第3章 不死鳥の騎士団
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第1話 怯える権力
新学期の始まり。まだ涼しい風が石造りの廊下を抜ける頃、イリスは久しぶりにスネイプと顔を合わせた。
「……先日の件だが」
彼は低く切り出した。イリスは思わず立ち止まる。 黒い瞳は相変わらず冷たく、口調も刺々しい。だがその奥には、確かにためらいの影が見えた。
「我輩はお前に対して、いささか言い過ぎた。不用心なのは事実だが……伝え方は間違っていたな」
語尾はぶっきらぼうで、素直さからは程遠い。だが普段なら「弁解」すらしない男が、わざわざ言葉を選び、言い直している。
「……ふん、結局はお前が原因なのだがな」
最後に皮肉を一つ付け加えるのが、スネイプらしい不器用さだった。
嫌味で隠そうとしても、謝罪の意図は伝わっていた。彼は本当に、自分を心配していたのだ。
「そして、避けていたのは……見捨てるからではない」
一瞬、言葉を飲み込み、選び直すように沈黙する。やがて短く、しかしはっきりと言った。
「……我輩自身の問題だったのだ」
それで十分だった。自分は嫌われてはいなかった――その事実に心底安堵し、イリスは自然と肩の力が抜けるのを感じた。 胸の奥にじんわりと温かさが広がり、重く沈んでいた心が少しずつ軽くなっていく。
──こうして二人の間に漂っていたわだかまりは、確かに解けていった。
───
やがて、大広間で新しい防衛術の教授が紹介された。 いや、紹介されたというよりダンブルドアの挨拶を横から遮り、ずかずかと前に出てきたのだ。
「ドローレス・ジェーン・アンブリッジですわ」
派手なピンクのスーツに猫の飾り皿。甘ったるい声で演壇に立つその姿は、異様なほど浮き、逆に寒気を誘った。
彼女は延々と「調和」「規律」「安全」といった言葉を繰り返し、意味のない美辞麗句を並べ続けた。 そのたびに聞く者の意識は遠のき、空気はどんよりと重く沈む。
イリスもまた、その笑みの裏にある硬質な支配欲を敏感に感じ取っていた。
ハーマイオニーが囁いた。 「アンブリッジは魔法省から送り込まれたのよ。……つまりヴォルデモート復活を認めない省が、学校を監視してるってこと」
その説明で、イリスは合点がいった。
(恐怖を認められない人間は、それを否定し、支配しようとするのか……)
───
最初の防衛術の授業。 黒板には「理論的防衛術」と大きく書かれ、アンブリッジはにこやかに教科書を掲げた。
「皆さんは呪文を唱える必要はありません。危険を冒す必要もございません。理論を学びさえすれば、安全に身を守ることができるのですわ」
生徒たちはざわめいた。ロンが呆れたように口を開き、ハーマイオニーが真剣な声で異議を唱える。
「でも、実際に試してみなければ身につきません!」
「実戦? そんな野蛮なものは必要ありませんわ」
アンブリッジは笑顔を崩さず言い切った。
そして、とうとうハリーが耐えきれなくなった。
「でも――“彼”が戻ったら? あんたの“理論”で戦えるのか!」
「発言する時は手を挙げなさい!」
教室は凍りつく。アンブリッジの笑みは固まり、瞳に冷たい光が宿った。
「……嘘を広めるのは、非常に危険ですのよ、ポッター君」
「セドリックはひとりで勝手に死んだって言うのか?」
「彼は不慮の事故だったのです」
「でも僕は見たんだ!!」
「おだまり!!」
体を震わせて声を張り上げたアンブリッジ。やがて深呼吸し、無理やり笑顔を取り戻すと冷たい声で告げた。
「罰則です。……あとでいらっしゃい」
イリスはそのやり取りを黙って見つめていた。 人間の教師と生徒がここまで露骨に衝突するのを目にしたのは初めてだった。
人間は、恐れると対象を否定し、遠ざけ、監視下に置くことで安心を得る。
