくても済むのですわ」
その声音には楽しげな響きすら混じっていた。
ハリーは先に終わり、心配そうにイリスを振り返るが、アンブリッジに促されて退室させられる。 残されたイリスは、淡々と最後まで書き続けた。
(……あぁ、よく似ている。あの男に)
思い出したのは、かつて自分を縛り上げ、見世物として扱った店主の顔だった。 異質だからと殴り、蹴り、抵抗できなくなるまで痛めつける――それが彼にとっての「安心」だった。
(人間は恐れると、こうして支配しようとする。……哀れね)
心の奥に冷たい諦めと、どこか乾いた感情が広がった。
やっと罰則が終わり、部屋を出た時には、右手は血で濡れ、ハンカチは真っ赤に染まっていた。
───
部屋の前に着いた時ちょうど隣の部屋、スネイプの部屋の扉が開いた。 黒いローブの裾を翻し、廊下に姿を現したその人は、イリスの手を一瞥して足を止めた。
「……」
視線が鋭く突き刺さる。次の瞬間、彼は荒々しくイリスの手を掴み上げた。
「これは……なんだ」
低く抑えられた声。けれど、その中に確かな怒りが震えていた。
イリスは隠そうともせず、素直に答えた。
「……アンブリッジ先生からの罰則です。『人間に口答えするな』と」
スネイプの眉間に深い皺が刻まれる。
「くだらん……。ああいう女に歯向かうな。最も面倒な手合いだ」
吐き捨てるような言葉。だがその声音には、苛立ち以上のもの――怒りとも焦燥ともつかぬ感情が滲んでいた。
彼は無言で自室に引き返し、すぐに薬瓶を手に戻ってきた。
「来い」
───
イリスは自分の部屋に入り、椅子に腰を下ろした。
「手を出せ」
促されるまま右手を自分の膝の上に置く。白い肌は赤く歪に裂け、何度も同じ場所を抉られた文字で腫れ上がり、血が固まっていた。
スネイプは片膝を床につき、その傷口をまじまじと見つめ、低く息を吐いた。
「……ひどいものだ」
彼が薬瓶を開けると、鼻を刺すような薬草の匂いが漂った。
冷たい感触が、傷に触れる。
「っ……」
思わず体がこわばる。
「我慢しろ」
スネイプは視線を上げずに言った。
「この傷を綺麗に治したいなら、必要なことだ」
淡々と告げる声は冷たいはずなのに、不思議と安堵が滲んでいた。
彼は丁寧に薬を塗り込む。何度も何度も、同じ動作を繰り返すたびに、焼けるような痛みが熱に変わり、やがてじんわりと和らいでいく。
イリスは顔を歪めながらも、彼の手の感触を意識せずにはいられなかった。 温かい指が自分の手を包み、掌の熱が伝わる。その温かさが、痛みと共に胸をも焦がしていく。
目の前で片膝をつき、真剣な表情で集中するスネイプ。 いつもは冷酷な瞳が、今はただ治療のためだけに研ぎ澄まされている。
(……どうして、こんなにも心が騒ぐのだろう)
この時間が、もっと続いて欲しい――ふと、そんな願いが胸に芽生えてしまった。
───
翌朝。 右手の傷は塞がっていたが、皮膚は引き攣り、赤黒い痕が残っていた。
大広間で顔を合わせたスネイプは、何も言わず、小瓶を乱暴に突きつけてきた。
「塗っておけ」
素っ気ない声。だがそれは、確かに気遣いだった。
イリスはその瓶を両手で受け取り、胸ポケットにそっとしまった。 その仕草は、まるで大切な贈り物を仕舞うかのようだった。
