第2章 炎のゴブレット
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第22話 過去と未来の狭間
春休みの夜。 生徒の姿を失ったホグワーツは、異様なほど静まり返っていた。 だがスネイプの胸の内は、決して静かではなかった。
──イリスが、戻らない。
夕刻を過ぎても姿が見えず、やがて日が完全に落ちても彼女の気配はなかった。 教師や幽霊が必死に探し回る中で、スネイプは誰よりも心をかき乱されていた。
同時に脳裏に大会直後の光景が蘇る。 ダンブルドアに呼び出されたあの夜のこと。
「イリスから聞いたのだが……ヴォルデモートは、かつて彼女の前に姿を現しておったそうじゃ。見世物小屋に囚われていた頃から。そして今もなお、死喰い人として引き込もうとしていると」
その言葉は、胸を氷で貫かれたようだった。
(……狙われている。すでに闇の帝王の目に留まっているのだ……!)
何度思い返しても、背筋を冷たく撫でる恐怖は消えなかった。 もし、このまま彼女が闇に連れ去られたら。 考えるだけで胸が締め付けられる。
いや、一生徒にここまで心を乱される必要はない。 教員として冷静であれと理性は叫ぶのに、感情はそれを裏切っていた。 認めたくない。だが確かに、自分は揺らいでいる。
───
探し歩いて数時間、校庭の入口から白銀の髪が月光に揺れるのを見た。 イリスだ。
安堵が全身を駆け巡った。だが同時に、それは怒りへと転じた。 失うことへの恐怖が、言葉を荒らげさせた。
「お前はあんな出来事があったというのに、何をしているのだ! ホグワーツが保護魔法で守られているとはいえ、闇の帝王が復活し、貴様も狙われる可能性がある今どうしてこんな無用心が出来る! あまりにも軽率だとは思わんか!」
彼女が怯んで瞳を潤ませた瞬間、胸が痛んだ。本当は「よく戻った」と言いたかった。 だがそんな言葉を吐ける資格など、自分にはない。
だから、背を向けるしかなかった。
──夜の廊下。黒い裾を翻し歩く背に、小さな手が縋りついた。
「……私を孤独にしたのは人間。そんな人間が、今度は私に自由を与えて、前を向けと教えたのに……また私を孤独にするのですか」
震える声。紅の瞳が、まっすぐにこちらを射抜いていた。
「これまでの関わりは、人間の気まぐれだったのですか? それとも……異質な存在の私を苦しめるためだったのですか?」
その一言一言が胸を抉った。 真っ直ぐで、痛々しいほどの訴え。自分がどれほど彼女の支えになっていたかを悟らされる。
(……やめろ。これ以上、我輩を揺らすな)
突き放さねばならないのに、振り払うことも、完全に無視することもできなかった。
長い沈黙の末、やっと絞り出した言葉はただ一つ。
「……時間が欲しい」
それだけを残し、背を向けた。
──独りきりになった後。 胸の内に去来するのは、ただ一人の面影。
リリー。 彼女は、自分にとって永遠の存在。愛した人であり、深く傷つけてしまった人。決して消えることのない後悔と、赦しを乞うことすら許されぬ過去。
(……イリスに心を向けることは、リリーを忘れることになる)
(再び同じ過ちを繰り返すのではないか?)
怖かった。怯えていた。 だが分かっている。今の態度はイリスを苦しめている。 このままでは、彼女が心を閉ざし、闇に飲み込まれてしまうかもしれない。
それでも、この気持ちを認めてしまえば……。
拳を握りしめた、その時。
「セブルス」
月光の下、落ち着いた声。振り返れば、ダンブルドアが静かに立っていた。
「新しい存在へと思いを馳せるのは、死者を忘れることにはならん」
まるで心を読んだかのような言葉に、スネイプは固まった。
「リリーから学んだことを忘れず、同じ過ちを繰り返さぬことこそ、彼女への誠実さじゃ」
その瞳は静かに、しかし強く光を宿していた。
「セブルス。お主が抱いたその気持ちは、リリーへの愛とは似て非なるものじゃ。 リリーはお主に、囚われ続けることを望んではおらん。 きっと前へ進んでほしいと願っておるはずじゃ」
言葉が胸を震わせた。
気持ちが傾くことはリリーを忘れることではない。
リリーから学んだものを胸に刻み、同じ過ちを繰り返さぬよう生きること。 それこそが、彼女への誠実さなのだ。
スネイプは長く息を吐いた。 自分の心から逃げることをやめようと決めていた。
(……時間はかかるだろう。だが、もう逃げはしない)
冷たい石壁に影が伸びる。 その影は、ほんの少しだけ揺らぎながらも、確かに前へと進もうとしていた。
春休みの夜。 生徒の姿を失ったホグワーツは、異様なほど静まり返っていた。 だがスネイプの胸の内は、決して静かではなかった。
──イリスが、戻らない。
夕刻を過ぎても姿が見えず、やがて日が完全に落ちても彼女の気配はなかった。 教師や幽霊が必死に探し回る中で、スネイプは誰よりも心をかき乱されていた。
同時に脳裏に大会直後の光景が蘇る。 ダンブルドアに呼び出されたあの夜のこと。
「イリスから聞いたのだが……ヴォルデモートは、かつて彼女の前に姿を現しておったそうじゃ。見世物小屋に囚われていた頃から。そして今もなお、死喰い人として引き込もうとしていると」
その言葉は、胸を氷で貫かれたようだった。
(……狙われている。すでに闇の帝王の目に留まっているのだ……!)