アンブリッジの行動はまさにそれだった。
その後はつまらなく眠気を誘う授業が続いた。だがイリスは教科書に目を凝らし、逆に思考を深めていた。
(……この本は無駄に言い回しが難解で、理論の本質すら伝わってこない)
そんな表情が顔に出ていたのか、アンブリッジの視線が鋭く向けられる。
「ミス・イリス、なにかありましたか?」
「これはあなたが用意してくださった本ですが、なぜこれを選んだのでしょうか?」
「わたくしの選択に間違いはありません。これが最善の教科書ですわ」
「ですが……言い回しがくどく、実演もなく座学のみでは学習に不向きではありませんか?」
それはただの疑問だった。だがアンブリッジの笑みはぴたりと固まった。
「ははっ? あなたは何か勘違いしているようですが、わたくしの選択は魔法省の意思なのです」
アンブリッジはゆっくりと歩み寄り、猫なで声で続ける。
「あなたはエルフでしたわね。なぜ、そんな人目を避けるように生きてきた存在が、わざわざここに来ているのかしら?」
「え……」
「ここは魔法使いのための学び舎。あなたのような未知の存在がいる場所ではないのですわ。魔法省の寛大な心で受け入れているのだから、意見する立場ではありませんのよ?」
「……」
「そもそも人間の技術を盗み、持ち帰り、なにかよからぬことを企んでいるのではなくて?」
「そんなことする意味が分かりません。あなたは憶測で──」
「黙りなさい。私が話していますわ。」
猫なで声の奥に冷たい鋼のような響き。
「ポッターといい、あなたといい、この学年は実に残念な生徒が多いようですわね。ミス・イリス、あなたも放課後来なさい」
周囲の生徒たちがざわめき、眉をひそめる。だがイリスは淡々と受け入れていた。
(……むしろ興味深い)
胸の奥には、不思議な興奮すら芽生えていた。 アンブリッジの行動には恐怖の影が色濃く映っていた。その恐怖が、彼女をここまで横暴にさせている。
その笑顔が冷たく光るたび、イリスの紅い瞳もまた微かに煌めいていた。
新学期の始まり。まだ涼しい風が石造りの廊下を抜ける頃、イリスは久しぶりにスネイプと顔を合わせた。
「……先日の件だが」
彼は低く切り出した。イリスは思わず立ち止まる。 黒い瞳は相変わらず冷たく、口調も刺々しい。だがその奥には、確かにためらいの影が見えた。
「我輩はお前に対して、いささか言い過ぎた。不用心なのは事実だが……伝え方は間違っていたな」
語尾はぶっきらぼうで、素直さからは程遠い。だが普段なら「弁解」すらしない男が、わざわざ言葉を選び、言い直している。
「……ふん、結局はお前が原因なのだがな」
最後に皮肉を一つ付け加えるのが、スネイプらしい不器用さだった。
嫌味で隠そうとしても、謝罪の意図は伝わっていた。彼は本当に、自分を心配していたのだ。
「そして、避けていたのは……見捨てるからではない」
一瞬、言葉を飲み込み、選び直すように沈黙する。やがて短く、しかしはっきりと言った。
「……我輩自身の問題だったのだ」
それで十分だった。自分は嫌われてはいなかった――その事実に心底安堵し、イリスは自然と肩の力が抜けるのを感じた。 胸の奥にじんわりと温かさが広がり、重く沈んでいた心が少しずつ軽くなっていく。
──こうして二人の間に漂っていたわだかまりは、確かに解けていった。
───
やがて、大広間で新しい防衛術の教授が紹介された。 いや、紹介されたというよりダンブルドアの挨拶を横から遮り、ずかずかと前に出てきたのだ。
「ドローレス・ジェーン・アンブリッジですわ」
派手なピンクのスーツに猫の飾り皿。甘ったるい声で演壇に立つその姿は、異様なほど浮き、逆に寒気を誘った。
彼女は延々と「調和」「規律」「安全」といった言葉を繰り返し、意味のない美辞麗句を並べ続けた。 そのたびに聞く者の意識は遠のき、空気はどんよりと重く沈む。
イリスもまた、その笑みの裏にある硬質な支配欲を敏感に感じ取っていた。
ハーマイオニーが囁いた。 「アンブリッジは魔法省から送り込まれたのよ。……つまりヴォルデモート復活を認めない省が、学校を監視してるってこと」
その説明で、イリスは合点がいった。
(恐怖を認められない人間は、それを否定し、支配しようとするのか……)
───
最初の防衛術の授業。 黒板には「理論的防衛術」と大きく書かれ、アンブリッジはにこやかに教科書を掲げた。
「皆さんは呪文を唱える必要はありません。危険を冒す必要もございません。理論を学びさえすれば、安全に身を守ることができるのですわ」
生徒たちはざわめいた。ロンが呆れたように口を開き、ハーマイオニーが真剣な声で異議を唱える。
「でも、実際に試してみなければ身につきません!」
「実戦? そんな野蛮なものは必要ありませんわ」
アンブリッジは笑顔を崩さず言い切った。
そして、とうとうハリーが耐えきれなくなった。
「でも――“彼”が戻ったら? あんたの“理論”で戦えるのか!」
「発言する時は手を挙げなさい!」
教室は凍りつく。アンブリッジの笑みは固まり、瞳に冷たい光が宿った。
「……嘘を広めるのは、非常に危険ですのよ、ポッター君」
「セドリックはひとりで勝手に死んだって言うのか?」
「彼は不慮の事故だったのです」
「でも僕は見たんだ!!」
「おだまり!!」
体を震わせて声を張り上げたアンブリッジ。やがて深呼吸し、無理やり笑顔を取り戻すと冷たい声で告げた。
「罰則です。……あとでいらっしゃい」
イリスはそのやり取りを黙って見つめていた。 人間の教師と生徒がここまで露骨に衝突するのを目にしたのは初めてだった。
人間は、恐れると対象を否定し、遠ざけ、監視下に置くことで安心を得る。
アンブリッジの行動はまさにそれだった。
その後はつまらなく眠気を誘う授業が続いた。だがイリスは教科書に目を凝らし、逆に思考を深めていた。
(……この本は無駄に言い回しが難解で、理論の本質すら伝わってこない)
そんな表情が顔に出ていたのか、アンブリッジの視線が鋭く向けられる。
「ミス・イリス、なにかありましたか?」
「これはあなたが用意してくださった本ですが、なぜこれを選んだのでしょうか?」
「わたくしの選択に間違いはありません。これが最善の教科書ですわ」
「ですが……言い回しがくどく、実演もなく座学のみでは学習に不向きではありませんか?」
それはただの疑問だった。だがアンブリッジの笑みはぴたりと固まった。
「ははっ? あなたは何か勘違いしているようですが、わたくしの選択は魔法省の意思なのです」
アンブリッジはゆっくりと歩み寄り、猫なで声で続ける。
「あなたはエルフでしたわね。なぜ、そんな人目を避けるように生きてきた存在が、わざわざここに来ているのかしら?」
「え……」
「ここは魔法使いのための学び舎。あなたのような未知の存在がいる場所ではないのですわ。魔法省の寛大な心で受け入れているのだから、意見する立場ではありませんのよ?」
「……」
「そもそも人間の技術を盗み、持ち帰り、なにかよからぬことを企んでいるのではなくて?」
「そんなことする意味が分かりません。あなたは憶測で──」
「黙りなさい。私が話していますわ。」
猫なで声の奥に冷たい鋼のような響き。
「ポッターといい、あなたといい、この学年は実に残念な生徒が多いようですわね。ミス・イリス、あなたも放課後来なさい」
周囲の生徒たちがざわめき、眉をひそめる。だがイリスは淡々と受け入れていた。
(……むしろ興味深い)
胸の奥には、不思議な興奮すら芽生えていた。 アンブリッジの行動には恐怖の影が色濃く映っていた。その恐怖が、彼女をここまで横暴にさせている。
その笑顔が冷たく光るたび、イリスの紅い瞳もまた微かに煌めいていた。