何度思い返しても、背筋を冷たく撫でる恐怖は消えなかった。 もし、このまま彼女が闇に連れ去られたら。 考えるだけで胸が締め付けられる。
いや、一生徒にここまで心を乱される必要はない。 教員として冷静であれと理性は叫ぶのに、感情はそれを裏切っていた。 認めたくない。だが確かに、自分は揺らいでいる。
───
探し歩いて数時間、校庭の入口から白銀の髪が月光に揺れるのを見た。 イリスだ。
安堵が全身を駆け巡った。だが同時に、それは怒りへと転じた。 失うことへの恐怖が、言葉を荒らげさせた。
「お前はあんな出来事があったというのに、何をしているのだ! ホグワーツが保護魔法で守られているとはいえ、闇の帝王が復活し、貴様も狙われる可能性がある今どうしてこんな無用心が出来る! あまりにも軽率だとは思わんか!」
彼女が怯んで瞳を潤ませた瞬間、胸が痛んだ。本当は「よく戻った」と言いたかった。 だがそんな言葉を吐ける資格など、自分にはない。
だから、背を向けるしかなかった。
──夜の廊下。黒い裾を翻し歩く背に、小さな手が縋りついた。
「……私を孤独にしたのは人間。そんな人間が、今度は私に自由を与えて、前を向けと教えたのに……また私を孤独にするのですか」
震える声。紅の瞳が、まっすぐにこちらを射抜いていた。
「これまでの関わりは、人間の気まぐれだったのですか? それとも……異質な存在の私を苦しめるためだったのですか?」
その一言一言が胸を抉った。 真っ直ぐで、痛々しいほどの訴え。自分がどれほど彼女の支えになっていたかを悟らされる。
(……やめろ。これ以上、我輩を揺らすな)
突き放さねばならないのに、振り払うことも、完全に無視することもできなかった。
長い沈黙の末、やっと絞り出した言葉はただ一つ。
「……時間が欲しい」
それだけを残し、背を向けた。
──独りきりになった後。 胸の内に去来するのは、ただ一人の面影。
リリー。 彼女は、自分にとって永遠の存在。愛した人であり、深く傷つけてしまった人。決して消えることのない後悔と、赦しを乞うことすら許されぬ過去。
(……イリスに心を向けることは、リリーを忘れることになる)
(再び同じ過ちを繰り返すのではないか?)
怖かった。怯えていた。 だが分かっている。今の態度はイリスを苦しめている。 このままでは、彼女が心を閉ざし、闇に飲み込まれてしまうかもしれない。
それでも、この気持ちを認めてしまえば……。
拳を握りしめた、その時。
「セブルス」
月光の下、落ち着いた声。振り返れば、ダンブルドアが静かに立っていた。
「新しい存在へと思いを馳せるのは、死者を忘れることにはならん」
まるで心を読んだかのような言葉に、スネイプは固まった。
「リリーから学んだことを忘れず、同じ過ちを繰り返さぬことこそ、彼女への誠実さじゃ」
その瞳は静かに、しかし強く光を宿していた。
「セブルス。お主が抱いたその気持ちは、リリーへの愛とは似て非なるものじゃ。 リリーはお主に、囚われ続けることを望んではおらん。 きっと前へ進んでほしいと願っておるはずじゃ」
言葉が胸を震わせた。
気持ちが傾くことはリリーを忘れることではない。
リリーから学んだものを胸に刻み、同じ過ちを繰り返さぬよう生きること。 それこそが、彼女への誠実さなのだ。
スネイプは長く息を吐いた。 自分の心から逃げることをやめようと決めていた。
(……時間はかかるだろう。だが、もう逃げはしない)
冷たい石壁に影が伸びる。 その影は、ほんの少しだけ揺らぎながらも、確かに前へと進もうとしていた。
